ぬいぐるみの効果
わたしの生徒(特に1年生、2年生)はよくぬいぐるみを連れて日本語のクラスルームに来る。日本の学校ではおもちゃなどは基本的に持ち込み禁止だと思うので、あまりそういうことはないかな、とは思うが。
ぬいぐるみを持ってきている子には、「その子の名前は何?」って聞く。そして、ロール(出席)を取るときに、生徒の名前の後に、そのぬいぐるみの子の名前も呼ぶ。そして、生徒には「フラッフィーちゃん(ぬいぐるみの名前)はちゃんとしてるかな?」と聞くのだ。そうすると、たいてい、生徒はぬいぐるみをちゃんと座らせたりする。そして、ぬいぐるみの代わりに生徒が「はい!」と日本語で返事してくれる。私は「ぬいぐるみをしまいなさい。」と言わない。それより、生徒と同じように扱う。そして、生徒もうれしそうに反応してくれる。もちろん、ちょっと大人びた生徒は「何でミユキ先生、そんなことしてるの?」と不思議そうに聞いてくる生徒もいる。でも、たいていはクラス全体が和やかな雰囲気になる。
「お、フラッフィーちゃんはちゃんとひらがな書いてるかな?」
「うん、書いてるよ。」
生徒にとってはぬいぐるみは友達だ。とても大事なものなのだ。
そして、今日見た動画でぬいぐるみは大人の心も癒すということがで分かった。
読売テレビニュースの動画で、亡くなったペットのぬいぐるみの制作している動物造形作家の北島央子さんを紹介していた。ぬいぐるみ一体の値段はけっして安くはない。36万円ぐらいするとのことだった。けれども、依頼は殺到していて、半年から一年待ちだという。
北島さんはテディベアを制作していたのだそう。人気がでて、デパートで彼女のテディベアを売っていた。ある時、テディベアをみたお客さんが
「この耳が垂れていたら、うちの~ちゃんに似てるね。」と言っているのが耳に入った。そして、ペットに似せて作ってほしいという注文がきて、それが今の仕事のきっかけになったということだ。
北島さんはまるで本物のようなぬいぐるみを、飼い主が満足してくれるように心を込めて精一杯の力を注ぐ。飼い主に「これはちがう!」と言われないように。ミリ単位で調整していく。とくにコート(毛並み)は重要。そのため、海外から動物の毛を輸入し、必要であれば自分で染色し、その子の顔立ち、姿、体毛を極力再現できるように努める。
注文したぬいぐるみが届けられると、依頼主さんは、ぬいぐるみとして帰ってきた我が子を見つめ、慈しみ、撫でながら、涙をながしていた。
「まあ、写真だけで、よくこれだけそっくりに。」依頼主はびっくりする。
画面を見ていた私にもいつの間にか涙が。
たかがぬいぐるみ、されどぬいぐるみ。
完成したぬいぐるみのわが子をなでながら、
「これから一緒に生きていこうね。」
と依頼された方が言った言葉が印象的だった。
ぬいぐるみが人間に生きる力をくれたのだ。我が子がいなくなる心配がないということはその人にとってとても安心でいられるのだという。
わたしはソレントくん(写真の緑のバニーのぬいぐるみ)をなでながら、ぬいぐるみは生きていなくても、人間にとってとても安心感をあたえてくれているのだな、と思ったのだった。