【with wedding vol.39】コロナがもたらしたポジティブな側面を考えてみる

※株式会社リクシィ代表安藤が寄稿したウェデングジャーナル
連載号:2020年10月号 第131号 の内容を転載しております。

ウェディング業界でもコロナ禍によるシビアな状況が次々と顕在化

本稿を書いているのは9/30になります。

業界内でもインパクトの大きなニュースは出てきており、
・大手海外挙式事業者が株式譲渡
・大手海外挙式事業者が希望退職者を募集
・大手結婚式場が広告出稿を全停止
・各エリアで不採算店舗の撤退が徐々に発生
・ウエディング媒体の撤退も発生
といった話が如実に増えています。

この手の話は1日や1週間で決まることではなく、短くても数か月はかけて準備・交渉・調整が進んでいたはずですから、これらは氷山の一角であり、この3倍程度になることが予想されます。

コロナがいつ収束するかは誰にもわからない以上、今の環境下で生存できる方法を見つけておくこと以外、確実な方法は無いと言えるでしょう。ただ、暗い話ばかりでもつらいということで、本稿では、「コロナがもたらしたポジティブなことは無いのか?」について紹介していきたいと思います。

今の状況でポジティブになれる業界人はいないと思いますが、あえての話としてお付き合いいただければ幸いです。

対顧客:結婚式が新郎新婦のものから新郎新婦とゲスト全員のものへ

コロナにより、新郎新婦が結婚式をやりたいと思ってもできない構造が生まれてしまったことは悲劇と言えるかもしれません。その中で突破口を見つけるためには、新郎新婦が配慮をしている親族やゲストが参加したいと思えるかが重要となります。

従来の結婚式場のオペレーションでは、当日は親族やゲストに強く意識が向けられていると思いますが、準備段階は新郎新婦とだけの関わりがほとんどだったはずです。

ただ、今、結婚式の延期キャンセル対策としてできる数少ないことの1つは、準備段階から親御様を中心とするゲストの方々とのコミュニケーションをとること。これは、個対個のコミュニケーションももちろん必要ですが、式場の情報発信も重要です。

ゲストは結婚式に行くか行かないかを検討するにあたって式場のwebサイトやSNSを見ています。そこで、安心できる情報を提供できているかいないか、その差は大きくなります。
一貫性プランナーの式場の方が延期キャンセル率も低いと言われていますが、人間関係以上に、新郎新婦の式場決定前からの背景やなぜ自社に決めたのかという文脈理解を元に対話できていることが大きな要因と考えられます。

決められた手順を進めるだけではカバーできない。かといって、新郎新婦を支えてこられた方々のケアを準備段階から必要とされることの負荷は極めて大きい。ですが、それらの方々の想いを汲み取ってつくられえる結婚式当日はある意味、全員が当事者であり、今までと全く違った体験になるはずです。

画一的などと結婚式の意義が突き付けられてきた流れを踏まえると、それを解消する大きな潮目の変化になりえると言えるでしょう。

対社会:透明化と発信

結婚式が社会から揶揄されてきたことは、画一的なことともう1つ、ブラックボックスが大きいことでした。今回のキャンセルを巡る世間の報道に対して、リクシィでも「withコロナ時代の結婚式宣言」で一石を投じたところ、「そのような対応をしている式場の方が多かったとは知らなかった!」と想像を絶するメディアが反応してくれました。

これは、ただ世間が知らないだけだということを示しています。双方の言い分も聞かないまま、片方の言い分で報じられているとすれば、それはブラックボックスを残している業界に非があると言わざるを得ません。

対顧客───それは新郎新婦のみならずゲストも含めて───への情報発信の必要性が高まっていることを好機ととらえて、結婚式場自身の情報発信を強める機会になるはずです。特に今なら、発信に長けている式場の方が少ない状況であり、リターンが大きい状況。発信は人の稼働で可能です。

そのような動きをする式場が増えれば、結婚式の透明化が進み、結婚式を取り巻く社会の見え方に対して、大きな変化を期待できるでしょう。

対社員:組織の枠を超えたつながり

コロナ禍で起きた大きな現象の1つに、オンラインが挙げられます。リクシィでも4月から9月にかけてほぼ毎週19回のオンラインセミナーを開催し、延べ3200名以上の登録者、10000以上の再生回数となっており、過去の業界内のイベントでは考えられない数の方にご覧いただいていたことになります。それ以外にも、SUEHIROや祝い人の夜明けなど、様々なオンラインコミュニティがあり、9/1よりブライト夏目さん、メディアハウスプロモーション鈴木さんと一緒に、シンカ系ウェディングサロンもスタートしました。様々なところで、会社の枠組みを超えたつながりが生まれていることと思います。

ウェディングの会社に勤めると、社外とのつながりが極めて少なくなる構造とその課題について言及したことが何度かありますが、今回のコロナで、きっかけさえあれば積極的に外に知見をとりにいきたかったという層が、どんどん横につながっていったことは大きな転機になりえます。

各社の戦略は違うのは当然ですが、業界全体の意思統一があまりにされていない状況はただの散発で終わってしまうもの。それが抽象度の高いレベルで認識がそろっているだけでも、3本の矢理論で効率化され、世の中に与えるインパクトは強くなるものです。

どこかの会社がシェア10%を超えることは考えにくい以上、エリアエリアの盟主たる企業がエリアごとに発信をして、その内容が総合的に大きなうねりになっているという展開を狙うほかないと考えられます。その基盤ができたことは、非常にポジティブなことです。

おわりに

今回のコロナ、業界にとっては、少子化やご祝儀危機が起きた時のシミュレーションだったと捉えることもできます。

ハンコの廃止など「すでに予兆が起きていた現象を5年前倒しした」と評されることもありますが、ウェディング業界もかねてから、少子化や実施率の低下、ご祝儀制の限界といった議論がされていました。

ここについては、すべての人が危機意識をもっていましたが、具体的な行動を本気で行い結果を出したと会社はほとんどないと言えます。もし仮に、コロナも起こらず、じわじわと少子化の影響やご祝儀危機が訪れ、クリティカルなラインを越えてしまうという展開だった場合、気が付いた時には業界はもう立て直せなかったのではないでしょうか。冒頭に述べたように悲惨な状況は起きていますが、それもいつか現実化する未来を前提に置くなら、今回のコロナはある意味では多少はマシと言えるかもしれません。

この状況はいつか収束しますし、その際には例年よりも多い受注残がキャッシュに変わって、コロナを理由に新規見学を我慢していた層がある種の特需として戻ってきて復活するチャンスがあるわけです。

その間に供給過剰と言われた業界構造が間引きされ、お客様と結婚式場・ベンダー、結婚式場と媒体、媒体とマーケットの関係が健全なバランスになれば、産業単位のリストラクチャーにより、ウェディング産業を復活しやすい状態になると考えることもできます。

また、各社、ウェディングだけでは経営が厳しいという場合に、どんなオプションがあるのかを実験・経験することができたとも言えます。今の期間だから得られる経験を未来につなげる、それはコロナ無しには経験できなかったことと言えるはずです。

不確実性の高い状況では、どう対応するかよりもどうなりたいかで決断し、戦況に合わせて柔軟に対応していく姿勢が必要とされます。今回の件を、短期中期長期、ミクロとマクロの両方の目線で捉えることができれば、自社の立ち位置も見つけやすくなり戦略もクリアになるのではないでしょうか。

もちろん非常にシビアな状況であり、それは当社も変わりません。ですが、だからこそ願いをこめて、あえてポジティブな側面に光を当ててみました。1日も早く、安心して結婚式が当たり前に行われている日が来ることを願います。

安藤 正樹 - Masaki Ando
株式会社リクシィ代表

花嫁の不安を“トキハナツ”式場探し「トキハナ」を提供するウエディングプラットフォーム事業、ブライダル企業の事業をサポートするブライダルコンサルティング事業、ブライダル特化の人材紹介サービス「リクシィキャリア」などを提供するブライダルビジネスサポート事業を柱に展開。
ブライダル業界の構造改革、結婚式であふれた世界を創ることを目指しています。

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