ABC殺人事件
ABC殺人事件
https://www.mystery.co.jp/programs/the_abc_murders
マルコビッチがこれまでにない新たな名探偵ポワロ像を作り上げ話題となった作品
2018年
「君は何者だ」
劇中で何度もポワロに問われる言葉。
時は過ぎ、人々から軽んじられて、かつての栄光を頼りにパーティーに呼ばれて昔話を語ることで生計を立てているポワロ。
その頃のイギリスでは外国人排斥運動が流行り、外国人というだけで生きづらい環境になるのはポワロも例外ではなかった。
名前だけは広く知られていたので毎日のように届く嫌がらせの手紙の束。その中に気になる手紙が紛れ込んでいた。差出人はABC。退屈な世の中にゲームをしないか、殺人ゲームを。君はそれを止められるかな?
尋常ならざるものを感じたポワロはスコットランドヤードに出向くが、かつての友ジャップ警部は既に引退し、代わりの警部には相手にされずやる方なく警察を去る。引退したジャップに会いに行くと、我々の時代は終わった。余生を楽しもうと食事に誘われたとき、ジャップは発作を起こしてこの世を去ってしまう。
ジャップの葬儀では後輩警部に疫病神のように扱われる。「君のことは調べたが、警官だったというのはウソだろ。記録がない。君は何者なんだ」
「記録が失われただけだ、私は警官だ」と言って去るポワロ。
ポワロには繰り返し思い出してしまう情景があった。のどかなライ麦畑。一人の男が走ってくる。「奴らがくる」銃声と共に倒れる男。それとは別の苦悶する若い男の顔。
目が覚めたポワロにまた次の手紙が届けられていた。「さあゲームを始めよう。Aで始まる土地で殺人事件が起こる…」
警察でも相手にされず無力なポワロは教会で考えていた。ポワロを目にした神父が「告解しませんか?そうすれば楽になりますよ。神は全てを赦します」「私は楽になどなりたくはない。苦しみに直面していたいんだ」そして殺人事件は起こった。Aの土地で、Aの頭文字と名前を持つ人物が。
(ネタバレ)結末へ。
ポワロが何度も思い起こす風景の中にポワロもいた。神父の服装を着て。信者たちを教会に匿い、ここは安全だと諭し、教会の外に出て兵士たちを諌めようと。射撃命令を出す上官の声、若い兵士は殺すことを躊躇していた。近づくポワロ。銃声がして若い兵士は倒れる。上官による銃撃だった。殴られて気を失った神父ポワロが目覚めた時、教会は焼け落ちていた。多くの死、無慈悲な現実が、ポワロを探偵にしたのだった。
犯人はポワロを崇拝する人物だった。ポワロの苦境を見てもう一度輝いて欲しかった。今の君は見違えるようだ、と語る犯人。君はきっかけを待っていただけだ。と語るポワロ。私たちは同類だ、君の心の闇は深いようだ。その謎を教えてくれないか、と問う犯人。
昔のことを決して語らないポワロは、何も告げず、自分自身の過去と向き合い続けていた。