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芦沢央『汚れた手をそこで拭かない』感想文
羽田椿です。
芦沢央さんの独立短編集。
中身は以下の五編。
ただ、運が悪かっただけ
埋め合わせ
忘却
お蔵入り
ミモザ
表題作はありません。
『汚れた手をそこで拭かない』は五作品全体を表すタイトルということですね。
確かに、どの短編の登場人物も、故意でないにせよ、みんな手を汚してるんです。で、変な拭き方をしてしまったがために追い詰められていく。
ミステリというくくりになっていますが、なにかトリックがあるようなものではなく、人間の悪いところ、例えば、悪意、慢心、出来心、怠惰、ずるさ、そういうものが暴かれ、嫌な形で見ることになる、そういう作品でした。
うまいなあ、と唸ることしきりです。
短編だからかもしれませんが、ちょっとオチがあっさりしてるなあという気もしました。
ミステリとして読んでいたので、やはりどこか予測しながら読んでしまいましたし、想定を大きく裏切って欲しかったというか。
作者に対しての期待値が高かったのもあるんですけど、もっとぞっとしたかったな、とか。
いやいや十分すごいよこの本。というもうひとりの自分もいます。
最後の『ミモザ』なんかはね、すぐそこで落ちていく人を見ているような感じで、「もうやめときなよ、あんた」と思い続けながら読みました。
カフェとかで、マルチ商法にひっかかってる人とか、明らかに質の悪い既婚者にひっかかってる女性なんかに出くわすと、つい気になって話に聞き耳をたてちゃいますけど、その後のことはわからないじゃないですか。この作品ではきっちり見せてくれますからね。見てらんないですよ。読みましたけど。
本としてはちょっと薄め。芥川賞作品かなというくらい。すぐ読めます。一話のボリュームもそんなにないので、読みやすいと思います。
他の候補作を読んでみないとわかりませんが、この作品が直木賞でもぜんぜん不思議じゃないと思います。