西條奈加『心淋し川』感想文
羽田椿です。
西條奈加さんの連作短編集です。
中身は以下の通り。
心淋し川
閨仏
はじめましょ
冬虫夏草
明けぬ里
灰の男
時代物で、ひとつの長屋の住人たちが一話ごとに主人公になっていきます。
人情物というのでしょうか。
あまり普段読まないジャンルです。
こういうお話が心にあまり響かない体質なので、正直よくわからないです。
多分、いいお話なんだろうと思います。
この長屋が、どういうんですかね、どぶ川のどんづまりのほとりに建っているような感じの貧乏長屋なんです。
だいたい主人公が現状を疎むような出だしで、そこから小さな事件が起こっていきます。
住人たちはそれぞれ過去を抱えていて、それに追いつかれてしまうような話が多かった印象です。けど逃げられないわけです。他に行くところが、居場所がないから。
でも、ちゃんと今の居場所に希望を見出す。もしくはここにいること自体が幸せだというものもいる。
みんな、居心地がいいって言うんですね。人生をやり直すにはいい場所だとも。
貧乏長屋だと言ったって、身の丈に合った暮らしであればできるし、どんづまりっていうのは、これ以上落ちないという安心感があるのかもしれません。
実際は、もっと落ちる可能性はあるわけですけど、場所のもつ空気として、そうなのかなと。
おそらく、最終話で盛り上げて、いろいろ回収して終わる感じなんだと思いますけど、せっかく連作だし、もっと伏線張っておいてもよかったのになあとか思ったり。
短編小説で過去を持つ登場人物がいると、その説明と現在のパートのバランスが難しいなと思いました。過去に語るべきことが多いとなおさらです。連作ならもっと作品全体を使えたのではないか、などと好き勝手に思ったりしました。
全体的にクセがなく、読みやすいです。人情物が好きな方、たぶん、女性のほうが好きなんじゃないかな。おすすめします。