超短編小説:焼けた水
熱に溶けた古銭を見た。
微かに穴の開いた硬貨の趣を残しているが、ただの炭素の塊だった。
閃光、熱波、轟音。
そんなものとは無縁の公園。
私はただ、ベンチに座っている。
ペットボトルには水道水。服は貰い物とお下がり。プライスレス。
晴天の空。緑色の川の、潮の匂い。
私の前を真っ赤なストライプのスーツを着た小太りの男が通っていった。
額には脂汗。ネクタイは紫と金色の渦巻。しかも締め方が甘くて、シャツの第一ボタンが見えている。
スーツもネクタイも生地や仕立ては悪くなさそうだ。
けど、もったいない。
男のスーツとネクタイを憐れに思う。
けど、一緒か。
焼けてしまえば全部。
そう思うと、気が楽になった。
【終】