短編小説:凶みくじ
元旦の初詣って案外並ぶんだな……。
普段は人混みを避けるために正月三が日での初詣はしてこなかったのだが、なぜか今年に限って来てしまっている。
列も早いからなんとかなるかなって思ったんだけど……かれこれ三十分ほど列に並んでいる。
鳥居は見えてきているしそんなに大きな神社じゃないから、一時間待ちってところかな……?
思った以上に寒い。
やっぱり帰ればよかったと思いつつ、もうなんとなく後にも引けない。
スマホをいじりながら時間をつぶすかな。
手袋を外して鞄からスマホを出す。
電源ボタンを押すと「新年! 運試しおみくじ!」という通知が目に入る。
特に買い物がしたいわけでもないけれど、おみくじ企画をやっているネットショッピングアプリの通知をタップした。
フェイス認証でスマホのロックが解除され、降って取り出すおみくじの筒の絵が表示される。
画面が一度まっ白になると、おみくじの結果が表示された。
「凶」
お遊びのおみくじ企画で凶なんかいれるんじゃないよ……新年早々、テンション下がるわ。
スマホを持っている指先が冷えてかじかむ。スマホで時間つぶしをすることを諦めて、鞄の中にしまった。
手袋を付け直す。
ふと鳥居の前に目をやると男性が立っている。
誰か待ってるんだろうか。
そんなことをぼんやりと思っていると、男性の足元で何かが動いた。
あ、犬か。
大きな白犬が男性の両足の間に挟まっているのである。
白い毛並みが雪と同化して、ぱっと見わからなかった。保護色じゃん。
めっちゃ可愛い……犬も寒いよねぇ。ご主人様の足で両脇から暖を取りたくなっちゃうよねぇ。
ほっこりと眺めていると、鳥居から若い男性が出てきた。
若い男性は自分が着ているトレンチコートの中にトイプードルを入れて抱えていた。
こっちは人間が犬で暖を取っている。
ていうかそうやってあやすようにワンコを抱えていると暖かいのはわかるけど、まずは露出されてる首下にマフラーを巻くことが先だと思うんだよね。
若い男性の首元はオシャレのためなのかがら空きで、首が寒さで真っ赤になっていた。
若い男性が男性に話しかける。愛犬談義だろうか。
二言三言くらいの言葉を交わした後、若い男性は横断歩道を渡って帰路についていた。
列が進んで、鳥居の目の前までやってきた。甘酒の匂いがしてくる。
寒いねと語らう声。
頑張ったから抱っこしようといって、子供を抱っこして家路につく家族連れ。
人混みに進んでいきたいとは思わないけれど、たまにはこういうのもいいと思う。
とりあえず後ろで人様の悪口を言っている婦人二人は君たちが凍えればいいと思う。神の御前でなにやってんだ。
列が進む。鳥居をくぐる前に一礼する。
本当は脱帽しないとなんだけど、この寒さだから神様も勘弁してくれるだろう。
参拝所が近くなるとおのずと体感時間が長くなる。
足先指先が放っておいても痛い。トイレも心配になってくる。
屋台や御朱印があるところに目を向けて気をそらす。
おみくじと御朱印くらい買っていこうか。
ガラガラと小気味いい音が響く。
警備員さんが参拝客を誘導する。
ここに参拝にきている人は何を祈るのだろう。
また改めてゆっくりお参りしないと、積もる話はできないだろうに。
やっと賽銭箱の前に立つ。十円を入れる。
五円玉は調達し損ねたけど、同の音が一番響くっていうからいいよね。
鈴を鳴らして、二礼二拍手。そのまま手を合わせて目をつむる。
自分の住所と名前を言うより先に、神様たちに労いを申し上げる。
一気に人々の祈りを聞き届ける神様たちの労力たるや、尋常なものではなかろう。毎年毎年お疲れ様である。
人が多くて時間もないので、大学受験がうまくいきますようにとか、進学が決まって引っ越すことになったら無事引っ越せますようにとか、今年の目標やお力添えしてほしいことを端的に述べる。
あとは和楽永劫と唱え続ける。神学専攻の大学院生に会った時に教えてもらった言葉だ。
それでは、と目を開け礼をする。
すみやかに列から抜けると、おみくじが置いてあるところに向かう。
百円を箱に入れておみくじを引く。
すぐに人の少ない開けたところに出て、おみくじを開こうとした。
「凶だー!」
という驚き交じりの声がした。
声のした方をみてみると、老夫婦がお互いのおみくじを見せ合っている。
二人とも金色の紙のおみくじを持っていた。
あ、凶が出るとお守りに変えてもらえるやつだ。
二人ともおみくじを縦に折っている。結んでそのまま帰る気だ。
「すみません」
僕は声をかけた。
「凶引いちゃったんですか?」
老婦人が応える。
「そうなのよぉ。ねぇ」
老人がおみくじを見せてくれた。凶って書いてるやつはじめてだ。
「新年早々ついてねぇなぁ」
老人はおどけていった。
「これ、お守りと変えてもらえますよ」
僕もこの金色のおみくじはときどき引いている。
大大吉まであって縁起がいいのと、凶を引いたときはお守りと変えてもらえるからだ。
「『災い転じて福と成す』という意味で凶みくじを神社の人に渡すとお守りに変えてもらえるんです」
老夫婦が笑顔になる。
「よかったですねぇ」
「もしかしたら宝くじもあたるかもしれんな!」
老人がガハハと笑う。
「こういうときの方が宝くじも当たりやすいらしいですよ」
一昨日見たバラエティ番組の占い師がいっていた。受け売りである。
「にーちゃんありがとな!」
そうして老夫婦と別れる。
老婦人の凶みくじに気を取られて、自分のおみくじをみていないことに気付く。
「大吉」
やった。
細かい内容を読みたかったのだか、そろそろ寒さに耐えかねるので、先に御朱印売り場に向かうことにした。
隣の窓口の巫女さんに声をかけている老婦人を横目に、御朱印を頂く。
鳥居を出る前に一礼して、速やかに帰路に着く。
凶ではじまる一年もきっと悪くない。
〈終〉
【あとがき】
新年あけましておめでとうございます。
ほぼ実話です(笑)
小説を書いていくを考えているならば、やはり小説から始めるべきと急遽、書き下ろしました。一発書きです。
アイキャッチは年賀状書き下ろしです(あとで変えるかも)
小説が急遽だったので、作ってません。
もうまとめて出しちゃえ。
今年の抱負とかいろいろ書こうと昨日まで思ってたんですけど、寝て年越したら忘れてました。
基本的には今までやってきたことの拡張と維持、一新すると決めていたことに関しては決着を着ける年にしたいなと思っています。
物書きとしてはいい加減、長編を書きたいですね。
設定の地固めが大変で詰まってます。
そういう意味では本をたくさん読む一年にもしたいです。
そして早いところ第一次移住戦線に決着を着けて、一度腰を落ち着けたいです。
旅も楽しいし、執筆も進むし、仕事になるけれど、本筋の執筆を軸にしていきたい。
(第二次移住戦線があるかどうかはわかりませんが、あるとしたら一次決着後3~5年後以降になるかと思います)
そんな感じでありますが、みなさま今年もよろしくお願いいたします。
ではでは、また。