生活の中で石を飾る愉しみ
時計荘の作品は基本的に、普段の生活の中で石を安全に手軽に飾って楽しめるように作られています。
鉱物をコレクションするのは楽しい趣味ですが、前回の記事でも書いたように、生活の変化によって引き出しにしまい込んだ鉱物を取り出して眺めることが難しくなると、ほぼ死蔵しているだけで鉱物に親しむ生活も遠のきます。
難しいことは抜きにして、ただ美しい石、面白い石を眺めて暮らしたい。
疲れた時にふと、自分の好きな石が目にはいるような生活空間で暮らしたい。
そんな思いを叶えるための作品作りをしてます。
生活の中で石を飾り、石を眺めて暮らす。
と、書くとなにやらナチュラリストのようなオシャレ感がありますね。
ところが現実ではそう簡単なことではありません。
もちろん最初から鉱物専用棚を作り、ガラス戸に施錠をしてしっかり対策をすれば可能ですが、「普段の生活の中で」という点をクリアできていません。
趣味に時間とお金を存分に使える生活ならば自分だけの趣味部屋でいかようにもできますが、家族と暮らす中ではそれは難しい。
普段の生活の中で少しの潤いがほしい、疲れた時にふと目にはいるところにおいておきたい、という思いが私にはありました。
ここに工夫が必要なわけです。その工夫から時計荘作品は生まれてきたと言っても過言ではありません。
石なんかそのへんに出しておけばいいんじゃない?と思われるかもしれませんが、石が好きだからといって無造作に何も対策せず、石を飾って暮らすとどうなるか。
ここで一旦立ち止まって問題を整理してみましょう。
(ここで言う石とは岩石ではなく鉱物標本です)
1.埃が溜まる
石を雑然と並べると、案外埃がたまります。
石自体にも埃がかぶると払い落とすのも難しい形状のものや、埃そのものが天敵な性質のものもあり、保存状態は悪くなり石にとってはよくありません。
また、たくさん並べればその分掃除が大変に。
もちろんお掃除がこまめにできて、管理が億劫ではない方なら問題はないのでしょうが、私のようにできる限り掃除は楽にしたいと思うタイプの人間にはなかなかの苦行です。
専用のプラケースなどに入れて飾れば問題は回避できるのですが、生活空間の中でそれをそのまま飾るにはいかにも無骨で、暮らしに調和しているとは言えません。
違和感なく飾るには工夫が必要です。
2.落下や破損、誤飲等の危険性
生活空間に無造作に石を飾る、というのはかっこいいのですがそれは成人で健康な人間だけが暮らす空間でないと難しいです。
例えば幼児や老人がいた場合、鉱物への接触や誤飲の危険性、落下による鉱物の破損の危険はつねにあります。
鉱物には毒性のあるものも多くあるため、気軽に飾って事故に…ということを避けるためにも専用のケースがあるわけで、素のまま飾るのは安全とは言えません。
また人間だけではなく、室内でペットを買っている場合。
ききわけのよいペットだったとしても、危険性のあるものをむき出しでおいておくのはやはり心配ですね。
安全に飾るということを考えなくてはいけません。
3,湿気や紫外線による劣化
鉱物によっては湿気で劣化したり、紫外線で色あせたりしてしまうものもあります。
気がついたら色がくすんでしまっていた、なんて悲しいことになるのを避ける意味でも繊細な鉱物はむき出して飾るのはなるべく避けたいものです。
と、ごく一般的な生活空間の中に鉱物を飾る上での留意点を挙げました。
それでは、時計荘作品ではこの点をクリアするにあたってどんな工夫をしているのかをかんたんにご説明します。
1,埃や湿気に弱い鉱物を瓶の中に固定する
試薬瓶は中身が確認できる瓶なので、その中にガッチリ固定します。これで鉱物に直接埃がかぶることはさけられます。
また、理化ガラスメーカーに特注で側面のメーカー名を入れずに作ってもらっている秤量瓶は、化学天秤で揮発する液体などを正確に計量する目的の瓶で、密閉できるので外部からの湿気を防ぐこともできます。
これにより湿気に弱い鉱物を保護することが可能になります。
瓶は危ないのでは…と思われる方は、ぜひミュージアムジェルやミネラルタックで瓶の裏をしっかり固定してみて下さい。
我が家は東日本大震災を震度6の地域で被災しましたが、一つも落ちませんでした。
また、瓶自体はたまに羽箒でさーっと埃を払う程度で掃除も楽です。
2,子供やペットが触れないよう額装して壁面展示にする
鉱物ジオラマ額は書割のような楽しさもありますが、透過光での鉱物の観察や蛍光を観察できる昨日もあり人気のある作品です。
が、もともとは「幼児に触られると危険なものを壁面展示にする」ために私がシャドウボックスに鉱物を額装して飾ったことから作り始めたシリーズなのです。
手の届かない位置の壁にかけて飾ることで誤飲や接触を防ぐことができます。ガラス瓶を並べるのには不安のある環境でも、額装であればより安全です。
もちろん、額の前面はガラス板で覆われていますから、鉱物に埃がかぶることはありません。
お掃除も瓶同様、たまにさっと羽箒で撫でるように埃を払う程度で清潔を保てます。
3,紫外線に弱い鉱物を遮光できる容器の中に固定する
ガラス瓶や額の中に固定してある鉱物は暮らしながら安全に眺めることができるのがメリットでしたが、そもそも光が苦手な鉱物は遮光保存しなくてはなりません。
これに関しては眺めながら暮らすというわけにはいきませんが、より取り出したり持ち運んだりしやすい形として、アンティークのティン缶やジュエリーボックスの中に固定しています。
普段は蓋を絞めて遮光保存し、眺めるときだけ蓋を開ければ、褪色を避けて長く鉱物の色を楽しめる他、外に気軽に持ち運んで太陽光での蛍光を楽しんだりもできます。
以前お客様に伺ったのですが、カフェにこれらの作品を持っていってそっと眺めながらお茶を飲まれたり、長旅のお供や入院のお見舞いとしてご利用頂いているというお話も…。
中身はしっかり固定してあるので持ち運びが楽という利点があります。
このように、少しでも暮らしの中で好きな石を眺めていたい、という工夫が私の作品作りの根底にあります。
鉱物は生活には不必要なものですが、そういった不必要なものを眺めるちょっとした余裕が時にささくれた心を慰めたり、家族との団らんの時をより楽しいものにしてくれます。
ぜひ、鉱物を安全に楽しく飾る生活を、皆様も体験してみて下さい。
………………………
9月は相模原と中野の2箇所で展示販売会を行っております!ぜひお立ち寄りください。