パイオニア環境分析のつもり(12/1~18)機体で愛を打ち鳴らせ
■はじめに
いよいよ2022年も残り数日となりました。皆様いかがお過ごしでしょうか。
2020年1月に始まったこの環境分析、3年目も無事乗り切り、来月で4年目を迎えます。
始めた頃はまさか3年も続くとは思っていませんでした。執筆の傍ら、「そのうち公式が毎週記事を書いてくれるだろう」「フォーラムが出来て日夜議論が交わされるだろう」と思っていて、刹那的なコンテンツになるはずだったのですが、まさか自分のコンテンツが一番長く続くとは夢にも思わなかった、というのが今の偽らざる本音です。これもひとえに読者の皆様のおかげです。
これからもマイペースに細々と、しかし正確な分析と客観的な視点から、有意義な情報をお届けできればと思います。
年内の更新はこれで最後になると思います。
■メタゲームブレイクダウン
前回はIzzet Phoenixが久々に占有率1位を奪還しましたが、今回の期間は、特に12月前半でRakdos Midrangeへの回帰が起こり、その後も大きく占有率を下げずに推移しました。使用率は脅威の22.3%、デッキの4つに1つはラクドス、という状況です。押しも押されもせぬTier1の地位を確立しており、ラクドスに有利な要素があるかどうかでデッキの価値が決まる状態です。
Tier2以下が面白く、ほぼ横並びで8つのデッキが並んでいます。前回のTier1~2に位置していたMono-G Devotion、Izzet Phoenix、少し下のAzorius Control、Spirits、Lotus Combo、Mono-W Aggroは常連組。ここに勢いを取り戻してきたParhelion Shoot、そして一気に使用率が高まったGruul Midrangeが加わり、各デッキが使用率6~8%で第2集団を形成しています。
ラクドスの使用率22.3%は、9月~10月初旬の頃の使用率を超える数値です。しかしその頃にラクドスへの強さで使用率を伸ばしていた緑単信心が伸び悩んでおり、明確に下降線を描いています(グラフ内、緑の線)。
アグロ戦略が再び否定され始め、ミッドレンジ偏重傾向が加速しています。ミッドレンジへの対抗馬として高速コンボ(Parhelion Shoot、Lotus Combo)が選ばれ始めていることが数値から見て取れます。
■トピックス:ラクドスミッドレンジの変化
11月下旬ごろから、ラクドスミッドレンジに明確な変化が出始めました。それはプレインズウォーカーの不採用です。今回の入賞リスト62デッキのうち、メインボードにPWを採用したリストは6つ、9.7%という数値となりました。
もともとは同型や緑単信心に早期リソース勝負を挑むために採用された《ヴェールのリリアナ》ですが、後手時に弱く、また緑単信心にトップ叩きつけ合いまで持ち込まれた場合の不利は解消しきれませんでした。
ラクドスをとりまくメタゲーム上には、同型(の《クロクサ》)以外にも、+1能力を有効に使われてしまう可能性のあるイゼットフェニックスやパルへリオンシュートも存在することから、メインで有効に機能させることが難しくなってきました。白単アグロのような直線的なウィニー、インスタントスピードでクリーチャーが出てくるカンパニー系アグロの存在も、《ヴェールのリリアナ》を使いづらくしています。というよりも、ラクドスミッドレンジに勝つために、そうしたデッキが手に取られてきたというのが実情です。
ただし、ラクドス自体は直近のカードに恵まれているアーキタイプです。
特に、《ヴェールのリリアナ》不在でも「フタ」の役目をしっかりと果たす《黙示録、シェオルドレッド》、そして今回、PIG能力を封じ込め墓地の活用を防ぐ《苦難の影》が加入したことで、《ヴェールのリリアナ》に頼らずとも早期決着をつけるクリーチャー主体の構築が可能となりました。
そして皮肉なことに、ラクドス自身が2マナ圏のクリーチャーを増加させたこと自体が、《ヴェールのリリアナ》を必要としなくなる最大の理由となりました。彼女は更地、あるいは自分が有利な場でこそ強く使えるPWであり、相手がクリーチャーを連打するデッキではあまり強いPWではありません。-2能力はアドバンテージを稼げるように見えて、やっていることは《砕骨の巨人》とさほど変わらないことに気付くでしょう。
クリーチャー寄せの構築になったため、ミラーマッチを制する手段は《スカイソブリン》《勢団の銀行破り》といったアドバンテージの確約される機体となっています。また、除去もPWに触る必要がなくなったことから、インスタントスピードの《無情な行動》《パワー・ワード・キル》に置き換わっています。
サイドボードの研究も進み、同型では機体対策の《削剥》の需要が増え、緑単信心やパルへリオンシュート、ロータスコンボなどには、軽く有効なアクションの《真髄の針》を複数積むことで相性改善を図っています。
今後もラクドスミッドレンジを中心としたメタゲームが形成されることは間違いなく、「ラクドスを使うのか、使わないのか」「使うなら同型にはどのように優位に立つか」「使わないならラクドスをどうやって倒すか」を考えることがデッキ構築の第一歩となりそうです。
■注目デッキ
■注目デッキ1:Gruul Midrange(グルール機体)
チャレンジャーデッキの先見性に驚いています。
一部で「グルール機体」と呼ばれているグルールカラーのミッドレンジデッキが、Tier2に躍り出ました。細々と活躍していたアーキタイプではあったものの、ここまでの使用率になったことはなく、大躍進と言っていいでしょう。
マナベースに《カープルーザンの森》が加わり、安定したことが躍進の要因のひとつであることは疑いようがないでしょう。特に12/11のPioneer Challenge以降に増えてきた印象があり、12/18のPioneer ChallengeではTOP8に2名、TOP32に7名を送り込んでいます。
デッキの構成はシンプルで、マナクリーチャーからの2T目3マナ域の展開を目指しつつ、早期に大型機体《エシカの戦車》《領事の旗艦、スカイソブリン》を叩きつけ、マウントをとっていく戦術です。チャレンジャーデッキはこの枠が《栄光をもたらすもの》でしたが、より対処しづらい機体を中軸に据えています。従来の《エンバレスの宝剣》とも異なるアプローチです。除去の多い現環境を見越して、疑似的な生物を多く採用することで相性改善を図っています。この2枚の機体は、ラクドスミッドレンジが最も不得手とする類のカードです。
《鏡割りの寓話》があまりにも強すぎて陰に隠れていますが、《エシカの戦車》も単体除去で対処しづらい、非常に優秀なカードです。放置してしまうと一方的に盤面を制圧されてしまう点も似ています。(このリストでは採用されていませんが、《鏡割りの寓話》と一緒に採用しているリストも見られます。2者のシナジーも抜群です!)
ゲームレンジはラクドスより速いため、最後の押し込みに《アクロス戦争》を採用するリストがほとんどです。これもカードパワーが高く、特に3章まで持ち込むと機体以外のクリーチャーはほぼ全滅してしまいます(一見《シェオルドレッド》は大丈夫そうですが、接死を持っていることが災いし、戦争の終結に巻き込まれてしまいます!) アクト効果でダメージを与えつつ、最後は無人の荒野となった戦場を機体や《変わり谷》が駆け抜ける――というゲームプランが理想です。ラクドスよりは緑単信心戦で真価を発揮するカードになり、サイドボードに追加採用しているリストもあります。
サイドボードからは、これまた対処の難しい《熱烈の神ハゾレト》が走ってきます。クリーチャーが奇数に寄っているため《絶滅の契機》避けとしても優秀で、ラクドス側は偶数選択をせざるを得ないでしょう。《税血の収穫者》で処理されることはありますが、《ヴェールのリリアナ》が激減したことの恩恵を受けた1枚です。
アーキタイプとしては発展途上で、明確な枚数などはこれから定まってくると思います。動きがシンプルな分、初心者にもなじみやすいのが魅力ですが、同時に使い手の腕の出やすいデッキでもあります。チャレンジャーデッキからの改造も比較的容易なので、ぜひここからパイオニアにエントリーしてみてください!
■注目デッキ2:Izzet Phoenix(イゼットフェニックス)
変化が起きているのはラクドスだけではありません。イゼットフェニックスは構成を「重く」することで環境への適応に挑戦しています。
具体的には《弾けるドレイク》のメイン採用や、《パズルの欠片》《宝船の巡航》といったアドバンテージカードのフル採用にその片鱗が見られます(中には《鏡割りの寓話》を採用するリストや、《フェニックス》を2枚まで減らしているリストもありました)。
以前は「いかに《弧光のフェニックス》を3ターン目に繰り出すか」にこだわった形でしたが、今は《思考囲い》デッキがトップメタということもあり「手札を整えた後、ギアを上げて一気に勝負を決める」という、ミッドレンジやコントロールに近い戦略にシフトしています。
サイドボードは最近のラクドスを始めアーティファクトが多い環境になってきたことから、《削剥》が多く採用されているのが特徴的です。
《引き裂く流弾》もパルへリオンシュートやスピリット相手に構えやすい点が重宝されています。白単人間の《エーデリン》が落とせる点も高評価の一因で、様々な赤いデッキの定番サイドボードになりつつあります。
いずれも、スペルを連打するイゼットフェニックスでは価値が高いカードです。
Tier2に位置しつつも、いろいろな形で試されており、リストごとに特徴は異なります。ぜひリストを見る際は「どういったゲームプランを思い描いているのか」「トップメタに対する戦略はどうなっているか」を考えながらひとつひとつのリストを見ると、新たな発見が生まれるかもしれません。ご使用の際はぜひカスタマイズのカード選択幅を多めに見積もるといいと思います。
■終わりに
チャンピオンズカップ サイクル3において、ファイナルのフォーマットが再びパイオニアであることが発表されました。店舗予選ではスタンダードやモダン、リミテッドでの開催もありますが、前回までの傾向を見ると、スタンダードに加え、パイオニアでの開催が多くなることが想定されます。
1~4月の開催で、2月発売予定の「ファイレクシア:完全なる統一」発売と日程がバッティングしますが、1月開催分は現環境のままとなります。ぜひこの環境を深掘りして、素晴らしい成果が得られることを期待しています。
少し早い気もしますが、本年も当noteをご愛顧いただきありがとうございました。よいお年をお迎えください。