パイオニア環境分析のつもり(9/19~10/3)模範と鏡とチャレンジャー
■はじめに
『団結のドミナリア』が発売されて1か月、いかがお過ごしでしょうか。サイクル1の地区予選シーズンも終わり、11月末のチャンピオンカップ権利を獲得された方、またラストチャンストライアルに向けて、引き続きパイオニアの調整に専念されることと思います。
公式や大手カードショップも、その流れに合わせて遂にパイオニアの情報発信を始めていました。
もうこのnote要らなくない!?!?と思いましたが、なんだかんだで惰性で続けてきました。(もともとこのnote記事も原根さんが以前ブログで連載していた流れを汲んだものだったんですが・・・)
今までに見たリストの数は13,000以上、言及してきたデッキも100以上になります。さすがにこれだけのデータを集計し続けてきた暇な人は他にいないのでは。継続は力なり、ではないですが、長く環境を見続けてきたからこそ伝えられることもあるのではないかと思います。
■メタゲームブレイクダウン
Rakdos Midrangeが強く、次いで構造的に有利(とされてきた)Mono-G Devotionが続きます。ただしラクドスミッドレンジが長期戦を許さないリソース勝負を仕掛けてくるため、緑単信心に以前ほどの優位はありません。
加えて、ミラーマッチも頻発することから、ラクドスミッドレンジはリソース勝負を見据えたカード選択を行うようになっています。
内容の変遷は、こちらのnote記事のデータが詳しいと思います。
(当方の前回記事が引用されています)
リソース勝負のために犠牲にしたのはテンポに直結する軽量除去や《墓地の侵入者》――よって、アグロデッキが相対的に勝ちやすくなっています。今回のSpiritsやMono-W Aggro、Atarka Redの増加などは、そうした背景によるものと推測されます。
《ヴェールのリリアナ》マウントという負けパターンはあるものの、依然として緑単はラクドスに対しそこまで不利にはならないので、使用率は増加しています。ラクドス・緑単両方を睨めるSacrificeは堅調ながらやや数字を落としているのに対し、横並べ展開が得意なスピリットや白単アグロは上記背景から増加傾向にあるようです。
ただし、全体の使用率ではまだまだミッドレンジ偏重傾向で、さらに拍車がかかっている傾向にあるため、まずはラクドス・緑単の2者にしっかり勝てる構築を行うことが必要になります。ただし使用率の上昇を見る限り、両者に勝てるデッキの構築は難しく、どちらかを握って同型に勝つ工夫をする、というほうが近道になっている、とも推測できます。
■注目デッキ
・注目デッキ1:Mono-G Aggro(緑単信心アグロ)
緑単信心の亜種ですが、デッキコンセプトが明確に異なるため紹介します。この型は先月頃からPreliminaryやLeagueで登場し始めましたが、ChallengeのTop 8で見るとは思いませんでした。
基本は緑単信心と同様で、マナ加速から除去体制の高い《老樹林のトロール》《茨の騎兵》を叩きつけ攻めつつ《ニクソス》から大量のマナを出せる状態にしつつ、そのまま攻め続けるor他の勝利手段を絡めてフィニッシュ、というものです。
従来の緑単信心は《大いなる創造主、カーン》からのシルバーバレットや無限コンボで勝利するのが主軸でしたが、環境が早くなったこと、《ヴェールのリリアナ》が早期リソース勝負を仕掛けてくること、試合を引っ張った際の《絶滅の契機》がクリティカルなことから、早いタイミングでの勝利手段を積む必要が出てきました。
このリストでは、《探索する獣》《ウルヴェンワルドの奇異》の2種をアタッカーとして採用、複数展開による早期決着を目指します。なぜこのチョイスなのかというと・・・
4マナ圏なので《絶滅の契機》での一括除去が狙えない
速攻持ちのため全体除去などの切り返し手段として優秀(ラクドスの除去がソーサリータイミングに寄っていることを意識。《収穫祭の襲撃》がフィニッシュブローになり得る)
トランプル持ちで相手PWを攻めやすい(同型、ラクドス、アゾリウスコントロールなどを意識)
《エメリアのアルコン》など、従来の緑単信心が苦手としていたカードを苦にしない(大量マナが出るのに手札がダンプできない状況でも、《奇異》の変身能力に使えば無駄なく大打点を叩き出せる)
など、従来の緑単が苦手とする《絶滅の契機》や各種PWへの対抗手段となるだけでなく、ゲームを早期に終わらせることでゲーム優位を維持したままゲームをクローズできます。
ゲームスピードも速く、攻め一辺倒のデッキなので使いやすい点も魅力です。ぜひ一度試してみてください。
・注目デッキ2:Orzhov Midrange(オルゾフミッドレンジ)
前項でも触れた緑単信心がTier1を維持している理由のひとつに、「生物群の除去耐性の高さ」があります。《老樹林のトロール》はマナ加速や生物生成手段を残し、《茨の騎兵》はカードの再利用を許します。これでPWを守って大量のアドバンテージを取られるため、これらへの対処は必須です。
ヘイトベア―戦力を活用しつつ、「使うなら追放除去を」というコンセプトで組まれたのが、このオルゾフミッドレンジです。
《消失の詩句》《スカイクレイブの亡霊》という超強力な追放除去2種で相手の戦力を削ぎつつ、《選定された平和の番人》《思考囲い》などで手札や盤面をコントロール。《ロルス》《絶望招来》でリソース優位に立ち、そのままフィニッシュまで持っていく、というのが王道パターンです。
このデッキがある程度勝つということは、環境での追放除去の有用性が一定の相手で認められたということでもあります。具体的には緑単信心やイゼットフェニックス、その他除去体制のあるクリーチャーを擁するデッキ全般に有効な戦略です。
DMUからは《進化した潜伏工作員》《選定された平和の番人》が採用されています。
特に《進化した潜伏工作員》は、ゲームレンジを相手に合わせて調節するこのデッキではかなり重宝される存在で、手札を温存して攻める場合は積極的な能力起動、速いデッキ相手などに大量展開したい場合は能力起動を後回しにする、など柔軟な取り回しが可能です。
起動コストが軽いのも魅力ですね。
ラクドスミッドレンジ相手にはやや苦戦しそうな気がしますが、使いこなせればかなりの相手と互角以上に戦えます。今後要注目のデッキです。
・注目デッキ3:Boros Devotion(白単信心t赤)
トーナメントシーンでは信心=緑、と認識しがちですが、スタンダードで信心華やかなりしときは黒単信心が一強、次いで青単信心、緑単信心、赤単信心とバリエーション豊富な信心デッキがありました。
白も当然組まれましたが、相性の良いカードが環境に少なかった関係か、使用者はまばら、入賞も数えるほどでした。
パイオニアでは設立当初よりたまに見かける白単信心、今回も何度目かの「プチ流行」が来たようです。
基本はビッグマナに頼らず2~3マナ域のEtB能力持ちウィニーで攻め立てるのが序盤のアクションになります。
中盤からは相手の脅威を《岩への繋ぎ止め》《ポータブル・ホール》《スカイクレイブの亡霊》といった追放除去で対処して、また小型クリーチャーが墓地にいれば《救出専門家》で再利用し、ビートダウンを続行していきます。特に、1マナの除去2枚はテンポよく繰り出せるため、ビートダウンの展開を阻害しません。
除去などで攻め手が足りなくなったり、膠着状態に陥ったときは、満を持して《ニクソス》の出番。緑単信心同様、大量マナから《エルズペス、死に打ち克つ》や《カーン》からのシルバーバレットへと繋ぎ、相手の脅威にピンポイントで対処しつつ、攻めを繰り出していきます。
《岩への繋ぎ止め》を使うためタッチ赤で組まれており、この赤マナを利用して、環境屈指のパワーカード《鏡割りの寓話》がフル採用されています。主に余剰の土地を他のリソースに変換しつつ、EtB持ち各種クリーチャーとのコンボも狙います。
DMUからの新戦力は《セラの模範》。《ルールス》能力に加え素のスタッツもよく、そのまま使っても強いですが、《魅力的な王子》でブリンクすることで1ターン1回の制限を外し、能力を2回使うことも可能です。《ニクソス》のビッグマナから、失ったリソースを一気に回復することも可能です。
なお、《セラの模範》の能力は「戦場から墓地に置かれたときに追放する」ので、《鏡割りの寓話》を墓地から呼び戻して3章を迎えた際、《寓話》は「追放される」ので、普段通り裏面に変身可能です。非常にシナジーの高い組み合わせと言えるでしょう。
環境で有効な追放除去を使いつつ、ビートダウンという骨子を崩さずに、継続戦闘能力やシルバーバレット戦略をバランスよく取り入れた面白いデッキになっています。一味違う《ニクソス》デッキを使いたい人におススメです。
■終わりに
つい先日、パイオニア・チャレンジャーデッキの全容も判明しました。
デッキはイゼットフェニックス、ディミーアコントロール、グルールストンピィ、オルゾフヒューマンの4種。どれもTier1ではないものの(イゼットフェニックスは少し前まで押しも押されもせぬTier1でしたが)、個性がありつつ一貫性のあるデッキに仕上がっていて、デッキを買ってすぐに参加、ということも十分可能だと思います。
欲を言えば前年の4種ほどコンセプチュアルな出来ではないこと、Tier1レベルへの改良が難航しそうなことですが、「とりあえず持っておく」資産としては十分かと思います。
前年同様、ここからパイオニア競技人口が増えることを期待したいと思います。スタンダードを主戦場としている方には特におススメで、ローテーション直後ということもあり、お気に入りのカードを再度使うチャンスにもなりますよ。
ぜひこれをきっかけに、パイオニアを始めてみてください!