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オムライス協奏曲

オムライスを食べるときは、前の日の夜から「明日はオムライスを食べよう」と心に決める。
高カロリーな食べ物であるという理由もあるが、オムライスを食べるという行為そのものが、どこかしら儀式的な雰囲気をまとっている気もする。

小さいころ、母が作ってくれたオムライスは、よくある家庭のオムライスだった。ケチャップをたっぷり絡めたチキンライスを、卵の薄焼きで包む。
ケチャップでイニシャルをデコレーションしてもらう。
子ども心にこの一連の思い出が楽しく、オムライスを食べるという行為を特別な儀式のように感じているのかもしれない。

初めてよくある家庭のオムライス以外のものを見たのは、伊丹十三監督の「たんぽぽ」という映画だ。
ホームレスのシェフが勝手にレストランのキッチンに忍び込んで、主人公の息子のためにオムライスを作ってくれる。たっぷりの卵をフライパンに流し込み、くるくると菜ばしでかき混ぜると、まるで卵液が意志を持ったようにふわふわのオムレツになる。チキンライスの上に、オムレツをそっと乗せて、ナイフで縦に切り込みを入れると半熟状の卵が滝のように流れる。

これは洋食の老舗、たいめい軒の監修によるものだったらしいが、子ども心に「こんなワクワクするオムライスがあるのか」と感動した。
大人になってからは色々とオムライスを食べ歩いたが、街の中華で提供されるような野性味あふれるオムライスよりも、洋食屋で供されるかしこまったオムライスが好きだ。

今では都内を中心にオムライスも色々進化している。たとえばインスタグラムなどでよく目にするのは銀座にある「喫茶YOU」のオムライスだ。一度食べたら忘れられないほど濃厚と評されるが、それもそのはず、卵の中にたっぷりの生クリームが入っている。一度食べてみたことがあるが、あまりの濃厚さに最後まで食べ切るのが大変であった。

茅場町にある洋食店「にっぽんの洋食 新川津々井」には、トロトロオムライスなるメニューがある。なんとこちらのオムライスは、あらかじめご飯に具材と卵が全て混ぜこまれた状態で出てくる。手前には生クリームを使用した濃厚なトマトソース、奥側にはトマトケチャップベースのソースが敷かれていて、見た目も美しい。
リゾットをほうふつとさせる口あたりで、オムライスという名の何か別のものを食しているような気持ちになる。

こちらの津々井には、のれんを分け合ったという赤坂のお店がある。こちらでは、なんと真っ白なオムライスをいただくことができる。
包まれたライスはチキンライスではなく、エビやカニのほぐし身など海鮮を混ぜ込んだもの。昆布だしととびこ(トビコ)を添えていただく、和風のオムライスだ。最初は白身だけ使っているのかと思ったら、鶏にエサとして玄米を与えているため、白っぽい黄身になるのだとか。ライスに混ぜられた鶏ガラやスープのだし、海鮮のうまみ、昆布だしが合わさって、まさにオムライスの協奏曲といった感じだ。

鶏に玄米を食べさせているから黄身まで白くなるという、赤坂津々井のオムライス。

都内を中心に進化系オムライスは数多くあれど、やっぱり最後は王道のチキンオムライスに落ち着く。
卵をふんわり厚めにして、濃い目のケチャップライスを包んだものが好みである。具材としてエビが入っていると尚よい。
イメージは「資生堂パーラー」のオーソドックスなオムライスだが、残念ながらこちらはチキンのみでエビが入っていない。なかなか好みにジャストフィットするオムライスを探すのは難しい。

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