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ハレの日のうなぎ、ケの日のうなぎ
ときおり発作的にうなぎを欲するときがある。
頭の中がうなぎのことでいっぱいになって、うなぎを食べるまでそれがおさまらない。 うなぎとは、人間の脳内に麻薬物質を発生させる食べ物なのかもしれない。
うなぎはハレの日の食べ物なので、今日は美味しいものを食べようとか、奮発しようというときに食べることが多いだろう。 そういうときは、やはり老舗のうなぎ屋に行って、雰囲気込みで味わうのが一番だ。
身近にある老舗といえば、やはり「野田岩」だろうか。麻布の本店に行ったことはないが、「野田岩」の看板が大きく中央に鎮座しており店構えはまるで蔵のようで趣深い。 「野田岩」のうなぎの身は柔らかく、万人に愛されるうなぎだと思う。
いつも横浜高島屋の店でいただくが、休日にデパートでうなぎを食すという行為そのものに特別感を感じる。
老舗のお重がハレの日のうなぎだとしたら、ケの日のうなぎもある。うなぎ串の店だ。
渋谷にある「元祖うな鐵」では、備長炭を使った炭火焼の串焼きを楽しめる。うなぎのお腹の身をいただく「くりから」や、ニラとともにヒレを巻いたもの、頭を串に刺した「かぶと」など、バラエティに富んだ串が楽しめる。
うな重をいただくときのような気取った感じもなく、大衆居酒屋として酒とともに楽しめるうなぎといった面持ちだ。
初めて食べたときは、ヒレやかぶとの食感や、やや苦味のある味わいに度肝を抜かれたが、食べ進めているとクセになってくる。
ちなみに、都内を中心に「うな鐵」といううなぎ串の店が多数あるのでチェーン展開していると思ったのだが、そうではないらしい。
渋谷「元祖うな鐵」の主人、渋谷貞森市六氏が、1957年に高級品だったうなぎを気軽に提供したいという思いで始めたのだそうだ。
うな鐵は渋谷に一店舗しかなく、同名の店は特にチェーンではないという。
うなぎ串を提供する店の良し悪しは、肝焼きで決まると思っている。肝焼きはうなぎの鮮度が要求されるため、店によって大きく質が異なる。
肝焼きを欲した時は、自由が丘の「ほさかや」に行くことにしている。うなぎの卸しも兼ねているため、新鮮な肝焼きがいただける。
肝焼きといえば、新橋にあったうなぎ屋の肝も絶品だった。初めて店を訪れた際、なぜかカーネーションを1輪だけ持っていたので、お店の奥様にプレゼントした。
2週間ほど経って再びうなぎ串が食べたくなり、ふらっと立ち寄ると
「まあ、あのときのお客さん!まだあのカーネーション、こんなに元気なんですよ。また来たら見せてあげたいって言ってたんです。」
と、一輪挿しを指して嬉しそうに笑っていた。
もう閉店してしまって久しいが、お店のご夫婦は元気だろうか。
お重や串など様々なうなぎを食してきたが、今まで食べた中で一番美味しかったうなぎを挙げろと言われたら、間違いなく小田原の「うなぎ亭 友栄」だ。
もうあと数駅で箱根という立地にありながら、平日でも休日でも行列ができる人気店で、ミシュランガイドで一つ星を獲得したこともある。
まず、うなぎの身が分厚い。こんなに巨大でふっくらとしたうなぎにお目にかかったことがない。あまりのボリュームなので、オーダーする前に一部テイクアウトすることも可能だという張り紙がある。
わさびでいただく、割きたての肝も注文してみたが、身がぷりぷりとして新鮮で美味しかった。
このようなことを書き連ねていると、頭の中がうなぎでいっぱいになる。明日はうなぎを食べに行こうか。