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「男役の声」について-瀬戸かずやスペシャルライブ「Gracias!!」より-

 宝塚ホテルにて、瀬戸かずやスペシャルライブが行われました。大劇場の千秋楽がライブ配信となり、瀬戸さん他、花組の皆様は、無観客での千秋楽となりました。お客様の前で舞台に立つという事でエネルギーを得ている舞台人にとってこの状況の精神的負担は、未経験な私には想像しか出来ませんが、とにかく心が苦しくなります。ライブの幕が開いた後の拍手…彼女たちの心に明るい光が灯ったのを感じました。この状況下でもっと苦しんでいる人達を思う彼女たちは絶対に言葉にはしないけれど、魂が居場所を見つけたと感じている様な気がしました。

 さて、今日は「男役の声」について書きたいと思います。

 芝居の世界では、良い役者は「一声、二顔、三姿」と言われます。歌舞伎界では「一声、二振、三男」という表現もあり、見た目のカッコ良さより、発声・台詞・声質などの口跡が最も重要だと言われています。舞台人にとって「声」ってそれだけ重要です。独特の文化である「宝塚の男役」。「男役の声」については、独自の考え方・指導方針・方向性がある様な気がしています。いやあります。私は男役ではないので、それについて努力したというより、客観的に聞いたり見たりしていた立場ですが…。

 男役で大切なのはやはり、「低音」を出す事。難しいのは台詞。特に感情的になると高くなるので、気持ちの盛り上がった時でも、低音をキープしなければお客様に女性が演じている事を悟られてしまいます。低音を出そうとすると舌の奥で喉頭(喉仏)を下げて響かせようとする傾向にありますが、これは危険です。舌の動きが制限され、発音が悪くなります。ほら、低い声だけど、ボソボソモゴモゴ言って何言ってるか分からない人いますでしょう??音程は声帯で調節しているので、喉頭を下げると音質や響きは変わりますが音程は変わりません。音程を変えるのは声帯の長さなのでこの声帯を分厚くしたり緩めたりする必要があります。うまくコントロール出来ると、低音が響いてカッコイイ、ドーンと立ってる大人の男役が出来上がります。

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 次に「男役の声」の指導方法についてです。これは今まで宝塚歌劇100年以上続いてきた中で、先輩方が積み上げてきた男役のイメージや映像、上級生から下級生への口頭伝達によって成り立っているタカラジェンヌ達の殆ど独学だと思っています。勿論、歌の先生方はいらっしゃいますが、男役の声を創るメソッドなんて存在しませんから、上級生の声を真似たり、男性の声を真似たりしてそれぞれの身体の状態や骨格・筋肉にあった、やりやすい所をそれぞれで見つけて一人一人が殆ど自分で開発していると思います。教える方々も男役経験者でない方は特に大変苦労されていると思います。自身の声帯の音域にあった声ではなく、先ず男役の声を求められる為、元々高くて細い声の人はかなり創り込まねばなりません。これは、「声」に限らず、芝居やダンスもそう。男役さんが女優さんになる時、これがまた大変です。この話はいずれ…

 この様に、男役の声を創るのはとても時間がかかる事です。下級生で入団した時は、高い声でキャーキャー言っていても、10年以上経って退団する頃には、スイッチが入ると男性ではないかと思ってしまう様な方もいますが、長い年月をかけて、研究し模索を繰り返して自分なりの男役像を創り上げられている証拠。その方の、イメージが現実になってきているのです。因みに瀬戸さんは真琴つばささんに憧れて入団したそうですので、ちょっと真琴さんの声に似ている気がしました。憧れている人をイメージする事が多いと思います。少しハスキーで低音、そして彼女の声には包み込む様な温かさを感じます。瀬戸さんはこの声を作るのにかなりの時間が必要だったろうと思いました。時が経って「瀬戸さんに憧れて入団しました!!」となんて言って入団した子は、10年経ったら瀬戸さんに似た声で話しているかも。そうやって受け継がれる「花男」達…「月男」は??

東京公演が無事に終わります様に!!「Gracias!!」

すーさん

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