ウマ娘と死と種族、そしてヴァルハラ
突然ですが、私はウマ娘が大好きです。
今まであまりキャラものにはまらず、アニメやゲームは好きでも「このキャラが好き!!」という感情がわからず、どちらかというとストーリーや世界観を楽しむタイプの消費者でした。
ですがウマ娘に関しては驚くほどキャラの掛け合いに惹かれ、あれよあれよという間に引き摺り込まれてしまい…
この記事は、ウマ娘の何が自分を狂わせるのか、他の作品と何が違ったのかを考察してウマ娘の魅力の源泉に迫りたい!!!という怪文書です。
ウマ娘ってなに?
ウマ娘をあまり知らない人向けのおさらいです。
ウマ娘というのはずばり、「現実の競走馬」をモデルとした美少女擬人化コンテンツです。
牝馬も牡馬もみんな美少女として生まれ変わり、その姿でターフを駆けます。
彼女たちは走ることを喜びとし、本能として「強いウマ娘は追わずにはいられない」と感じています。
走る速度は時速70kmを超え、500kgの負荷トレーニングをし、食べる量は山の如し。人間は絶対敵わないフィジカルを持っています。
そう、ただの耳が生えた人間じゃあないんです。
ウマ娘、それは人間とは完全に別の種族の生き物です。
競走馬のモチーフを丁寧に落とし込んだストーリー・キャラ作りが売りで、また実馬の都合上史実夫婦・史実兄弟など血縁関係がすごいことになっており、キャラクターの関係性を追うのもとても楽しい作品です。
レース描写にも力を入れており、最近はスポ根路線で熱い話が展開されています。
競走馬とウマ娘、死と怪我と寿命
急に不穏なタイトルです。
実際のところ、ウマ娘はとても明るくプリティーな雰囲気で満ちています。
少し抜けたところもあるウマ娘たちが笑いあり涙ありで夢に向かってキラキラ邁進していきます。
少し実際の競馬の話をしましょう。
サイレンススズカ号。大逃げというど派手な戦い方と圧倒的な強さゆえに大人気になった馬がいました。
6連勝後、人気絶頂の天皇賞(秋)、もちろん圧倒的一番人気です。
そのレース中、不幸にも左前足を骨折して亡くなります。
それまでは医者にかかったこともない丈夫な馬で、本当に突然の出来事だったそうです。
あまりの速さに骨が耐えられなかったのではないか、という噂もあります。
競走馬はスピードに特化した体にするため、500kg,600kgの巨体を細い足で支えています。それゆえガラスの足、と呼ばれることもあります。
実際のサラブレッドはスズカのように怪我や死のリスクが付きまとう過酷な世界です。早逝する馬も少なくありません。
では、実際のウマ娘はどうでしょうか?
彼女達もシナリオ上でよく怪我をします。それでも多くは復帰できるハッピーエンドIFとして作られています。
シナリオ上予後不良により安楽死することもありません。
でも、私たちは、その馬がいつどのように亡くなったかを知っています。
私がスズカを育成し、天皇賞(秋)に出場する時。大欅を超える時。
故障のことが頭にちらつかないはずがありません。
ウマ娘側にとっても同じことが言えます。
ウマ娘は私たちの世界の馬と魂が一緒、という設定なので、なんとはなしに自分の死期を悟ったような、故障することを知っているようなそぶりを見せます。明るい世界で突然死の匂いがします。
繰り返すように、ウマ娘は死そのものを直接描くことはしません。
ウマ娘自体は中高生ぐらいの人間で、活力に満ちた存在です。
ただ、そんな彼女達にどこか死の予感が立ち込めているんです。
この異質さは、何も事故で亡くなった馬だけに限った話ではありません。
そもそも馬は私たちより生が短く、死に近いところにいます。
馬と人の関係はちょうど人とエルフのようなものでしょう。
老衰で亡くなったウマ娘のモデルの馬だってたくさんいます。
ゴールドシップの母の父(人間で言うとお爺ちゃん)はメジロマックイーンですが、世代的に絶対に出会うことはありません。
しかしウマ娘世界ではゴルシとマックはよく絡みワイワイやってます。
これを微笑ましく感じるのはやっぱり「本当は出会うとことが叶わなかったら」と言う前提があるんだと思います。
レース中亡くなった馬、怪我で引退した馬、寿命で亡くなった馬、亡くなった兄弟を持つ馬、双子を失った馬…
たくさんの死や怪我の気配を感じながら、私たちはウマ娘というキャラクターを見つめることになります。
スズカとエアグルーヴ(通称スズグル)
ところで話は変わりますが、私はサイレンススズカとエアグルーヴの掛け合いがとっても好きです。
スズカは牡馬、エアグルーヴは牝馬でありながらこの二頭は同じレースを2度戦っています。
スズカは先述した通り残念な最後となってしまいましたが、サイレンススズカの「理想のお嫁さん」候補No.1にエアグルーヴが挙げられてたりしたんだとか…
そんな訳でウマ娘同士も関わりが多くなっているのでしょう。
なぜこの組み合わせに惹かれるのか?について考えたところ、二人の醸し出す空気があまりにも耽美的だからかもしれない、と気づきました。
ここでいう耽美は通俗的に使われる「官能的」の意味の方ではなく、本来の意味の方の耽美的です。
ソフトなデカダンというか、もっと砕けていうと危うさや不安をはらんだ美しさのようなものです。
エアグルーヴはスズカが急にいなくなってしまう予感に取り憑かれているようですし、だからこそ思い出作りや面倒見に固執しているのかもしれません。
その背景にあるのはやっぱり死の匂いです。
駆け抜ける生と死がコインのようにくるくると回っているような、そんな悲恋の美しさを感じます。
そしてウマ娘の異質さはここにあると思うのですが、そのコインが地に落ちることは決してありません。
なぜならそこはサザエさん空間ならぬウマ娘空間であり、過去愛されたすべての世代のウマ娘がいつまでもレースを駆けるヴァルハラのような世界だからです。
悲劇が悲劇であるのは、最後に悲惨な出来事が起きるからです。でもウマ娘は実話をベースにしているので、悲劇を最後まで描かなくても悲劇が成立します。
つまり悲劇の第一章を観賞し、悲惨な出来事なしに悲劇と認識できるんです。
これってすごくないですか?
この危うく儚い美しさをずっとそのままに…そう願わずにはいられない。
そんな耽美さが、ウマ娘に特別な感情を抱かせているのではないかと思っています。
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