第4回 デフアスリートたちの証言――不透明なルールと圧力の実態
デフリンピックという国際大会に向け、日本代表を目指す選手たち。しかし、その舞台裏では、不透明なルールと理不尽な圧力が選手たちにのしかかっている。本誌は、複数の競技団体における実態を調査し、関係者の証言を集めた。その中で明らかになったのは、競技団体の運営における深刻な問題が、選手のキャリアのみならず、人生そのものに悪影響を及ぼしているという事実である。
家族への無配慮と圧力――サポートを求めた選手の苦悩
ある競技の日本代表候補だったA氏は、競技団体の方針に強い疑念を抱いている。A氏の配偶者は妊娠中であり、精神的なケアが必要な状況にあった。A氏は競技活動と家庭の両立を図るため、団体に対してスケジュール調整やサポートの協力を求めた。しかし、団体はこの要請をほとんど考慮せず、一方的にスケジュールを決定。家庭の事情に理解を示さないばかりか、妊娠の事実を公にした途端、A氏への対応が急変し、組織内での立場が悪化した。
さらに、大会前には、出発直前になって「現地での健康問題が発生した場合は家族が自費で対応すること」との通知が送られた。団体は「家族のサポートはしない」と明言していたにも関わらず、このような条件を課す矛盾した対応をとった。A氏は「こうした一貫性のない姿勢こそが、団体の体質を表している」と語る。
理不尽な試合出場停止――独断的な判断で競技人生を左右される選手たち
競技団体の独断による選手排除の事例は他にもある。B氏は、国際大会を控えていたが、大会直前に全日本ろうあ連盟側の判断で突如として試合出場を取り消された。公式の健康診断でも問題がなかったにも関わらず、連盟は独自の基準を適用し「安全のため」と説明した。しかし、選手たちには具体的な根拠が示されることはなく、出場機会を失った選手たちは旅費や遠征費を自己負担したまま帰国を余儀なくされた。
その後、B氏が団体に説明を求めると、「強い口調で抗議した」として処分の対象とされた。「連盟が決めたことは絶対」という姿勢が、選手の権利を軽視していることは明白だ。B氏は「組織に異議を唱えると、すぐに排除される。これはスポーツの健全な発展を妨げる」と憤る。
組織内での不透明な方針――選手の意向を無視する運営体制
別の競技団体では、選手たちのプレースタイルや練習方針に関する問題が表面化している。選手C氏によれば、団体は特定のスタイルの導入を強制しており、選手が従わなければ代表チームから排除されるという状況が続いている。さらに、この方針を推進する団体との関係が深く、選手たちはその団体の有料プログラムを受講することを求められているという。
C氏は「このやり方に納得できない選手は、代表から遠ざけられる。これは競技の発展ではなく、選手の選別だ」と指摘する。スポーツの場であるはずの競技団体が、選手の自由なプレースタイルを尊重せず、特定の方針に従うことを強要することは、公平な選考とは言えない。
組織の圧力とパワーハラスメントに沈黙する選手たち
今回証言した選手たちは、団体の運営に対して勇気を持って声を上げた数少ない存在である。しかし、その他の多くの選手たちは、団体側の報復を恐れ、沈黙を余儀なくされている。
「試合に出場できなくなる」「今後のキャリアが閉ざされる」――こうした恐れが、団体に異議を唱えられない空気を作り出している。ある選手は「本当は不満を持っている選手はたくさんいる。でも、声を上げたら最後、自分の競技人生が終わる。だから誰も動けない」と語る。
また、選手に対するパワーハラスメントの実態も明らかになってきた。大会の参加を見送った選手が「協調性がない」と烙印を押され、チームから遠ざけられるケースや、団体の意向に従わない選手に対して陰湿な嫌がらせが行われるケースが報告されている。こうした行為はスポーツの健全な発展を阻害し、選手たちが競技に専念する環境を大きく損なっている。
このままでは、競技団体の組織構造がパワーハラスメントを生み出し続け、選手の競技人生を圧迫し続けることになるだろう。