熊の掌
私が白野壮太を殺したのは、彼が毛深かったからだった。彼は太鼓腹を含む全身に黒く強いぴんぴんと立った毛が生えていて、手の甲は黒黒とし、爪は肉に食い込むようだった。だから、熊の掌を蒸して毛を抜くのときっと同じ体験ができると思ったのだ。
Youtubeでジビエ好きの男が熊の掌料理を作って以来、私にとって同じことをするのは夢だった。茹で、さらに蒸した熊の掌は皮膚が柔らかくなり、あれほど強い毛が、尖った爪がほとんど苦労なく剥けてしまう。そして、いつの間にかゼラチン質の無力なふやけた塊へと姿を変えてしまう、こんな変身は熊の掌特有のものだ。
熊の掌は容易に手に入らない。いや、ジビエ食品店を探したりネットで通販したりすれば良いのかもしれないが、私にはあまりお金がないし、熊の掌はもっと高いだろう。もう少し熊的なものでもあの感覚は満たされるのではないかと思いながら煩悶していたとき、窓から隣人の新しい夫が見えた。それが白野壮太で、私が手を蒸して茹でるのにぴったりだった。
彼の行動パターンはシンプルで、7時30分に家を出て、20時に家に帰ってくる毎日を繰り返し続けている。隣人の推定白野妻(夫婦別姓かもしれないがよく知らない)は概ね家にいて、火曜日と木曜日の10時にはどこかに行き、21時ごろ帰る。私は家からあまり離れた場所には行けないので、彼らがどこに行くかは重要ではない。
私は火曜日の昼間からわくわくして隣人の庭に隠れて待ち、彼を首尾よく殺して、家に運び込んだ。風呂場で彼の手を切り落とそうとして、彼の全体的な皮膚がどことなくずれていると気づいた。それは強い毛が生えた皮膚を装ったゴム質の人工皮膚だった。
今、風呂場にはイカフライの衣を剥ぎ取ったような白い肌の知らない女がいる。人工皮膚を剥ぎ取る感覚は、私の望んでいたものと全く異なる。だから、私はどこかにいる壮太を見つけないといけない。
【続く】