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ルール指摘なんか怖くない――TRPGでルールを指摘されるとき起きていること


内容の梗概

 TRPGにおいて、プレイヤー(PL)からルール指摘を受けるのは、ゲームマスター(GM)がルールを守らなかったことが、そのPLに不安感を与えているからだ。
 GMがマスタリングにあたってルールから逸脱するときには、なぜそのようにするのか意図を伝え、不安を取り除くことでより楽しく遊べる。ルールミスによって不利益を与えた場合は、何らかの対価を与えればよい。

イントロダクション

 こんな経験はないだろうか。

一緒にセッションをやっていたPLが、GMであるあなたに向けて言い始める。
「GM、正しい処理はこっちだと思うんだけど……」
 今、強敵との戦闘中で盛り上がっているところなのに、なんで水を差すのだろう?
 あなたは相手に向けてこう告げる。
「そういうハウスルールってことで。あれこれ言うの禁止!」
 セッションは満足行く形で終わる。PLもさぞ楽しんでくれたろう!
 その後、自分が卓を募集しても、ルール指摘をしたPLは参加しない。いつの間にか距離を取っており、絡みもなくなってしまった。
 どうもあのセッション以後、自分の卓には参加したくないと思われているようだ。あなたはなんか地雷でも踏んだのかなーと考え、それで終わり。
 まぁ、よくあることだろう。ただ、そのPLはよその卓だとめちゃくちゃ楽しそうに遊んでいるので、なんかモヤモヤする……。

 モヤモヤを抱える状況が生まれたのは、あなたがルール指摘を受けたときに対応をミスり、相手を微妙な気持ちにしてしまったのが原因の可能性がある。あなたがちょっとだけルール指摘を受けたときのやり方を押さえておけば、そのPLともっと長い期間遊べたかもしれない。よりお互いに楽しむためにも、知っておいて損はないはずだ。

はじめに

 TRPGセッションにおいて、GMが裁定をするときに、PLから「その裁定はルールブックと違わない?」という指摘を受けるときがある。物語に水を差されるように感じ、こうした指摘を不快に思うGMは思いの外多い。
 そのため、一般的なゴールデンルールでは「最終的なルールの決定権はGMにある」とされるし、中には一律で「ルールミスへの指摘禁止」という取り決めを作るGMもいる。
 しかし、ルール指摘を禁じてしまうのは、その場においては盛り上がるシーンに水を差さずに済むものの、長期的に見てPLの不満を溜めるため、あまり望ましいとは言えない。
 また、TRPGにおいて、ルールを曲げるのはごく当たり前のように行われるが、しばしば頭に「面白ければ」がつく点には注意が必要だ。GMはルールを「面白く」変える必要がある。
 この記事では、ルールについて指摘を受けたときに起きていることや、ルール指摘への対処法、また、ルールミスをしたときのリカバリ方法やルールを楽しく曲げるコツについて解説する。

前提

 この記事では、一緒に遊んでいるPLからルール指摘を受けたときに、GMが取る態度について書いている。したがって、以下のような存在については考慮しない。

  • GMを困らせようとしてルールについて微に入り細に入り聞き続ける質問魔

  • レギュレーションに入れていないサプリメントの記述に基づいてあれこれ言ってくる愚か者

  • 参加してもいない他人の卓の裁定にSNSなどでケチを付ける暇人

 今後も遊び続けるだろうPLからルールについて指摘を受けたときにどう振る舞えばよいのかを解説しているのであって、もう二度と遊びたくない相手についての対策は書いていない。困ったちゃんなPLへの対応方法は、別の誰かが解説してくれるだろうが、私は平均的なGMと平均的なPLが円滑に卓を運営するポイントを解説したいので、この場で触れることはない。

セッション中ルール指摘を受けるのはどんなとき?

 そもそもセッション中、GMがルールについて指摘を受けるのは、裁定ミスがPLが以下のように感じたときだ。

  • 自PCのビルドが壊れそうなとき

  • ルールミスでPCに不利がもたらされたとき

  • 理不尽な裁定を受けるかもしれないとき

  • GMが提示する世界観に乗れなくなりそうなとき

  • PCが過度に追い詰められているとき

 それぞれについて解説する。

自PCのビルドが壊れそうなとき

 PLの操るプレイヤーキャラクター(PC)は、基本的にルールに沿った状態で、GMの承認を受けて作られている。しかし、GMのルール間違いにより、PCのビルドが壊れそうなとき、自分のPCを守るためにPLは積極的にルール指摘を行おうとする。
 例えば、ソード・ワールド2.5で、エンハンサーのロールを持つPCを作ったPLがいるとする。エンハンサーとは、1手番中複数回使用できるリソースである補助動作(とMP)を使用して、自己強化を行うロールだ。しかし、GMがルールを勘違いして「補助動作は1手番に1回しか使えない」と裁定したら、そのキャラクターは想定していた性能を全く出せなくなる。
 このとき、PLはGMに向けて「その裁定はおかしい」とルール指摘をするだろう。

ルールミスでPCに不利がもたらされたとき

 「自PCのビルドが壊れそうなとき」のように、ルールミスでPCに不利がもたらされたとき、PLはルールを指摘して自分のPCを守ろうとする。例えば、D&D5eでは一部の呪文や敵の持つ能力を除き、PCはHPが0になっても、最大HPより大きいダメージを受けなければ即死することはない。何度か死亡セーヴィング・スローという判定を行い、失敗して初めて死亡する。
 しかし、GMがルールを勘違いしており、HPが0になった時点でキャラクターを即死させたら、PLは「その裁定は間違っている」と言い出すだろう。

理不尽な裁定を受けるかもしれないとき

 セッションでGMが理不尽な裁定をした、あるいはこれからするかもしれないと感じたとき、PLは自己防衛のためにルールを引用し始める。例えば、クトゥルフ神話TRPGを遊んでいるときに、GMが気に入らないPCに向けて突然「君のPCの頭は邪神の呪いによって爆発したよ、新しいキャラクターを作ってね」と言い出したらどうなるだろうか。
 これは極端な例だが、そういった理不尽な裁定を受けたとき、CoCであれば「PCを容易に殺してはならない」というルールブックの記述を盾にPLは抗議するだろう。

PCが過度に追い詰められているとき

 単純にゲームバランスに問題があり、判定で打開困難な状況にPCが置かれたとき、PLたちは口先で状況を有利にしようとする。
 例えば、ダンジョンズ&ドラゴンズ5版で、レベル1のPCにアダルト・レッド・ドラゴン(ルール上、17レベルのPC4人と互角の強さとしてデータが作られている。なお、D&D5eのPCの最大レベルは20)との正面戦闘を強いるなら、PLたちは「このGMはPCたちを生かして返すつもりがないぞ」と考え、非協力的になる。そして、裁定の穴を突いて、PCたちを少しでも有利な状況にしようと必死になるため、積極的にルールミスについて指摘する。

GMが提示する世界観に乗れなくなりそうなとき

 これまで解説した各理由と違い、PCが有利になるような裁定でもルール指摘を受けるなら、大抵の場合これが起きている。
 GMが作ったオリジナルの設定が、あからさまにゲーム側の世界観に沿っていないか、あるいはゲームのリアリティを破壊するような内容だと、PL側は疑問に感じ、ルールブックの内容に沿って指摘をしたくなる。
 例えば、ダブルクロスシリーズでは物語上もデータ上も重要な「侵蝕率」というルールがある。ダブルクロスにおいてPCはシーンに登場するたび、行動するたび、異能を使うたびに侵蝕率が上昇していき、一定値を超えると怪物になってしまう。自分の大切な人間を守るためには、自分の侵蝕率を上げなければいけないジレンマは、ダブルクロスの重要なテーマだ。
 だが、GMが「侵蝕率を簡単に下げられる薬が、ドラッグストアで買えるくらい普及している」とゲーム中に突然言い出したらどうなるだろう。PLがやりたかったジレンマなどのロールは茶番になってしまうし、ルールブックを盾にひとこと言いたくなる人も出てくるのは違いない。
 ほかにも、突然強力な敵NPCが理由もなくPCを見逃したり、PCが突然なんの理由もなくパワーアップするような展開でも、ルール指摘が起こりやすくなる。物語からの没入を阻害しているからだ。

 とどのつまり、ルール指摘を受けるのは、PLがGMの裁定に対して疑義を持ったときだ。(悪意を持たない)PLがやたらとルールにうるさくなりだしたなら、GMはあまりPLを楽しませられていないことになる。

ルール指摘を受けたらどう振る舞えばよい?

「指摘内容がどこに書いてあるのか」尋ねて確認し、そのうえで指摘されたルールを使用するかどうか決め、その判定に適用するとよい。
 ルール指摘を受けている状況は、大抵の場合原因はPLの不満にある。各理由のどれに当たるのかを考えて、PLに対して友好的に振る舞うのが重要だ。PLは敵ではないことを忘れるな。一緒に遊ぶ相手からルールについてあれこれ言われるのは、裁定でPLを不快にしているからかもしれない、という視点を持ち、腹を立てないようにしよう。とどのつまり、心理的安全性を守るとよい。以下のように振る舞うのは、心理的安全性にプラスになる。

お礼を言う

 これまで裁定ミスがあったことを指摘された場合、まずは間違いを正してくれた相手にお礼を伝えよう。たとえ指摘されたルールをGMが取り入れない場合でも、一言「教えてくれてありがとう」と伝えるだけでその後の進行が円滑になる。

変更した意図や理由を説明する

 ルールをあえて改変する場合、なぜそうしたのかを説明しよう。セッションを始める前に、どのルールをどのように変えたのか説明しておくのが一番良いが、漏れていた場合でも指摘を受けたタイミングで「今回はこういったことがしたいので、ルールを変更している」と正直に伝えるとよい。PLが裁定に不安や不満を感じるのは、相手の意図が分からないことに由来する場合が多い。ある程度GM側が行動原理を明かせば、PL側も対応しやすくなる。
 なお、意図については何も論理的に筋道立てて回答する必要はなく、「こっちのほうが面白くなると思うからだ、信じてくれ」で問題ない。「こちらのほうがゲームを楽しく運用できると思うので、曲げる」と伝えるのは、TRPGにおいて正しい。それでPLからブーイングが飛ぶなら、そもそも信頼関係が崩壊している。

PCを不利にしたならゲーム内リソースを与える

 ルールミスでPCを不利にしていた場合は、ささやかなゲーム内リソースを与えれば、大抵の場合わだかまりが残らない。例えば、次の判定に+1の修正を与えるとか、ダイスの振り直しリソース(例:D&Dなら『インスピレーション』、シャドウランなら『エッジ』など)を与えるとよいだろう。ただ、あとに残るものを与えない方が良い。例えば、ゲーム内の通貨だとか、ドロップアイテムとかを与えるのはほかのPLに不公平感を与えるので、避けたほうがよい。

ルール指摘を受けたときにすべきでないこと

 ルール指摘を受けたときにしてはならないことを端的に言えば「仕事のできない上司のような振る舞いをするな」となる。報告・連絡・相談を受け付けず、後付の自分ルールを作り始め、強権を振るう「無能な上司」のステレオタイプを考えてみてほしい。そんな人物と一緒にセッションをしたいだろうか?
 ルール指摘をされたときに、こんな態度を取っている場合はちょっと考え直した方がよいだろう。

ミスを指摘されて怒り出す

 ルールミスの指摘を受けたときに怒ったり、やり込めようとしたり、かえって不利益を与えようとするのは最悪の判断だ。絶対にやるべきじゃない。プレイグループの心理的安全性に大きな瑕疵を与え、そのGMとの信頼関係を一発で破壊するからだ。ルールどうこう以前にコミュニケーション能力を疑われる。

後付けで「ルールミスじゃなく、ハウスルールだ」と主張する

 絶対うまくいかないし、信頼関係に傷がつくのでやめておこう。事前に伝えていないハウスルールが突然降ってくるのは、PLが困惑するばかりだ。
 ハウスルールを追加するなら、セッションとセッションの間に話し合う時間を作り、PLとの合意を形成した上でやるのがベターだ。ルールと異なる裁定をしたなら「次から正しいルールにするよ」と伝えるとよい。

ルール指摘を禁止するルールを作る

 ルールについてあれこれ言われて腹を立て、「ルール指摘禁止」のハウスルールを作るGMもいるが、やめておいた方が良い。一般的なPLがルール指摘をするのは、GMの裁定に疑義を感じている状況だ。その状況を放置すると、不満をPLに溜め込ませ、卓の楽しさを損なうばかりになる。
 それよりはオープンなコミュニケーションができる場を保ったほうが、はるかにゲームは楽しくなる。

いつ、どんな状況でルールを曲げればよい?

 しかし、セッションを運営していく上でルールを曲げたりいじったりするのはごく普通のことだ。ルールを変えるのは悪いことではないし、むしろゲームが面白くなるならどんどん変更したほうが良い。ルールに厳密に遊ぶのにこだわるべきではないとも言える。

 一方で、ルールを曲げることで不公平感が生まれ、ゲームが楽しくなくなるならそれはそれで本末転倒だ。

 では、結局のところ、どういう状況でルールを曲げるべきなのだろうか?

ルールをすぐに思い出せず、探すのに時間がかかるとき

 GMはPLをあまり待たせないほうがよい(逆も然り)。コミュニケーションゲームなのだから、テンポは大事だ。ルールブックは分厚いし、索引は役に立たないし、プレイヤーを待たせているなら、そのときはさっさと思いつきで良いから当座の裁定をするとよい。ルールブックをめくってウンウン言うよりはずっとマシだ。PLが正しい裁定を思い出したら、お礼を言って次からその裁定に変えるだけで構わない。

あるキャラクターを有利にして、かつ他のキャラクターが活躍する機会を奪わないとき

 ルールを曲げて特定のキャラクターを有利にするのは良いやり方だ。同時に、他のキャラクターから活躍機会を奪っていないか意識すると、更に良い。
 例えば、隠密活動が得意な忍者PCが、悪党たちのアジトの前で見張るチンピラにこっそり忍び寄る場面が生まれたとする。前提として、ほかのPCたちは隠密が苦手である。また、GMが意図している演出は「忍者PCは一撃の下見張りをやっつけ、ほかのPCがアジトに入るのを先導する」というものだ。
 忍者PCが攻撃しようとするそのときに、ルールブックに「不意打ちの効果は、その戦闘のイニシアチブを有利にするだけで、一方的に攻撃はできない」と書かれているのに気づいたとする。その場合、GMはルールを曲げて、忍者PCに敵を倒させてもよい。
 なぜならば、この場面でほかのPCは隠密が苦手であるため、忍者PCが敵を一撃のもとに倒したとしてもなんらほかのPCの活躍機会を奪わないからだ。
 一方で、隠密が苦手な重武装の聖騎士PCが忍者PCが活躍するはずの場面で自分も隠密活動をしようとして、ひどいペナルティを被るとする。その場合、GMはルールを無視して聖騎士PCのペナルティを軽減するべきではない。そこは忍者PCの活躍する場面であり、聖騎士PCが判定で有利になると、忍者PCが不満を抱える原因になる。

そもそもルールブックが定義していない状況のとき

 ルールブックは完全な世界のシミュレータではないので、そもそもルールブックにゲームで扱っている状況が起きることが想定されていないケースがある。大抵のルールブックにはドラゴンの首を切り落とすルールは載っていても、虫歯を患っているドラゴンの歯を的確に磨くルールは載っていないのが普通だ。そういった状況では、GMが適切にルールを創造することになる。
 また、残念なことに、TRPGのルールブックには誤植や記述漏れ、相互矛盾がしばしば発生する。例として、シャドウランシリーズは(特に5版からは版元の資金不足などが理由で)デザイナーが頻繁に退職するので、ルールブックに整合性の取れない記述が山のように残っている上、エラッタがまるで出ない。
 そういった欠陥の多い(※)ルールブックを持つゲームで遊ぶなら、そもそも「どの記述を信用してルールを裁定するのか」という点だけでもルールに変更を加えなければならない。

※これは重要なので言っておくが、だからといってシャドウランが面白くないわけではない。キャラクタークリエイションの自由度や、差別と憎悪に満ちた背景世界の魅力は唯一無二だと思っている。問題はあまりにも欠陥の多いルール部分にある(シャドウランシリーズを遊んだことがある人はきっとこの補足に同意してくれるはずだ。いや、いいゲームなんだよ)。

物語上重要な決断であり、ルールを曲げたほうが面白くなるとき

 結局のところ、TRPGの最終目的は参加者が楽しむことだ。そうだろう?
 例えば、「攻撃をかばう」ルールがないゲームで、PCが誰かを救うために身を投げ出したいと言ったとする。その攻撃を受けた場合、身を投げだしたPCはひどい怪我を負うリスクを抱えており、まかり間違えば死ぬかもしれない。だが、物語を盛り上げる山場になる。
 その場合、敵の目の前に身を投げだしたら、何が起こり、どういった結果になるのか、GMはルールを曲げてでも考えるとよい。どの程度のリスクを負わせるのか、かばわれた誰かは助かるのか、何が起こるのかを伝え、PLととびきり盛り上がる場面を作ろう。

上手なルールの曲げ方

 さて、ルールを曲げるのは当然問題ないが、PLがフェアに感じやすいルールの曲げ方は存在する。以下のようなやり方がおすすめだ。

そもそも参加者と話し合う

 原則論であるが、そもそもPLとコミュニケーションを取ってルールに変更を加えると良い。PLがどのように遊びたいのかによって、ルールの曲げ方は変わる。
 例えば、ダブルクロスでPLがロイス(※1)を使い尽くし、シナリオ終了時にジャーム化が避けられない(※2)状況になったとしよう。そんなとき、PLが「ロストをどうにか避けたい」のか「追い込まれた状況で最後の輝きを見せたい」のかによって味付けの方向性は変わる。
 前者なら例えば「重要なロイスに限って戻して良いよ」になるし、後者なら「最後の輝きということで、エフェクトレベルを+1してダメージダイス振って良いよ」などの形でルールを曲げることになる。
 この対応を間違えると、地味にプレイヤーのモチベーションが削られてしまうので、ルールを曲げる場合は「さて、ぶっちゃけジャーム化は避けられなさそうだけどどう? ロストしたくない? それとも最後の輝き見せたい?」などと聞いてみると良い。
 その上で、ルール通りの処理で良いと感じる参加者が多ければ、ルールを曲げる必要もない。何であれPLからすれば、自分たちの好みを聞かれるのは嬉しいし、場は盛り上がる。良い事尽くめだ。

※キャラクターの絆を表現したリソース。消費するとキャラクターが一時的に強化されるが、キャラクターロストの可能性も高まる。
※社会との絆や拠り所となる日常を失い、怪物に成り果ててキャラクターロストすることを、ダブルクロスではジャーム化と呼ぶ。

「”今は”こうしよう」を口癖にする

 ルールをとっさに決めてから、後々発生しやすいのが、「さっきの裁定がありならこれもありでは」というPLからの問いかけだ。そういう問いかけは面白いことも、面白くないこともあるが、一度言ったことをコロコロ変えるのはやりづらい人もいるだろう。
 また、とっさに決めたルールのバランスが良くなく、後から直したいと思うこともままあるはずだ。
 だから、ルールを曲げるときは「”今”は”このほうが面白くなりそうだから”こうしよう」と口癖にするとよい。どこまでルールを曲げた解釈がこの場では許されるのか、その基準はなんなのかが簡単に分かるし、あくまでも現時点での考えであって、後で変更するかもしれない仮のものだと伝わる。

世界観を壊さずにルールをいじる

 世界観的にあってもおかしくない形でルールを変更するのは、参加者にフェアさを感じさせやすい。
 例えば、CoCで物議を醸しがちな「正気度回復シナリオ」というものがある。CoCは正気度が減少し続け、収支が赤字になり、いずれPCが狂気に陥る……という形で恐怖の世界観を表現している。一方で、同じPCで長く遊び続けたいという需要に応える場合、こうしたシナリオは選択肢に入って当然だ。
 なら、世界観を壊したくないが、同じPCで長く遊びたいならどうすればよいだろう。この場合、すでにあるルールをほんの少し変えるやり方が考えられる。例として、シナリオ終了時に正気度を多めに回復する代わりに、正気度の上限(99)が減るオプションをつけると良い。すでにCoCには〈クトゥルフ神話〉の技能が上がるほど正気度の上限が減るルールがあり、根幹的なルールを大きく変えはしない。日常的には落ち着いて見えるが、恐怖が心にヒビを入れている、というのはCoCの世界観的を大きく壊さないし、上限の減らし方次第ではあるが最小限にするなら50回くらいは同じキャラクターをセッションに参加させ続けられるはずだ。

優しい悪魔の取引(あるいは、負のご都合主義風ご都合主義)を行う

 優しい悪魔の取引は私の厨二病的造語であるが、要するに「いっときの救済と引き換えに、一見するとすごくひどい試練をPCに与えるように見えるが、実は全然乗り越えられる障害になっている」というマスタリングのテクニックだ。
 例えば、サイバーパンクREDで、無慈悲で残忍なメガコーポの悪党AによりPCが追い詰められたとしよう。兵士や戦闘兵器に囲まれて弾丸の雨が降り注ぎ、全員が死亡セーブに失敗してしまった。そんなとき、ルール通りに処理するなら死者は蘇生せず、「ゲームオーバー、新しいキャラクターを作ろうか」となる。
 しかし、PLがそれを望まない場合、意識が断絶したあと、不気味な実験室の中でPCたちを目覚めさせるとよい。そこには別のメガコーポの悪党Bがいて、このように宣言する。
「ばらばらになっていたおまえたちを、私が蘇らせてやったぞ。さあ、私のライバルであるAを殺してこい。おおっと、逆らうな、おまえたちの体には爆弾が埋め込まれていて、いつでも起爆できる」
 さて、これで物語は続く。
 その上で大事なのは、PCが支払った代償(体内に爆弾を埋め込まれ、別の悪党の犬として働かされる)が、一見するとものすごく大きな代償のように見えて、実際は契約を切ったり、もっと有利なものに変えたりできることだ。
 爆弾の例なら、「悪党Aが最後の悪あがきで放ったEMPパルスにより一時的に爆弾が無効化され、手術で取り出せるようになる」とか、「悪党Bが持っている爆弾のスイッチを盗みとれる」とか、そんな形で将来的にろくでもない契約は無効化される。
 見た目には逃げ場のない悪魔との契約に見えるが、最終的には機知や友情などで契約を破棄できるという展開は、ご都合主義的にPCを助けるルール改変をストーリーテリング上の必然であるかのように見せられるので、不満が出る可能性を大きく減らせる。

まとめ

 ルール指摘を受けるのは、ルールと異なる処理をした結果、参加するPLが楽しくなくなりそうだと感じているケースが多い。変更した意図が伝わっていない場合もあるので、なぜそうしたのかサラッと説明するとよいだろう。そのうえで、ルールと処理が違ったことでPCが不利になったなら、小さなゲーム内リソースを渡せば場の空気をよくできる。
 また、ルール指摘を受けたからと言って、ルール通り処理しようとこだわりすぎてゲームが面白くなくなっては意味がない。ルールを思い出せないときは「とりあえず今はこうする」といえばよいし、ルールを曲げたほうが絶対に面白くなると確信できるならやればよい。ただ、曲げるときは世界観とマッチするように曲げよう。PCを助けるためにルールを曲げるときは、ご都合主義っぽくならないようあえて不幸がPCに訪れたかのように演出するのも良いテクニックだ。

スペシャルサンクス(敬称略)

kasumi mayoi、カイエン

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