ビッグモーター問題を経済学視点で考える【逆選択】
ビッグモーターの不正問題が日を追うごとに拡大しています。
修理費用の水増し、ゴルフボール問題、事故車の不正販売、街路樹除草剤問題…
叩かずともホコリが出まくっています。
ネットメディアやテレビでも連日大きく取り上げられていますが、その多くが「こんな不正は許せない」といった感情論、道徳論で止まっているような気がします。
そこでこのビッグモーター不正問題を、経済学的な視点で考えてみようと思います。
情報の非対称性
私達が意思決定する際に、相手の情報は極めて重要です。
契約の相手方がどんなことを行っているのか、本当に誠実に行動してくれるのか。情報は私達、消費者が意思決定するために最重要事項のひとつです。
通常私達が取引前に、ビッグモーターの実態を把握することは可能でしたでしょうか?
この問題がニュースで取り上げられる以前にビッグモーターの不正問題を認識していた方はごく限られた一部の方のみだったのではないでしょうか?多くの方は自動車業界最大手なので安心とすら思っていたのではないでしょうか?もしくは多少不安だけど大手ならば大丈夫だろうという感じではなかったでしょうか?
取引する前の段階では相手方が誠実に対応してくれるのか否か分からない、情報の非対称性が存在しています。
経済学ではこのことを逆選択問題といいます。
逆選択が起こるとどうなるか
逆選択問題は、取引前に相手がどういう性質をもっているか知ることができないことからくる問題です。
中古車の真の性能を買う前に把握することはできません。外見はきれいだけれど内部に関してはエンジンや安全装置に問題を抱えている水没車かもしれません。
「資格をもった専門スタッフが修理します」といっても、必要のない箇所まで修理し水増し請求する。さらには意図的に車を傷つけて保険を使って修理させたりするかもしれません。
このような場合、消費者としては中古車なんて何か問題があるかも知れないと考え、安い値段でないと車の購入や修理を依頼しなくなるかも知れません。
しかし、誠実な商売をしている中古車屋は、そんな安い値段でしか買ってもらえないのであれば車を売らないし、そんな安い修理料では修理を請け負うことができなくなります。
すると、中古車市場には良い品質、良いサービスを提供してくれる中古車屋は少なくなってしまいます。
このようにして、消費者が抱く「変な車を買わされるかも知れない、不正な修理をされるかも知れない」という不安が現実のものとなってしまいます。
これが繰り返されると、中古車市場そのものが成り立たなくなってしまいます。
こうして一つの市場が消えるのです。
ビッグモーターだけの問題なのか~ゲーム理論から考える~
このビッグモーター不正問題は、ビッグモーターだけの問題なのでしょうか?
保険の不正請求に関しては、損保会社もグルだったのではないかという報道も出ています。
また「中古車業界全体としても同じようなことを行っているのではないか」、と疑問に感じても不自然ではありません。
これを経済学のゲーム理論を使って考えてみましょう。
「中古車屋はより利益が得られるように活動する」と仮定しましょう。
ある街にはB自動車とG自動車があります。
図の左側をB自動車の売り上げ、右側をG自動車の売り上げとします。
両者は自社の売り上げ利益が最大になるように行動します。
もし両者とも適正な営業を行えばお互いに300万ずつの売上があります。
一方、どちらかが不正を行い、どちらかが適正な活動を行った場合、不正を行った方は400万、適正な方は0円の売り上げとなります。
一方で両者不正を行ったた場合は、お互いに200万ずつの売り上げになります。
こうなると、B自動車は売り上げ利益最大化を求め不正に手を出し、G自動車も同じように不正を行うと予想できてしまいます。
中古車業界ひいては日本経済の問題
少子化に人口減少。若者の車離れは加速し、日本経済は縮小していく状況にあります。
かつて日本の基幹産業といわれた自動車も、電気自動車へのシフトや国内市場の縮小など大きな岐路に立たされています。
もちろんビッグモーターの不正問題は許せないことです。
しかし、ビッグモーターだけの問題にしてしまうのは正しいのでしょうか?
減少していく限りあるパイを奪い合うことしかできない日本経済の構造。
それを作っている政治の問題でもあるのではないでしょうか?
この問題はこれからの日本経済の行方を示す重大事件であるという認識が必要でしょう。
参考文献
下記参考にさせていただきました。