#36ビットコイン・スタンダード
ビットコインが世界にもたらしうる影響は、送金技術の利便に止まらない。安定した貨幣価値は、財産所有者の時間選好を先延ばしにし、投資活動を促進することにも繋がる。金銀が歴史的に通貨としての価値を確立することができたのはストック・フロー比率が高く、他の金属に比べてこの数値を生産者が改変することが非常に困難な道のりだったことによる。ビットコインの意義を歴史的に改めて俯瞰すると共にケインズ、フリードマン経済学に対しても鋭い指摘を本書は施している。
・ビットコインは時空を超えた経済価値の移転という課題を解決するために開発されたもの。歴史上、交換市場が発達する過程で人類は規模、期間、場所の不一致という問題に直面していた。これを解決するために、貨幣が提案された。
・貨幣になるためには、ストック・フローが高く、需要が生じても供給が制限されることが必要。現存する「物」では、金が一番ストック・フロー比率が高く、一方、現在の法定通貨はストック・フローは非常に低い。
・金が初めて貨幣として用いられたのはギリシャ王クロイソスの時代とされており、劣化せず長期の価値貯蔵ができ、希少性が高かった為に貨幣としての地位を確立できた。
・貨幣となりうる金属の市場需要と貨幣需要に目を向ける必要がある。貨幣としてあるものが採択されると、市場需要も大きくなる。そのものの価格が上昇することになるが、ストック・フロー比率が小さければ、供給は現在の需要を超えて増え、結果価格は暴落する。バブルをストック・フローから説明した言説になる。
・ローマのネロはローマ市民の生活を支えるために貨幣を鋳造する必要性に迫られ、悪鋳の貨幣を大量に生産した。一時的には状態を凌ぐことができたが、インフレと経済危機という必然的結末から逃れることは出来なかった。皇帝は法の力で賃金と価格を管理しようとしていたが、帝国内には結果暴動、汚職、不法行為が広がったのである。
・1252年のフィレンツェでは、健全な貨幣、フローリンの使用が始まっていた。標準交換手段として、価値の安定した貯蓄手段としての役割をにない、その後のルネッサンスへと大きく寄与した。
・電信の普及で金属硬貨を使用する必要がなくなり、金のみがその地位を保った。（今日も中央銀行は金を大切に金庫に保管している。）一方で銀かかくは暴落し、中国、インドを初め、銀を採用していた国々は非常に悪いインフレに影響を受けることとなった。
・法定通貨は、政府法令飲みを根拠として通用している訳ではないという点を理解すべき。政府が、日本円、ドルが法定通貨として通用すると宣言したからといって実際に通用する訳ではない。裏付けとなる資産、それは目に見えない形を含むが、が必要であり、政府要人もそれを理解しているため、中央銀行には金が引き続き置かれているのである。
・法定通貨になった結果、国民は自分の財産をインフレという見えない形で政府に徴収されるようになり、主権を奪われた。また、財源を無限に確保できる政府は、本来ならば社会の価格発見機能に任せれば良い財産分配においても力を及ぼすようになり、また戦争も激化することとなった。法定通貨の100年の歴史の中で、ハイパーインフレが何度もあったことを忘れてはならない。
・ブレトン・ウッズ体制はアメリカのみが金との交換を可能とするもので、他国はドルを受容するしかない。これは、アメリカが自前のインフレを他国に押し付けることができ、赤字を自由にファイナンスすることができるということである。
・ハイエクは、経済問題を単に資源と財の分配問題とする一般的見解は誤りで、むしろ問題の本質は誰一人として知識の全容を把握しないまま不完全な知識を元に資源と財が配分されていることだと指摘した。逆にいうと経済に関する意思決定をする人の知識は個々人に本来分散されており、これらを信頼する方が中央計画経済よりもうまくいっている。あくまで実験的、実証的にうまくいくという話であって、その後に論理が出来たとも見ることができる。
・1920年の不況はアメリカ史上最速の生産収斂と最速の回復を経験した。賃金統制は実施せす、政府は減税と財政支出を削減することで、経済回復を市場に任せた。そのほかの不況、例えば、1928年にあった不況は、中央銀行がマネタリーベースを大きく膨張させるということをしたため、回復に時間がかかったし、1970年台のインフレも同じ。中央計画経済的な解決方法ではなく、金利、貨幣量の調整を市中に求めるのが一番の解決策になるという事例。
・貨幣供給が一定の世界は、産業革命の成功で反映を謳歌し、資本投資の増加で生産性が向上した結果、財の価格と生産コストが下がり続けた18-19世紀に非常に似ている。通常時間が経つにつれて、生産効率は上がり、財の価格は下がる。このため貨幣の供給が一定であれば、貨幣の実質購買力は上昇し、時間選好は低くくなる。