#66 大暴落 1929
歴史学徒としての歩みを始めるにあたって必読書の一冊に入るであろう本書。ハーバード大学著名教授の傍ら、民主党政権のブレインをも務めたジョン・K・ガルブレイスによる本書。ここから得られる示唆をいくつか書き記す。
・全ての暴落は違うが注意深くなること、自らが誤りうることを認めながら進むことは可能である。
・1928年までに株式市場が大きく上昇を遂げていくことになったのは、実際に経済が発展していたという事実が存在している。たとえばとうじ、工場数、工業生産数ともに大きく増えていた。
・手付金10%で土地や家を購入することができる、新手の投資信託商品が出る、銀行や信託銀行が株式に手を出す、中銀から低金利市場で借入、信用取引用にマージンを市場に貸し出す事で利鞘を得ることができたこと、イギリスが金流出を避けるために、アメリカに対して金利引き上げを求めたことなどが挙げられる。
・1929年の暴落が起こるまで、経済の長期にわたる悪化はないという考えを持つ人が多くいた。1929年の9~10月にかけて、一時的に急落した市場は回復を見せ、楽観的な空気が再び広がっていた。アービング・フィッシャーは恒久的に続く高原状態に達したと述べた。
・1929年11月にかけて、株式相場は50%もの値下がりを経験し、ようやく一時的に下げ止まった。この2ヶ月間、組織的な買い入れがあったものの、機能せずだったわけである。1930年の1~3月は大幅な回復を見せたものの6月には再び大きく下げるのである。そしてそこからは、毎週、毎月下げていき1933年まで続いたのである。
・1929年の暴落が起こった可能性を投機熱と低い金利の組み合わせだけで論じるのは非常に浅はかな考え方だといえる。なぜならそのほかにアメリカ経済は次のような困難を抱えていたためである。
1.所得の不分配、上位5%が個人総所得額の1/3を手にしており、経済活動が高所得者層による投資や贅沢品の消費への依存が高くなる。
2.企業構造の問題、持ち株会社と投資信託という経営形態に基づき、逆レバレッジによって壊滅的打撃を受けるリスクを孕んでいる。
3.脆弱な銀行システム、ある銀行が破綻すると連鎖的にそのほかの銀行も破綻しうるリスクが存在し、実際にとうじ起こっていた。
4.対外収支の大幅な黒字、アメリカが純債権国であったため、アメリカの金融機関はアメリカに対して純債務国である中南米諸国に対して高金利でローンを出すことを奨励される環境にあった。(債務国家の赤字は金の支払いと、民間のローンで埋め合わせられる。)
5.大暴落が発生した際の空気、当時の無気力な空気をコメントせずにはいられない。現実に困窮を極めるものが数多くいたのである。
・ジョン・K・ガルブレイスが本書を著したのは、1950年代頃である。その当時、たとえば上記の1は収束する方向に向かうだろうとしていたし、2,3も改善されるだろうと著している。しかしながら、GFCで明らかになったように形を変えて暴落を引き起こす原因は形を変えて存在する。
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