#38 大国の掟
直近のロシア、ウクライナの闘争が平和裏に解決に終わる事を切に願う中、個人としてのレベルアップとしては地政学への理解を深めることが必要不可欠である事を見に滲みて感じる今日この頃。大国を形成しているその裏の思考の理解は、覇権闘争という文脈において各国がどのように動き、何を求めるのかを理解する一助になると考えます。アメリカ、イギリス、ロシア、中国、中東の地政学入門書として有効な学びを複数得た本書の要点を記します。
・アメリカの孤立主義への回帰。フランスとイギリスの戦争に関しては中立な立場を維持していたが、イギリスの海上封鎖を機に米英戦争が始まる。この戦争で州を超えたアメリカ人としての自覚と工業化が進むことになる。またモンロー大統領が、当時中南米を含む地域を支配していたヨーロッパと相互不干渉を宣言することが独立主義の始まりとみなすことができる。
・ヨーロッパで啓蒙思想が流行った頃はアメリカはゴールドラッシュの時期に当たる。当時は啓蒙思想の行き詰まりを見せなかったため、個としての主体を支持する思想。資本主義、民主主義がアメリカで栄える原点となった。
・ニーバーの思想に光の子と闇の子の対比があり、新自由主義の原点となった。独立宣言は、白人とそれ以外を分けた上で、白人の権利を主張しているようにも読める。
・社会主義と資本主義は相互作用的に制度を高め合う働きをしていたが、ロシアの解体と共に起きた社会主義の資本主義への敗北は、資本主義の独走を強めたという見方をすることもできる。
・イギリスも孤立主義をベースにすると多くのことが見えてくる。EUの離脱、ポンドの継続的な利用、全ては孤立主義が原点にある活動の結果である。
・アメリカ、イギリスともに海洋国家であり、海洋は一大航路であり、その上を通って、人々は地点間を行き来することができる。もちろん行かないという選択もできる。積極的に干渉せずに、自国の事を考えるという選択を取ることができるのだ。
・ドイツにはパンゲルマン主義が存在しており、オーストリアだけではなく、東欧も含めてドイツ国外の全ドイツ人の民族的結集を図り、ドイツ帝国の覇権を目指すイデオロギーであった。第二次世界大戦でこの考えは頓挫したものの、その後東側が生存圏であるという理論に置き換わり、ドイツの東側への進軍を後押しすることになった。
・ロシアの南下政策を止めるためにも、東側のハートランドを制するものは世界島を制するとの解釈になり、それが生存戦略に対して大きな影響を及ぼすことになったのだ。
・ギリシャ債務危機の本質は、ドイツがEUという域内で輸出先を確保するために工業化を進めなかったからという視点もある。歴史を振り返ると、マケドニア、ローマ帝国、ビザンツ帝国、オスマン帝国が支配してきており、ギリシャという国は存在していなかった。
・ロシアを支配する主義は、ヨーロッパとアジアにまたがるロシアは、ユーラシア空間によって規定された独自の法則を持つ小宇宙。
・豊富な資源が眠る中央アジアは今まで近代的な民族意識はなく、遊牧民には血縁に基づく部族意識、共通の地理意識だけでイスラム教スンナ派という宗教意識があった。ドイツの東ヨーロッパへの力が、ドイツ崩壊で終わった後不安定な時代に突入。イスラム国家の勃興を懸念したロシアは民族を強制移動させたりした。
・ロシアはタタールのくびきに苦しめられた歴史を持つ。東はモンゴル、西はゲルマンからの侵入に苦しめられた。その流れが、東ドイツ、ポーランド、チェコスロバキア、ハンガリーといった国々を統合しなかった理由の一つとなっている。ロシアは国と接するためには緩衝地帯をもち、面を持つことが自国の安全の為に必要不可欠であると位置付ける。西ヨーロッパとの緩衝地帯としてのウクライナ、グルジアという文脈から捉えることが大切か。