予備口述の合格再現を分析する①(R元年刑事実務基礎1日目)
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【本記事における表記法について】
予備試験口述式試験は、受験生1人に対して、試験官として主査の先生と副査の先生がつきます。1対2ですね。
本記事は、試験におけるやり取りを、試験後に私が再現したものです。私の発言と、主査の発言、副査の発言は以下のように記載するものとします。
私「〜〜〜」
主査「〜〜〜」
副査「〜〜〜」
また、私が受験当時に内心で考えていたことはかっこ書で記載します。
再現の分析については、グレーの網掛けになっている引用部分の外で行います。
【凡例】
基本刑法総論=大塚ほか「基本刑法I 総論 第3版」(日本評論社、2019年)
基本刑法各論=大塚ほか「基本刑法II 各論 第2版」(日本評論社、2018年)
基本刑訴=吉開ほか「基本刑事訴訟法I 手続理解編」(日本評論社、2020年)
三井酒巻=三井誠・酒巻匡「入門刑事手続法 第7版」(※最新版の8版を持ってないので、ご容赦ご容赦……)
ここから再現が始まります
ドアを3回ノックする。
私「失礼します。○室○番です。よろしくお願いします」
入室時のマナーについては、こちらの再現の方で書いた通り。
主査「それでは、事例を読み上げますので聞いてください。Aは、宗教団体の代表です。Aは、病気により死期が迫っていて病院での治療が不可欠なVを、治療のためその親族から預かり、ホテルの一室に連れ込みました。しかし、Aには治療するだけの能力がなく、このままVを死なせてしまったら宗教団体の権威が失墜してしまうだろうと思い、人気のない路上にVを放置することにした。しかし、Aには殺意はなかったものとします。ここまでよろしいでしょうか?」
私「はい」(宗教団体?!って何を出す気?オウムの解散命令とか?宗教的結社の自由?!てかこれ刑法だろ!いい加減にしろ!ええっと、ホテルの一室というと、シャクティパットのやつか。宗教というワードに引っ張られすぎないようにしたほうがいいな。てゆうか、シャクティパットってなんの判例だっけ?過失?共犯?不能犯?ああそうだ不作為犯だな。ホテルの一室に連れ込む行為が作為犯と捉えることも可能だったんだよな。関係あるかわからんが(伏線))
刑事実務基礎では、まず事例問題が出題されますが、民事実務基礎のように事例が記載されたパネルが用意されているわけではないので、聞かされた事案を記憶しつつ質問に答える必要があります。
主査「では、Aに何罪が成立すると思いますか?」
私「はい、保護責任者遺棄罪が成立すると考えます」※この時点では行為社が「A」というのを聞き落としている
主査「なぜ、そう考えるのですか?」
私「すいません、えーと、行為者は甲、でしょうか?」
主査「Aです」
私「はい、それでは、私は保護責任者にあたるかの判断をするに際しては、危険の引受や排他的支配などを総合考慮するという立場にたつのですが、本件におけるAは治療が必要な患者を預かったことで危険の引受けが認められ、また、ホテルの室内ではA以外いないのですから、被害者の生命について排他的支配も認められるので、保護責任者といえると考えるからです」(大塚裕史先生の教えが頭で再現される!)
(真正)不作為犯である保護責任者遺棄罪について、保護責任という構成要件の当てはめをすることが求められています。
作為義務の検討と似たようなことを言えればよいのです。
主査「ちなみに、保護責任者ってなんでしょうか?」
私「ええと、保証人的地位みたいな」(この表現は古いんだっけか、でも他に思いつかん!)
主査「保証人的地位ですか、ふーん」
私(こわ)
このやり取りの意味が、未だにわかりません。他の人の再現を見てみても、このあたり掘り下げられてるわけでもないので、やっぱりよくわかりません。
主査「それでは事例を、AがVを引き取ったところまで戻します。Aは、Vを治療することができず、病院についれていかなければと思い、妻のBに電話で相談することにしました。一連の出来事を聞いたBは、失態が顕になりAの宗教団体の権威が失墜してしまうことをおそれて、Vを路上に連れて行って放置するよう指示し、Aはその通りにVを路上に放置しました。ここまでよろしいでしょうか?」
私「はい」
主査「それでは、Bに保護責任は認められるでしょうか?」
私「ええと、認められると思います」
主査「それはなぜですか?」
私「はい、保護責任者という身分は構成みぶ…(いや、待てよ。これは…)あっ、はい、失礼しました。先程のは撤回させていただきます。保護責任者という身分は、単純遺棄罪との関係で加減身分であるので、65条1項により連帯することはないため、保護責任者遺棄罪の問題とはならないからです。
主査「それは、Bには保護責任が認められないということですよね」
私「あ、はい」(テンパって最初の問いに応えられてなかった)
共犯と身分について聞かれています。
主査「先程もおっしゃられたと思いますが、あなたは、刑法65条について、どのような解釈をしますか?」
私「はい、私は65条1項は構成身分については共犯者間で連帯する旨、65条2項は加減身分について個別的に作用する旨規定したものとの立場に立ちます」(先週のゼミでやったばっかで記憶が新鮮でよかった)
主査「その立場を前提にすると、保護責任者という身分はどちらにあたるんでしょうかね」
私「はい、単純遺棄罪との関係で加減的身分にあたります」(さっきも言ってたけど、重ねて質問してるってことは、これが正規ルートなんだろうな)
論証を貼り付けているだけです。論証集を暗記しておくということが大事だということです。
先程の、Bに保護責任が認められるかと問われた時点で、このような規範定立をしておいたほうがよかったのかもしれませんね。
主査「はい。あなたの立場とは他の立場になりますが、65条1項はいかなる身分であっても共犯者間で連帯し、2項は身分のある者とない者とで科刑が異なることについて規定したという考えがあります。この立場にそって本問におけるBの罪責はどうなりますか?」
私「はい、Bには保護責任者遺棄罪が成立すると考えます」(あっっ、頭の中の大塚先生が「罪名と科刑の分離は許されない」って言いまくってくる!うわああ!学説批判こい!学説への批判ならまかせろ!)
主査「科刑はどうなりますか」
私「科刑については単純遺棄罪のものが適用されます」(批判こないじゃん…)
ここで問われている学説は、基本刑法総論362頁で反対説1として紹介されていますね。
異なる学説の立場からの立論も求められているというのは、最近の(新)司法試験の傾向に似ています。代表的な学説からの処理については、イメージできるようにしておいたほうがいいかもしれません。
主査「はい、それでは事例を変えて、BがAに対し、Vをホテルに置き去りにしろと指示した場合、Bに何罪が成立しますか?」
私「あ、はい、えーと、うーん、保護責任者不保護罪が成立すると考えます」(あれ、不保護って単純遺棄にないんだよな?ということは、結論がさっきと違っちゃうぞ?)
主査「Aに対して、遺棄を指示したらBには単純遺棄罪しか成立しないのに、置き去りにしろと指示した場合は保護責任者不保護罪が成立してしまうのに問題はないでしょうか?」
はいでました。「学説の不都合性をどうにかしろ」パターンの質問です。平成30年度でもありましたね。
ここでの問題意識はわかりますか?
単純遺棄罪の加重類型たる保護責任者遺棄罪と、単純不保護罪がないこととの関係で加重類型ではない保護責任者不保護罪。共犯と身分について判例の立場を前提とすると、加重類型か否かの些細な違いで結論がズレてしまうことになってしまいます。それが結論として妥当なのか、それが肝です。
この問題意識自体は刑法学説的には古くから問題とされているらしく、西田先生の各論の35,36頁にも記載があります(基本刑法には言及なさそう?)。
この不都合性を手っ取り早く解決したいのならば、基本刑法総論363頁の反対説2の立場に立てばよかろうなのです。
私「えっ、うーん、あー(左上の虚空を見つめながら考える)。本来、遺棄というのが本来型なもんですから、どちらかといえば、不保護の場合に保護責任者という身分を連帯させることに問題がある、といういうふうにもおもうの、で、す、があ〜(時間稼ぎ)。う〜〜〜ん(まだ左上を見つめている)」(これはっ!去年もあったみたいな問いだなっ!わかってるよ、試験委員は立場を変えろって言ってんじゃないんだろ、判例の立場への批判を乗り越えればいいってんだろ!やってやらあ!)
私「遺棄、というのは作為でありますが、不保護というのは放置するだけというのでありますので、不作為であります。この比較で言いますと、不作為というのは具体的な行為を要しないという意味で、実行犯にとって心理的なハードルが低いわけですよね、遺棄と比べて。それにもかかわらずこれを指示してAにさせてしまっているということは、従犯たるBは、遺棄とくらべて不保護の場合、結果に対する重大な因果的寄与をもたらしているんですよね。これは遺棄とは違う。この点を捉えれば、不保護が遺棄をさせるより重く罰せられることの根拠になると考えます」(だいぶ時間をとって考えてしまっているが、主査や副査が止めに入ってこないぞ。なんかこわい。後の質問が消滅するのもやだし、ちょうどいいところで打ち切るか)
この時の私は、独自説を創造することは求められていないと理解しつつ、かといって立場を変えるのは印象が悪いのではないかとも考えていたので、あくまで判例説の立場を変えず、事例の不都合性を乗り越えることを選びました。
結論を正当化するためには、保護責任者遺棄罪と保護責任者不保護罪との間に、結論に差異をもたらすほどの本質的な違いがあるということを説明することが必要になると思いました。
私はそのチャレンジをしました。やりきりましたけど、これが正解だったのかはわかりません。反応が微妙だったので。
他の合格者再現を比較検討して、どうすればよかったのか研究してみてください。
主査「そうですか。それでは、事例を変えますね。最初の事例のようにAがホテルにVを連れ込んだ後、Vは死んでしまっても構わないと思い、殺意が生じてしまった後、Vをホテルに置き去りにして死亡させたとします。この事例の場合、Aには何罪が成立しますか?」
私「うーん、殺意が生じたのはどの時点でしょうか?」(むむっ、これは。去年(H30)の過去問が頭をよぎるな。殺意ときたら殺人といってしまいそうだが、それは危ないと直感が言っている)
主査「AがVをホテルの一室に連れ込んだ後に殺意を生じたとします」
私「はい…そうであれば、Aには保護責任者不保護罪しか成立しないと考えます」(これは、ホテルに連れ込んだ行為が殺人とはいえないし、作為義務との関係で判例と違うんじゃないか?)
主査「ほう、その理由は」
私「はい、私は殺人罪と保護責任者不保護罪の限界について、よく言われているように殺意の有無で区別するということもするのですが、それだけでなく、作為義務の内容によっても区別されるとという立場に立ちます。そうすると、本件のAは、ホテルに連れ込んだだけで、なにもしていない、これではただのひき逃げの事例と同じく、作為との同価値性というのは認められないんじゃないかと思います。そうであれば、殺人罪は成立せず、Aには保護責任者不保護罪しか成立しないというふうに考えるからです」(ああ、身分犯といい、これといい、直近の新司の過去問と被るものを感じるなあ)
主査「Aに殺意が生じた連れ込み行為の後の事情からは作為義務の発生が認められない、ということですね」
私「あっ、はい、失礼しました…」(ああ、テンパってまた変なこといってしまった。さっきの逆質問のおかげで趣旨は伝わっているとは思うけれど…)
受験当時の私は、判例の射程問題と理解してましたけど、違いますよね。
シャクティパットの判例(最決平成17年7月4日)も、ホテルに患者を運び込んだ時点での被告人の殺意が認定できないから、ホテルにおける不作為から殺人罪を構成しようとしたんですよね。多分。なので、聞かれてることは判例そのままと思います。
私がこの時に言ってること間違ってるかもしれないです。ひき逃げに引きつけるのって、今思うと筋悪じゃないかな。
主査「それでは次に、刑事手続についてお聞きします。先程の、AがVを遺棄したという事例を前提にします。本件では、Aの遺棄行為を目撃していたCがいました。そこで、担当の検察官がCに話を聞いて、Aの遺棄行為を目撃したことについて供述録取書を作成したとします。他方、本件は公判前整理手続に付されました。ここまででいいですね」
私「はい」(公判前整理手続ならわかる、はず)
刑事訴訟法のフェーズきました。
予備口述の刑訴出題パターンのうち、手続面について、まず公判前整理手続をテーマに問われました(基本刑訴197頁以下、三井酒巻140頁以下)。
主査「検察官は、証明予定事実記載書面を提出し、Cの供述録取書を証拠調べ請求しました。これに対し、弁護人としては検察官の手持ち証拠を見たいと思った場合、なにをすることが考えられますか?」
私「はい、まず、検察官の持っている証拠のリストを交付せよと請求することが考えられます」(類型証拠のまえにこれいっといたほうがいいよな?)
主査「はい、証拠一覧表の交付請求ですよね」
私(左様でございます…)(正式名称でいうべきだった…)
基本刑訴205頁、三井酒巻147頁。平成28年改正で創設された制度です。
主査「その後に弁護人がすべきことはなんでしょうか?」
私「はい、類型証拠開示請求をします」
主査「そうですね、それでは、証拠の開示を受けた後、弁護人はなにをすべきでしょうか?」
私「えーと、証拠調べ請求…」
主査「え?証拠調べ請求?」
私「失礼しました。もう一度質問をお願いしてもよろしいでしょうか?」
主査「はい、弁護人は、検察官から証拠の開示を受けた後、すべきことがあるんじゃないんでしょうか?」
私「んー、あっ、はい、開示された証拠について同意不同意をするか、異議があるかについて意見をする義務があります」
主査「そうですよね」
主査、ホッとしてそうな顔をする。
主査「それでは、これまでとは他に、弁護人が検察官に証拠開示を求めることができるタイミングはありますか?」
私「はい、主張関連証拠開示請求をすることができます」
主査「その開示請求をする前提として、弁護人はなにをしなければならない?」
私「はい、予定主張記載書面を提出します」(証明予定事実記載書面とこんがらがるのはあるあるネタだよね)
このあたりは淡々と答えていく感じです。証人保護について聞かれた平成30年度と比べれば全然易しいです。
主査「そうですね、では、検察官が開示に応じるべきなのに応じなかった場合、弁護人としてはできることはありますか?」
私「はい、裁判所に対して、開示をさせる命令をしてもらえるよう請求をすることができるとの制度があります」(請求か申出かで迷ったが、わざわざ条文で書くくらいだから請求だろうな)
主査「そういうのをなんて呼ぶか知ってる?」
私「え?!……開示命令とか?」(あれ、そんな、え、しらんけど)
主査「裁定請求、って聞いたことあるかな?」
私「すいません、記憶にございませんでした…」(聞いたことねーーよそんなん!!)
1位の人の再現でも「裁定請求」って答えられてませんでしたね。
一応、基本刑訴216頁や三井酒巻152頁に裁定というワードは出てきますが、裁定請求というワードまでは出てきていません。「開示命令の請求」じゃ駄目だっていうの、納得いってません。
主査「わかりました。それでは、公判の段階まで進んだとします。検察官は、弁護人から供述録取書が不同意とされてしまったため、Cについて証人尋問を実施することにしました。この証人尋問の中で、Cは目撃状況については覚えていないとして、なかなか応えようとしませんでした。そこで、検察官は、Cに対し、「なにかを目撃したんじゃないんですか?」(※うろ覚え)と尋ねました。これに対して、弁護人から、誘導尋問であるとの異議が出たとします。この異議をうけて、まず、裁判長はどのような対応をすべきですか?」
私「はい、検察官に対して、異議に対する意見を聞きます」(これはローの模擬裁判でやったとこだ。裁判長が主体になっているのは要注意だな)
ここから刑事訴訟法の後半戦です。証人尋問における規律について問われています。
私の内心として既に書いてありますが、主査の先生が、まず裁判長(裁判所だったかも)の対応を聞いているという点がポイントですね。
おそらく、実務的には、まず裁判長に対して弁護人から異議の申出があり、それをうけて裁判長が検察官に異議に対する意見を聞き、異議の当否を判断するという流れで、異議の処理がなされるはずです。
私は、そのことをローの模擬裁判の予習をする時に読んだプラクティス刑事裁判(プロシーディングスだったかも)を読んで知っていたので、そのことを踏まえて答えることができました(この記事の一番最後で言ってたやつ)。他の受験生はここでもたついてました。
プラ刑やプロ刑は、網羅性の点で不安が残るのであまりおすすめしていませんが、このときは役立ちましたね。ちなみに、基本刑訴233頁にも証人尋問で異議が出た場合の流れが記載されていますが、プラ刑(かプロ刑)にかかれているものよりも簡単なものとなっています。
主査「では、検察官としては、どう意見しますか?」
私「はい、まず、誘導尋問に当たらないということ、また、誘導尋問にあたるとしても、記憶喚起のためのものであるから許容されると意見します」
この答え方なんかも、プラ刑(かプロ刑)に書かれていたやり取りを元にした模擬裁判の経験が役に立ちました。
誘導尋問の規律については、基本刑訴229頁、三井酒巻186頁を参照。
主査「そうですか。では、検察官はCへの証人尋問において、Cの供述録取書を利用しようと考え、Cに対して、署名及び拇印のある供述録取書を示したところ、弁護人から異議が出されました。そこで、検察官としてはどのような対応をとりますか」
私「はい、供述録取書のうち、署名及び拇印がされている部分以外の部分を隠した上、書面の提示が書証の真正を確かめるためであるから刑事訴訟規則上許容されていることを主張して、Cに対して供述録取書を示します」
主査「署名及び拇印を示すのは、書面の何をするためだと言われてますか?」
私「えーと、署名及び拇印がCの意思に基づくものであることを確認するため?」
主査「ようするに、書証の成立の真正を確かめる、ということだよね」
私(あーそういうことか)
基本刑訴230頁にそのものズバリ書かれています。三井酒巻187頁にも当該条文が紹介されていますが、書面の成立の真正を確かめるために用いることができることが本に明記されていませんので、ここは基本刑訴に軍配があがるでしょう。
主査と副査が目をあわせてにっこりする。
主査「それじゃあ、ここで終わります」
私「はい、ありがとうございました」(かわいい)
令和元年度は、平成30年度よりもスムーズに終わったように思います。ただ、これでも120点ですからね私。偏差値でいうと50くらい?
多分、民事でもたついてた箇所があったので、刑事で61点取れたのかなとは思います。口述の採点はよくわかりません。
なにはともあれ、刑法も刑訴も、基本が大事ってことですね。