【憲法】財産権・生存権が出題されたときは
1.はじめに
「憲法は当てはめ勝負だ!」「自由作文してたら合格したわw」
この言説はあながち間違いとはいえません。理論を厚く書くか、当てはめを厚く書くかならば、当てはめを厚く書くほうが点数は伸びます。
しかし、理論をまったく軽視していいわけではなく、最低限の理論的な枠組みに沿って検討しなければなりません。これまでの論文式試験憲法で出題されてきたのは、自由権制約が問題となる問題ばかりだったので、最低限の理論的な枠組み(三段階審査を踏まえつつ、権利の性質×制約の態様から、三種の違憲審査基準を導くこと)を踏まえられている受験生も多かったのではないかと思われます。
しかし、自由権以外からの出題がされた場合はどうでしょうか。三段階審査が使えない場合や、三種の違憲審査基準によることが適切でない場面が少なくありません。
本記事では、自由権以外の憲法上の権利として、財産権・生存権を取り上げて、この分野について論文式試験で出題されたとき、どのような理論的な枠組みに沿って答案を書けばよいのかについて、手短にお伝えしたいと思います。
試験前日に受験生を混乱させるような記事を書いてしまって申し訳ありません。記事を読むため、お時間をいただけたら幸いです。
2.財産権
財産権が問題となる事案類型として、以下のような整理が可能です。
①私人が既に取得した財産的権利(既得権)が問題となる事案
②立法による内容形成(制度形成)の限界が問題となる事案
③森林法違憲判決に近い事案
このうち、①については、憲法上保障された既得権に対する制約が正当化されるか、という問題の立て方ができるので、自由権の処理手順に準拠して答案を書くことができるでしょう。(H29年予備憲法も、既得権制約が問題となっていました)
ただ、②は、①のような既得権制約がないけど、私人の財産を制限するような制度(立法)が問題となっている場合、自由権パターンにのせて答案を書くのが難しいと思われます。
そこで、②が問題となる事案の場合は、以下のような枠組みで検討するのがよいと思われます。
・既得権のないことを確認し、制度形成の問題(=②の事案類型)であることを指摘
・さらに、財産権の制度形成について、立法裁量が認められることも指摘
・(3種の基準で処理する場合は)合理性の基準を定立
・判断枠組みに対する当てはめ
以上の枠組みは、あくまで参考程度のもので、問題に応じて変形させたりさせてください。
なお、②の事案類型について問題となった最高裁判例として、証取法の事件があり、この最判は以下のような総合考慮基準を定立しています。
財産権に対する規制が憲法29条2項にいう公共の福祉に適合するものとして是認されるべきものであるかどうかは,規制の目的,必要性,内容,その規制によって制限される財産権の種類,性質及び制限の程度等を比較考量して判断すべきものである。
合理性の基準に代わって、このような総合考慮基準を答案に書くのも手でしょう。合格思考憲法の改訂版もそのようなアプローチです。
ただ、私は、総合考慮基準は覚えるのが大変なので合理性の基準でいいと思います。(制度準拠審査という選択肢もありますが、大多数の受験生に浸透していない書き方はリスクですので、私としては合理性の基準でよいのではないかと考えます)
次に、③森林法違憲判決の事案類型について見ます。
この事件も、証取法事件と同様に既得権制約のない事案だったので、既得権の問題ではなく制度形成の問題であることは指摘すべきです。
ただ、②とは異なり、審査密度が高い(審査基準が厳格である)のが③森林法の事案類型の特徴です。
なぜ審査密度が高いのか、代表的な学説として、㋐法制度保障論と㋑ベースライン論とがあります。㋐は、そもそもその理解が困難である上、未知の試験問題にこれを応用させることが難しい(一応、宍戸・解釈論の応用と展開160頁は「契約」や「相続」について問題となることを指摘しています。)と思うので、試験対策上は㋑ベースライン論に沿って論述することが適切ではないかと私は考えます。
これは端的に言うと、「その社会の法律家集団の共通理解として、これは当然だろうという制度」(森林法違憲判決でいうところの共有物分割請求制度(民法256条1項本文))からの乖離の有無を検討し、乖離が認められる場合に、審査密度が高くなるということです(長谷部・続Interactive憲法43頁参照)。
森林法違憲判決は、厳格な合理性の基準を採用したものとの理解(芦部244頁)があるので、答案でも、ベースライン論により審査密度が高くなった場合、厳格な合理性の基準(中間審査基準)を定立するのがよいと思われます。
ちなみに、森林法違憲判決は以下のような判断枠組みを定立しています。
裁判所としては、立法府がした右比較考量に基づく判断を尊重すべきものであるから、立法の規制目的が前示のような社会的理由ないし目的に出たとはいえないものとして公共の福祉に合致しないことが明らかであるか、又は規制目的が公共の福祉に合致するものであつても規制手段が右目的を達成するための手段として必要性若しくは合理性に欠けていることが明らかであつて、そのため立法府の判断が合理的裁量の範囲を超えるものとなる場合に限り、当該規制立法が憲法二九条二項に違背するものとして、その効力を否定することができるものと解するのが相当である
上記の目的手段審査の判断枠組みを答案に書いてもいいかもしれませんが、私としてはおすすめしません。(森林法違憲判決って、判断枠組みが緩やかなくせに当てはめを厳格にした判例っていうイメージがあって癖が強いので、判断枠組みは判例のものではなくて学説のものを置き換えたほうが論じやすいと思ってます。)
3.生存権
生存権の出題パターンとして、裁量が問題となるパターンとならないパターンがあります。ここでは、裁量が問題となるパターンについての枠組みを見てみましょう。
まず、(立法裁量であれ行政裁量であれ)裁量が認められることを認定することが必要でしょう。ここは行政法の問題でやっていることとあまり違いはないと思われます。
肝心なのは、裁量が認められるとして、老齢加算廃止最判のような判断過程審査を採用するか否かについての論述です。
同最判が判断過程審査を採用した理由としては、
①保護基準が憲法25条の具体化である点
②不利益変更のゆえに被保護者の信頼は無視できない点
の2つが挙げられます。答案上も、この2点について検討することになるのではないかと思われます。
②については、受験生の間で有名な制度後退禁止原則により根拠付けることが可能ですが、他にも、信頼保護原則に基づき、要保護性の認められる期待的利益が認められるかというアプローチもあり得ます。判例は後者の立場にたった上で、以下のように処理しています。
また,老齢加算の全部についてその支給の根拠となる上記の特別な需要が認められない場合であっても,老齢加算の廃止は,これが支給されることを前提として現に生活設計を立てていた被保護者に関しては,保護基準によって具体化されていたその期待的利益の喪失を来す側面があることも否定し得ないところである。そうすると,上記のような場合においても,厚生労働大臣は,老齢加算の支給を受けていない者との公平や国の財政事情といった見地に基づく加算の廃止の必要性を踏まえつつ,被保護者のこのような期待的利益についても可及的に配慮するため,その廃止の具体的な方法等について,激変緩和措置の要否などを含め,上記のような専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権を有しているものというべきである。
このような検討を踏まえて、判断枠組みとしては、
①(略)最低限度の生活の具体化に係る判断の過程及び手続における過誤,欠落の有無等の観点からみて裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると認められる場合,あるいは,②老齢加算の廃止に際し激変緩和等の措置を採るか否かについての方針及びこれを採る場合において現に選択した措置が相当であるとした同大臣の判断に,被保護者の期待的利益や生活への影響等の観点からみて裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると認められる場合に,生活保護法3条,8条2項の規定に違反し,違法となるものというべきである
というようなものを(簡潔に)示す必要があるものと思われます。
また、判断過程審査の当てはめの中で問題となってくるのが、生活外要素(財政事情・国民感情等)を考慮していいか、重く見ていいかという問題です。
(裁判例なんかは生活外要素を広く考慮しているイメージがありますが)生活外要素に対抗するためのロジックとして、先述した判断過程審査を発動するための要件である「①保護基準が憲法25条の具体化である点」につき、「保護基準は純然たる法令上の創設ではなく、憲法25条の要請のうち最も裁量が狭い「最低限度」の確認だとの観点から、需要の探求以外の生活外要素の過大考慮を禁止する、というものがあります(百選135事件の柴田解説を参照)。
答案上も、「最低限度」の確認をする問題だということを説得に論じて、生活外要素の考慮に歯止めをかけるのがよいのではないかと思われます。
ちなみに、受験生の中には、「立法裁量が問題となる場面で判断過程審査してもいいの?」とか「判断過程審査をした結果は違法ではなく違憲としていいの?」とか疑問を持っている人がいるかもしれませんが、大丈夫です。対立法裁量でも判断過程統制してもいいですし(論点教室59頁以下)、判断過程審査の結果、違憲の結論を導いてもいいんです(論点教室164頁)。