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【企画参加】私の王子様

こちらの企画に参加させていただきます🖐
伊集院秀麿さまのイラストにインスピレーションを頂きました。ありがとうございます。




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コンビニに寄り、ふと雑誌コーナーを見た私は、思わず息を飲んだ。

そこにあった週刊文醜ぶんしゅうの表紙が目に止まったからだ。

【変態ヒーローきゃらを死す】


口から飛び出しそうになる心臓を抑えて週刊誌を購入し、コンビニの駐車場で慌ててページをめくる。

嘘だ!嘘であってほしい。
あのきゃらをさんが亡くなるなんて!


【2022年9月9日、変態ヒーローとして活躍されていたきゃらをさんが事故により亡くなった】




どうやら本当らしい。
しかも車に轢かれそうな仔犬を助けて、だなんてあの人らしい。
掲載されているきゃらをさんの写真は、あの頃と全く変わっていなかった。
あれから20年も経つというのに。


♦♦♦♦♦


初めてきゃらをさんと出会ったのは20年前。
私が小学一年生の頃。
おかっぱ頭の地味で大人しい子供だった。
ある日私は、学校帰りにクラスの男子にからかわれ、後ろからドンと押された。
その途端、道端の犬のう〇こを踏んでしまったのだ。

男子たちは、「う〇こ踏んだー!う〇こ踏んだー!」と口々にはやし立てた。
私はどうしたらいいか分からなくて、うつむいて泣いてしまった。

神様、いったい私がどんな罪を犯したというのでしょうか。
小学生にとって、う〇こを踏むということがどれほどの十字架かお分かりでしょうか。
このまま小学校を卒業するまで、否、きっと中学校に入っても卒業しても50年後の同窓会でも話題に上がるに違いない。


人生オワタ・・・。

そう思った時、あの人が現れた。

「どうしたんだい?」

優しい声がした。
振り向くと大人の男の人が立っていた。
上半身は裸、下は海水パンツのみを身に付けており、頭にはパンツをかぶっていた。
パンツの隙間からのぞく瞳は優しかった。


お母さんから「怪しい人に声を掛けられても無視しなさい。」と言われたけど、この人は怪しい人じゃないってすぐ分かった。

私がう〇こを踏んでしまった事を伝えると、その人は何も言わずに私の前に膝をついた。
まるでシンデレラにダンスを申込む王子様のようにひざますき、ゆっくりと、う〇この付いた私の靴を脱がせた。
そして自分の海水パンツを脱ぎ、そのパンツで靴のう〇こを拭きだしたのだ。
しかも股間にはモザイクを入れるのを忘れずに。

その紳士のような振る舞いに、私は呆然としてその様子を眺めていた。
そしてすっかり綺麗にう〇こを拭き取ると靴を履かせてくれた。

「気を付けて帰るんだよ。」
そう言って立ち去ろうとする彼にハッと我に返り、
「あっ・・・ありがとうございます。」
と伝え、何かお礼がしたいなと思った。
そうだ、休み時間に書いたセーラームーンの絵、すごく上手に書けたんだった!

「あの・・・これを。」
私はらくがき帳からセーラームーンの絵を破り、彼に渡した。
彼は絵をジッと見つめてニッコリ笑い、
「ありがとう。大切にするね。」
そう言って立ち去った。


彼が、変態ヒーローきゃらをとして活動していて、街の住民に愛されていることは後から知った。

彼は本当にヒーローだった。
でも私にとっては初恋の人。王子様だった。
いつかまた逢いたいな・・・。
そう思っていたけれど、ヒーローの彼に逢うことなど叶わず・・・。
あれから20年も経ったんだね・・・。

♦♦♦♦♦


再び週刊誌に目を落とすと、そこにはきゃらをさんの最期の言葉が書かれていた。


【俺の財宝か?欲しけりゃくれてやる。
この世のすべてをそこに置いてきた。探せ!】


きゃらをさんの財宝かぁ。
その中に私のセーラームーンの絵も入ってたらいいな。
そんな事を思いながら空を見上げると、そこにはパンツのような虹がかかっていた。


~Fin~


⚠️この話はフィクションであり、きゃらをという人物は実在しません。


【あとがき】
いやぁ、書いてて面白かったです。
伊集院秀麿さまのイラストが無ければ産まれなかった話です。
楽しい企画を、ありがとうございました。

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