とよさん の 折り鶴
私は現在、福祉施設で働いている。施設の利用者様の中に、100歳の〈とよさん〉が居らっしゃる。
〈とよさん〉は 耳は少し遠いが、杖で歩けるし、俳句やカラオケを趣味にされているとてもパワフルな方だ。
「昨日の夜、凄い雨やったんやてなぁ、私、耳遠いからなんも聞こえへん、ふふふふ」とチャーミングに笑う。
こないだそんな〈とよさん 〉と話す機会があった。
「あんたは結婚してないのか?」と聞かれ「母親に良い印象がないし、家族がバラバラだったので家族というものが私は解らない、だからする気がなかった」と正直に話した。
ここで「いや、まだ遅くはない。今からでも結婚したらええ、一人は寂しいから、絶対しいや」と言う年配の方が多い中
〈とよさん〉は「そうか。人、それぞれやからな」と言ってくれた。
そして、今日、あの話以来、久々に〈とよさん〉に会った。
「あんた、ずっと休んでたんか?」
「違いますよ、たまたま、曜日が違うから、会わなかっただけですよ」
「そうか、良かった。アンタに渡すもんがある」と
〈とよさん〉は鞄の中から紙を取り出し、紙を広げながら私に見せた。紙の中には綺麗な【折り鶴】入っていた。
「これをな、良かったら貰って。広げたら座るから。これを後ろにしてな・・・」
と手作りの屏風も見せてくれた。和紙の屏風には周りに手塗りで色が塗ってあった。
「【鶴】はな、【幸せになる】んや。だからな、アンタは【幸せ】になるんや」
仕事中だが、私は涙が溢れそうになった。100歳に言われたら、絶対なるやん、なれるやん私!!
〈とよさん〉が人気者なのが、とてもよく分かった気がした。
私が仮に100歳まで生きていたとして、人の、しかも赤の他人の幸せを祈って折り鶴を折れるだろうか?体力・気力だけではない、思いやりを持てるのだろうか。
いや、ずっと〈とよさん〉はそう生きてきたんだろうな、だから100歳の今でも、できる事なんだ。
今日、心の底から【私、幸せやな】って初めて思えた。これが【幸せ】なんやな。
この【幸せ】を私も人に与えられるようになろう、私〈とよさん〉になろう。
100歳にして尚、人の心を動かす女〈とよ〉ニクイ女だぜ。
100歳の〈とよさん〉 が折ってくれた折り鶴は今日から【私の宝物】になった。