香水、それは命の源 #トイアンナマガジン
いい香り。慰み、喜び、労り、すべてをくれる香り。表皮にその余韻が残る限り、生きる力を分け与えてくれる香り。これまで200種は香水を試した私にも、何度も、めくるめく「奇跡」が訪れた。
今日はそういう「奇跡」をくれた香水の話をしたい。
あるとき、私は病床にいた。うつで倒れたのだ。2週間ほど風呂に入れず、うごめく姿はまるで毛虫のよう。自分の醜さ、みじめさに声を上げることもできず、泣く力も残っていなかった。
そんなとき、香水が私を「人間」に押し留めていた。香水はワンプッシュで、気品ある香りを私に纏わせてくれた。目を閉じて嗅ぐだけで、自分が「まっとう」に戻ったときの夢を見させてくれた。マッチ売りの少女が、つかの間の灯火に夢を重ねる気持ちがわかる。漂う香りは、死から私を引き剥がす鎖だった。
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