見出し画像

男性を「イケメン」と呼ぶのはルッキズムか #トイアンナマガジン

上野千鶴子氏の、こんな話が掲載されていた。

男は多元尺度なんです。たとえばイケメンじゃなくたって、学歴とか地位とか、そういった尺度が男にはある。男の尺度の中で一番強力なのは金力(稼得力)であり、イケメンかどうかなんてことは、男にとってはマイナー尺度です。つまり男女のランクオーダーは非対称ですから、『女だって同じことをやっているだろ』とはなりません

上野千鶴子氏に聞いた「美しい人に『美人』と言ってはいけない理由

ここから先は「さすがにないわ」と思った理由を示したものだ。

女性がルッキズムに悩まされてきたのは事実

女性がルッキズム(外見差別)に悩んできたのは事実だ。しかも、それは世界に共通している。テキサス大学名誉教授のダニエル・ハメルメッシュ氏は見た目がいい人について「就活で採用を勝ち取る可能性は高くなるし、出世もしやすくなり、給料もよくなる」とコメントしている。

摂食障害の男女比は1対10と、圧倒的に女性が多い。摂食障害は「世間から見られる自分を過度に気にする」ことも原因のひとつとされている。

このことから、いかに女性が世間から外見至上主義のプレッシャーを受けているかも伺い知れる。直近でも、オリンピックで渡辺直美さんを豚に例えて出場させようとした案があったとわかり、大きな批判を浴びた。

外見に関係ない仕事でも「ブス」と批判を浴びる日常

私のような外見と関係ない仕事をするライターですら、真っ先に浴びる批判は「ブス」「デブ」だったりする。

ライターなのだから、「文章が下手すぎる」といったご批判は甘んじて…どころか土下座しながら受けるのだが、外見にまつわる批判も大量にいただく。
(上記はただの例示なので、これらの方を誹謗中傷しないようくれぐれもお願いしたい。この記事の目的は、誹謗中傷の連鎖を生むことではないので)

こういった外見に対するバッシングは、顔出しする前からよく受けていた。顔出ししていないのにブスとはこれいかに……だが、相手が傷つきそうな言葉を選んで、適当に投げているだけなのだろう。

同じ恋愛ライターをしている男性に聞いても、外見に対する批判はほとんどないと聞く。恋愛ライター同士でもそれだけの差があるのだから、外見を常に出すお仕事の方など、その苦労は計り知れない。

「美人」がセクハラになる例もある

上野千鶴子氏の発言を受け、ゆづか姫が「美しくなろうとする者の努力の否定になる」と反論したが、これもお門違いだ。ルッキズムが問題になるのは、仕事、それも美醜に関係ない仕事をしているシーンが主だからである。

たとえば、秘書が顔で選ばれることがある。あるいは、顔が良くないからといって、受付の仕事をやらせてもらえない。こんなことは、誰もが「当然ある」と知りながら黙認している事実だろう。

「いい顔の子がいると職場のパフォーマンスが上がるから」という言い訳をよく聞くが、だとしたら「容貌が美しい人、募集」と書いてしまえばいいのである。募集要項にない項目で人を採用して、こっそり落とす。これが差別なのだから。

したがって「美人」と声をかけることが、差別になることもある。特にビジネスシーンで、何も美醜と関係ない仕事をしているときに「○○ちゃんは美人だから得していいねえ」などと声をかける行為は、だれがどう聞いてもルッキズムに基づいたセクハラだろう。美人という言葉を褒める目的で使ったからといって、差別にならないわけではない。

だから私は最近、美人という言葉はなるべく避けて「○○さんがいると、場が明るくなる」「今日、はつらつとしていて素敵ね」といった言葉を選ぶ。ポリコレが過ぎる……といえばそうかもしれないが、誰かを傷つける可能性が少しでも減るなら、その方がいいだろうと思うからだ。

「イケメン」呼ばわりは許されるのか

ところで、男性もまたルッキズムによる差別を受けている。私はこれまでに「○○くんってイケメンでいいわよねえ、得してきたでしょ」といじられている……を超えて、セクハラを受けている男性社員を何度も見てきた。

これだけセクハラが問題になった今ですら、男性社員は女性社員と違ってかばってもらえる可能性も低く、周りも「お相手ごくろうさま」という態度で黙認している。

イケメンは社会的に「損」もしている

しかも、イケメンは社会的に損をしている可能性がある。これまで、男性も顔が良いほうが優遇される差別がある……というのは知られていた。だが、UCLとメリーランド大学の調査によると、

男性の上司は、イケメンを仕事での“脅威”と感じる。

「イケメンや美人は出世しやすい」は本当か

という、定説を覆すデータが出てきたのだ。

この論文は「全般としてまず、イケメンであるほうが出世に有利である」と認めている。そのうえで上司がイケメンを部下に持った場合、その男性をいじめやすい……という可能性を示唆したのである。

この論文は、上野千鶴子氏の発言を二重に否定している。まず、上野千鶴子氏は、

男の尺度の中で一番強力なのは金力(稼得力)であり、イケメンかどうかなんてことは、男にとってはマイナー尺度

と、述べていたが「金力(稼得力)」に顔が影響するのだから、「イケメン」あるいは「キモイ」はマイナー尺度と言い切れない。さらに、美人が妬まれるように、イケメンも妬まれて不遇な目に遭いやすい。それがしかも、美醜と無関係なはずのビジネスシーンで起きている。これが差別でなくてなんだろうか。

美人もイケメンも、ビジネスの場では不適切

何より、男女平等を唱えるならば、女性だって美醜以外の尺度でどんどん評価されていくべきであり、外資を筆頭にその傾向は強まっている。ユニリーバ・ジャパンは採用で顔写真を求めなくなった。また、リモート採用・リモート勤務が進むなかで「臭い」などの"順ルッキズム"といえる差別も減りつつある。

そのような中で、「美人」は差別だが「イケメン」はそうではない……というのは、男性も美醜で判断されて化粧をしつつあり、かつ女性も多用な尺度で評価され始めた2021年においてあまりに前時代的と言わざるを得ない。

★この記事は数日間一般公開したのち、#トイアンナマガジン 定期購読者のみの公開に変わります。

ここから先は

0字

「寝ながらスマホで読むだけ」キャリアの話をお届けします。 ・部下/後輩育成が無理すぎる ・社内政治…

スタンダードプラン

¥1,000 / 月
初月無料

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?