怪文書を集めている。
私の手元には、まあまあな数の怪文書が集まっている。集まっている、と書いたのは、何もしなくても届くからだ。
ファンと思しき方の、妄想と現実が入り交じる日記。数年にわたり、「もうダメです、すべてを終わりにしようと思います」と「やっぱりやめました、今日を生きることにします」を行ったり来たりするメッセージ。あるいは、私を脅迫するものまで。
最後のは警察へ届けるけれど、その他は放っておいている。
長年、その怪文書たちを読むのが怖かった。読んだら自分が狂う気がしていたのだ。私は、自分以外の母方一族は全員霊が見えるという家系に育っている。そして、自分だけ「そうではない」ことに苦しんできた。
この話を医師にしたとき、いつだってほほえみを崩さない精神科医が真顔になって、「もし霊が見えたら、すぐに病院へ来てくださいね」と言った。きっと、統合失調症の血筋だと思われたのだろう。そして幸いにも、私にはまだ霊が見えていない。
そんなわけで、たぶん他の人よりも、私は他人の狂気に敏感だった。「この人はおかしい」と感じたら、すぐに距離を置いた。あまりにも強烈に後ずさるので、禍根を残す別れ方もあった。だが、手段は選んでいられなかった。私は、自分が狂うのが怖かったのだ。
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