R6司法試験再現答案 経済法第1問

第1.
⒈令和3年4月頃以降におけるメーカー9社、Y社及び販売業者9社による各行為が「不当な取引制限」(独占禁止法〈以下略〉2条6項)に該当し、3条後段に違反しないか。
⒉⑴上記の者らはそれぞれ甲製品の製造・販売・卸売事業を行う者であり、それぞれが「事業者」(2条1項)に当たる。
⑵ア.「他の事業者」とは形式的競争関係になくとも、実質的競争関係にあると認められればこれに該当する。
イ.本件において販売業者9社はメーカー9社から甲の供給を受けこれを販売しており、また、Y社もメーカーから甲を仕入れそれを販売業者に販売・卸売しているだけであって、これらの者とメーカーとの間には形式的には競争関係がないように思える。もっとも、メーカー自身が甲の販売活動をすることは可能である上、販売業者9社は甲の販売について特に営業活動をしていないが、この活動を行えばメーカーと競争することも可能であった。Y社についてもメーカーからの仕入れ後、卸売段階で価格競争を行うことが可能である。
 これらのことから、上記の者らは互いに実質的には競争関係にあったといえる。
ウ.従って、上記の者らは互いに「他の事業者」にあたる。
⒊⑴「共同して」とは、明示又は黙示の意思の連絡のことをいう。入札談合は基本合意と個別的調整の二段階の行為からなされることから、入札談合の場合はここでいう「意思の連絡」とは基本合意のことをいうと考える。基本合意の存在が直接証拠により立証できない場合には、希望の申出、希望の調整、入札価格の決定、入札における事後的行動の一致といった間接事実からその存在を推認する。
⑵本件は入札における談合が問題となっている。そして、基本合意の存在を立証する直接証拠はない。そこで、間接事実の積み重ねから、その存在を推認する。
ア.令和3年4月頃、メーカー9社とY社は甲製品の入札に関して本件取決めを行った。その中では、Y社は毎年度ごとにメーカー9社と個別に面談し、入札一覧表を提供することで入札についての事前の連絡を行い、かかる表を参考にしてメーカー9社はY社に受注希望の有無を伝えていた。その上でY社はメーカー9社の希望を調整して供給予定者を決定し、また、各入札価格を決定し、メーカー9社は各々自らが指示する販売業者にその入札価格を提示させていた。
イ.この点販売業者9社は自ら希望価格を提示するなど関与できなかったようにも思える。しかし、販売業者9社は従来からいずれも甲の販売について特に営業活動をしておらず、各メーカーの指示に従った価格で甲を販売しており、その売上額から一定額のマージンを受け取っていた。このことから、メーカーの指示に従っていれば甲の販売活動・マージン獲得を続けられる以上、販売業者9社にはメーカーの指示を守るインセンティブがあったといえる。このことから、販売業者9社はメーカー9社の指示に従うという形で間接的に関与していたということができる。
ウ.メーカー9社間では各入札について直接の連絡交渉を一切行っていない。このことから、メーカー9社は本件取決めに関与していないように思える。しかし、メーカー9社はY社という連絡者を中継人として間接的に連絡をし、本件取決めに間接的に関与していたということができる。
エ.これらのことから、本件取決めにおける希望の申出、希望の調整、入札価格の決定、入札における事後的行動の一致から、基本合意を推認することができる。従って、上記の者らの間には黙示の意思の連絡があったとして、「共同して」と認められる。
⒋⑴「相互に」「拘束」とは、契約等による法的拘束力までは要されず、事実上の拘束力があれば認められる。その判断は、①拘束目的・内容の共通性、②拘束の相互性を検討してなされる。
⑵ア.本件取決めは指示した供給予定者が決定された入札価格で落札するという共通の目的のためになされたもので、その内容も共通している。
イ.上述の通り、本件取決めは上記の者らを相互に拘束するものである。
ウ.従って、拘束目的・内容の共通性、及び拘束の相互性が認められる。
⑶よって、「相互に」「拘束」したといえる。
⒌⑴「一定の取引分野」における「競争を実質的に制限」したといえるか。
⑵入札談合の場合、基本合意の対象が「一定の取引分野」となる。本件における基本合意の対象は、55団体が行う令和3年4月頃から令和6年6月28日までに実施される甲製品の入札200件であるところ、これが「一定の取引分野」となる。
⑶入札談合の場合、「競争を実質的に制限」とは、基本合意によって、その意思により落札者及び落札価格をある程度自由に左右できる状態のことをいう。
 本件において、国内におけるメーカー9社の甲製品のシェアは合計約9割である。このような有力なメーカー9社が上述の通りその指示の通りに動く販売業者を通して上記行為に及べば、基本合意によって、その意思により落札者及び落札価格をある程度自由に左右できる状態を作出するといえる。
 従って、「競争を実質的に制限」したといえる。
⒍⑴令和5年10月13日に実施された甲製品の入札において、X2社がZ2社へ指示をすることで、予定された落札者・落札価格での落札は失敗している。また、甲製品の入札200件のうち20件についてはアウトサイダーが落札している。これらのことから、入札の失敗が入札談合の成立に影響を及ぼすのか、その既遂時期が問題となる。
⑵入札談合は基本合意の成立によって既遂となる。基本合意が成立することにより上記のような落札者及び落札価格をある程度自由に左右することのできる状態が生じるおそれが生じるといえるからである。
⑶本件においては、令和3年4月頃に基本合意が成立したといえるので、上記落札の失敗があったとしても、この時点で既遂となっている。
⒎⑴X2社は令和5年12月7日に入札談合から離脱したといえるか。
 入札談合からの離脱が認められるには、単に内心で離脱の決心をしているだけでは足りず、外部的行動等により離脱意思を表明し、他の者がこれを認識することが必要と考える。
⑵本件では、X2社は令和5年12月7日に自社以外のメーカーとY社の各担当者に対し、今後は自社で独自に決めた価格で応札していく旨を明確に表明し、それ以降本件取決めに基づく行動をとっていない。そして、他の者はX2社のかかる表明・行動を認識している。このことから、X2社は同日、入札談合から離脱したものといえる。
⒏正当化事由が認められるか。目的が正当で手段が相当、すなわち、最小限度といえる場合に正当化事由が認められる。本件における入札談合の目的は甲製品の入札に関する受注調整であって、かかる目的は専ら事業経営上の目的であることから正当な目的とは言えない。従って、正当化事由は認められない。
⒐以上のことから、上記の者らの各行為は「不当な取引制限」に該当し、3条後段に反して違法である。
第⒉Y社に対する課徴金の有無及び金額
 違反行為がなくなった時期は基本合意の効力がなくなった時である。本件では令和6年6月28日に立入検査が行われていることから、この時点で基本合意の効力がなくなったとして、違反行為がなくなったといえる。
 令和3年4月頃から令和6年6月28日までの間、卸売業として介入したY社の売上額10億円(7条の2第1項1号)に「百分の十」(同項柱書本文)を乗じた1億円がY社に対する課徴金として課される。そして、この額は百万円以上であり、同項柱書但書の適用もない。
以上

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