R6司法試験再現答案 経済法第2問

第⒈X社の決定(a)・(b)の実施について
⒈X社の決定(a)・(b)の実施は拘束条件付取引(独占禁止法〈以下略〉2条9項6号ニ・一般指定12項)に該当し、19条に違反しないか。
 同決定(a)は、価格を拘束するものではないことから再販売価格拘束(2条9項4号)に該当せず、また、「競争者と取引しないことを条件」としているわけではないため排他条件付取引(2条9項6号ニ・一般指定11項)にも該当しないことから、拘束条件付取引該当性が問題となる。
 同決定(b)は、取引をすることを前提としている以上、取引拒絶(2条9項6号イ・一般指定2項)には該当しないため、拘束条件付取引該当性が問題となる。
⒉⑴「拘束する条件」とは何らかの人為的手段をもって事実上拘束する条件であれば足り、必ずしも法的拘束力までは必要とされない。
ア.決定(a)について
 本件では、ZがY社製αについて地域ごとに価格に差を設けて取り扱うことに応じないように要請している。かかる要請はZへのX社製αの販売を停止するというZへの通知という人為的手段をもって行われているところ、後述の通りX社が有力な事業者であることを併せて考えれば、Zを事実上拘束する条件であるといえる。
イ.決定(b)について
 本件ではαを利用している各医療機関に対し、Y社からのαの供給を受ければX社からのαの供給を停止すると通知している。後述の通り、X社が有力な事業者であること、X社の供給を受けられなくなるとβ検査ができなくなり得ることから、各医療機関を事実上拘束する条件であるといえる。
ウ.従って、「拘束する条件」といえる。
⑵X社はかかる「条件」をもってZ・各医療機関と「取引」をしている。
⒊⑴「不当に」とは、公正競争阻害性を指す。この点拘束条件付取引は原則として適法である。なぜなら、取引においてどのような条件を定めるかは本来自由であるからである。もっとも、例外的に、競争回避による自由競争減殺が認められる場合には公正競争阻害性があるものとして「不当に」に当たると考える。その判断の前提として、市場の画定を行う。
⑵ア.市場は、商品・地理的範囲について、需要の代替性を基礎とし、供給の代替性を補充的に加味して画定される。
イ.β検査にはαが用いられる必要があり、そのβ検査はいくつかの疾病の発見について非常に高い精度を示し、それ以外の検査では発見できないものを高い確度で見つけ出す例が多いことで知られている。このことから、β検査自体に需要の代替性がなく、それに用いられるαも需要の代替性がなかったといえる。従って、商品範囲はαに画定される。
 αは全国に供給されており、全国から需要があるといえる。従って、地理的範囲は日本国内と画定される。
ウ.よって、市場は日本国内におけるα製造・販売市場と画定される。
⑶公正競争阻害性の有無
ア.決定(a)について
 X社は迅速配達可能な形状・安定した品質でのαの製造に最初に成功し、αを全国一律に販売していた。αはβ検査に必要だが、X社の製造・販売前は高度医療機関のみがαを製造しβ検査を行っていた。このことから、X社はαの製造・販売について独占的なシェアを有し、かつ有力な事業者であったということができる。
 このような状況の中でY社がαの開発に成功しαの製造販売を開始した。しかし、X社は上記決定(a)を実施した。この点Zは公益法人として一定の手数料を除いてメーカー等が指定した価格で指定の取引先に供給することを原則とし、もって全国一律のαの供給を達成しようとしていた。しかし、Zが定評あるX社製αの供給を受けることができなくなってしまうと、かかる従前の公益法人としての役割を果たせなくなり、必要量のαを供給することができなくなることが懸念され、Y社の経営方針⑴に基づくY社製αの取扱いが躊躇されることとなった。結局、Y社は両地域以外の地域でのみZを通じた販売を行うこととし、両地域についてはZを利用した場合と比して費用をかけてY社が直接自ら低価格で販売することとなった。
イ.決定(b)について
 上述の通り、Y社からαの供給を受けると、X社からαの供給を受けられなくなる。この点新規事業者であるY社が今後も必要量の全てを安定的に供給できるかは懸念されるところであり、実際にY社からαを購入することを断念するものも多く、Y社によるそれらの医療機関へのαの販売は難しくなり、結果として両地域における低価格販売によるY社製αの売上げは想定より伸びなかった。これはX社の決定(b)の実施によって生じたといえる。
ウ.これらのことからすると、X社の上記決定(a)・(b)の実施によって両地域における競争が回避され、自由競争が減殺されたといえる。従って、公正競争阻害性が認められ、「不当に」といえる。
⒋⑴正当化事由が認められるか。目的が正当で、かつ、手段が相当性を有している場合に正当化事由が認められる。
⑵ア.本件におけるX社の決定(a)・(b)の実施の目的はαの全国一律の公平な配分である。上記αの必要性・供給の困難性を考えれば、かかる目的は正当といえる。
イ.本件におけるX社の決定(a)の実施の手段は地域ごとに価格差を設けることを容認せず、これに応じた場合ZへのX社製αの販売を停止することである。この点上記目的を達するならば、一定額以下の額でのαの販売を容認しない旨の通知で足りる。
本件におけるX社の決定(b)の実施の手段はY社からのαの供給を受けた医療機関に対するαの供給の停止である。もっとも、上記目的を達するならば、αの供給量を制限するなどより制限的でない手段が存していたといえる。
従って、両手段は目的を達する上で最小限度とはいえず、手段としての相当性を欠く。
⑶よって、正当化事由は認められない。
⒌以上のことから、X社の決定(a)・(b)の実施は拘束条件付取引に該当し、19条に違反する。
第⒉X社の決定(c)の実施について
⒈X社の決定(c)の実施は取引妨害(2条9項6号へ・一般指定14項)に該当し、19条に違反しないか。
⒉Y社はX社にとって「国内において競争関係にある他の事業者」である。また、Y社の「取引の相手方」であるβを設置している各医療機関に対し、新型γに関して、明確な根拠もなく「新型γではX社製αは利用できない」と説明し、その「取引」を「妨害」しているといえる。
⒊⑴「不当に」とは公正競争阻害性のことをいう。取引妨害は原則として適法である。なぜなら、誰を取引の相手方とするかを選ぶことは自由であるからである。もっとも、例外的に、競争者を排除し自由競争を減殺する場合には公正競争阻害性が認められる。検討の前提となる市場は上述した市場と同一である。
⑵上述の通り、X社はαに関して有力な事業者であり、そのようなX社製のαが新型γに利用することができないとの説明をX社から受ければ、既に定評のあるX社製αが利用できなくなることを懸念して新型γの導入を取りやめることが考えられる。実際にそのような取り止めの例が見られ、新型γの販売実績が想定水準を大きく下回り、これに対応するY社製αの販売も想定水準を大きく下回った。このことから、X社の決定(c)の実施によってY社製α、ひいてはY社が競争者から排除され、自由競争が減殺されたといえる。
⑶従って、公正競争阻害性が認められ、「不当に」といえる。
⒋X社は新型γに関して検査等を行い、明確な根拠に基づいて説明をすることができたはずである。従って、手段としての相当性を欠き、正当化事由は認められない。
⒌以上のことから、X社の決定(c)の実施は取引妨害に該当し、19条に違反する。
第⒊
⒈X社の決定(a)~(c)の実施は排除型私的独占(2条5項)に該当し、3条前段に違反しないか。
⒉⑴「排除」とは、人為的手段によって事業活動の継続または新規参入を困難にすることをいう。
⑵本件では、上記決定(a)~(c)の実施という人為的手段により、Y社の両地域での低価格でのαの供給による新規参入、及びαの販売事業の活動の継続が困難となっている。従って、「排除」が認められる。
⒊⑴「一定の取引分野」とは、競争の行われる場、すなわち市場のことをいう。市場は上述の市場と同一である。
⑵「競争を実質的に制限する」とは、市場支配力の形成・維持・強化のことをいう。
 本件では、上述の通り、有力な事業者であるX社が上記行為に及ぶことによって、Y社は本来なしえたαの供給・販売ができなくなっている。このことから、X社の市場支配力の形成・維持・強化が認められ、「競争を実質的に制限」したといえる。
⒋上述の通り、正当化事由は認められない。
⒌以上のことから、X社の決定(a)~(c)の実施は排除型私的独占に該当し、3条前段に違反する。
以上

いいなと思ったら応援しよう!