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できない文系院生の悲惨な末路(15)
同期のKくんの院試での思わぬ失敗により,棚ぼたで博士課程への進学のチャンスを掴んだMくん.間違っている修士論文を強引に提出し,後で差し替えるという荒業を使って何とか修士号を手にした.
4月から心機一転,博士課程の1年になった.院生カースト最下層のMくんが心待ちしにしていたのは,最下層の予備軍として期待される後輩の入学であった.昨年も最下層からの脱出を図ろうとしたものの入ってきた後輩たちのほうができたため最下層からの脱出が叶わなかったことは既に述べたとおりである.だからこそ今年こそはと最下層から脱出を試みていた.
このシリーズを通じて,Mくんが学歴コンプレックを抱きながら院生生活を送ってきたことは述べてきた.1つ下の後輩は,大学院のある大学の学部からの進学してきたため,実力もだが学歴もMくんは完敗であった.ところが,今度は研究室に入ってくる後輩は,Mくんの母校の大学よりも,同じかちょい低いぐらいの大学の学部出身であった.
そのことを知ったMくん,鬼の首をとったがごとく,この新入生の後輩に上から目線でしゃべり続けるのである.この後輩のなをCくんとすると,
「Cくん,修士の間に××の本は読んでいた方がいいよ」
「Cくん,基礎は大切だから疎かにしないほうがいいよ」
「Cくん,研究で分からないことがあれば何でもきいてね」
Mくんを知っている我々には,お前がいうなよ.と突っ込みたくなるほどの上から目線であった,Cくんも初めは大学院の様子も分からないし,Mくんは博士課程の院生なので初めのうちは「ありがとうございます」と聞いていた.しかし,ゼミが始まると,どうやらM先輩,できないんじゃないかと気づき始めた.ゼミの時間になると,いつものごとく院生が一斉にMくんに質問を浴びせ,轟沈させてしまうのだ.そのうち,CくんもどうやらMくんが院生カースト最下層にいるのではないかということに気づき出した.
周りが質問するときには,もうビビッて
「ハ,ハイ,それはですね,えーっと」
と屠殺場に向かう羊のように怯えているくせに,Cくんが質問したとき,「お前,俺様に質問何かしやがって」的な態度をとったのである.実はCくんの質問は素朴ではあるがしっかりと理解しておかなければ解答できない問題なのだが,上から目線のMくんの対応に,おとなしいCくんは黙ってしまった.MくんはCくんの質問を黙殺し,次に進めようとしたところ,指導教員が,
「Mくん,なぜCくんの質問に答えないのですか?ちゃんと答えなさい」
と穏やかな声でたしなめたのである.するとMくん,実はCくんの質問が分からず飛ばそうとしていたらしく,解答にシドロモドロ.そのような態度をみた指導教員が,一転烈火のごとく怒りだし,
「研究者になろうとしている人がそのような態度でどうするんですか?」
と一喝した.ぼくらの指導教員は普段は優しいのだが,学問には厳しく,答えられるまで何時間でも待つのである.みんな帰るに帰れず,
「そのぐらいのことさっさと答えろよ」
といった顔をしてMくんをにらみつけている.その雰囲気を察したのか,質問したCくんが,
「あの僕,わかりましたので大丈夫ですので次に進んでください」
と言い出した.Mくんは,「よーし,お前,空気読めているじゃねぇか」といった上から目線でCくんを見て,
「では,次に進めます」
と進めようとしたところ,怒りが頂点近くまで達していた指導教員がMくんに
「Mくんは,解っているのですか?」
と質問すると,やはりMくんはシドロモドロブツブツと言っている.指導教員は「では,Cくん,解ったと言っていたので説明してください」とCくんに説明を求めたところ,まぁ,何とか分かっているだろうと思われる説明をおこなった.指導教員も「そうですね.」といい,補足をしてつぎに進めたその日のゼミは何とか終わった.ゼミの終了後,Mくんは
「いやぁ,後輩からの質問は勉強になるよ,Cくん,ありがとな!」
と言い出したのである.それを聞いていた,Mくんよりも上の博士課程の院生が,
「お前,ふざけんなよ.お前がさっと答えていればよかったんだろうが」
と怒りを露わにした.ビビったMくんは,「すみません」を連発するばかり.Mくんが再び,院生カースト最下層に堕ちた瞬間である.次の週からCくんもMをつつくニワトリ側の人間となり,M君にガンガン突っ込むようになった.まだ4月に入ったばかりの修士1年の学生にバカにされるMくんであった.