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できない文系院生の悲惨な末路(19)
さて,みんながやっているからとか,研究者っぽいことしてみたいというおよそバカげた理由で学会報告をし,大失敗したMくん.周りは失敗することが分かっていたのその失敗をみて,「まぁ,当然だわな」といった感じで失笑はあったが,特に驚くことはなかった.もはや,Mくんが大学院の中でやらかすことで上手くいかないことがデフォルトとなり,それをみて突っつくことしらしなくなり始めていた.
発表が上手くいかなかったことは,当のMくんも感じていたらしく,学会が終わった後,同じ研究室の人間には痛い痛しいばかりのフォローをしていた.先輩の院生には,
「〇〇さん,僕の報告どうでしたでしょうか?何かコメントがあればよろしくお願いします.」
などと,へりくだるというか媚を売るような態度で話しかけていた.その一方で,直前にMくんの報告スライドの切り貼りを手伝わされていた修士課程の後輩には,
「■■くん,俺の報告どうだった?よくない点があったら遠慮なく言ってね」
などと言っていた.上で報告が上手くいっていないことが分かっていたのかと書いたが,この発言を聞いたときに,僕はMくんの厚顔無恥を目の当たりにした.彼は恐ろしいことに自分の学会報告が上手くいったと思っていたのだ.なので,先輩からは「Mくん,報告なかなか良かったよ」とか,後輩には「Mさん,すごいですね」という言葉を聞きたいがために,へりくだったふりをして周りに聞いていたのだ.僕は少しばかり意地悪して,
「Mくん,良かったよ.報告.論文も面白かったし」
と心にもないことを言って,Mくんが調子に乗るようにおだててみた.どんなエサにも食らいつくダボハゼのごとく,Mくんは,
「いやぁ,まだまだですよ.でもフロアからも特に意見がなかったのでホッとしています」
と頓珍漢なことを言い出した.学会でフロアから質問も意見も何もないのは最も恥ずかしいことなのだ.なぜならば,誰もその報告に関心や興味を持っていないということを意味するからだ.しかし,このMというやつは,まったくお花畑のような脳みそをしており,特に失敗しなかったと思っているのだ.学会報告で報告している院生が時々フロアから集中砲火を浴びてタジタジになっている姿をみるが,それは,フロアがその院生をアカデミックな人間としてみている証拠なのだ.それに引き換え,Mくんの報告では,誰もフロアから質問が出ず,通常は座長が気を使っていくつかの質問をしたりするものなのだが,その時は座長も「何もないようなのでこれでセッションを終わります.」とセッションを閉じてしまった.Mくんにとってはアカデミックには何のメリットもない報告であった訳だが,彼にとっては大満足の報告だったのだ.また,会場をあとにするとき,これ見よがしに彼女らしき人物と思われる人に携帯に電話し,
「いま学会報告終わった.中々評判がよかったよ」
と話しているのである.もう突っ込むきもなかったので誰も何も言わなかったが,周りにいた同じ研究室の面々は顔を見合わせながら呆れていたのだった.