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ミニマル インターベンション デンティストリー 歯髄に優しい新しい切削法の臨床ーAir Abrasive Technicによる歯髄処置の臨床ー

 歯内療法学の目的は、治療により歯を健康な状態で口腔内に保存し、その機能を長く維持させることであるが、歯髄が生活しているか失活しているかによって保存期間に大きな影響があることは論を待たない。歯髄は天然の根管充填材といわれるように、歯髄の保存は齲蝕進行の遅延および警鐘、歯牙の成熟と成長の保持、第二、第三象牙質の形成能の保持、歯根破折の防止などの役割から、臨床家は可能なかぎり歯髄保存のために歯の硬組織疾患を予防し、処置して歯髄内への病変の波及防止に努めるべきである。

 歯髄障害の原因は、種々な外来刺激が硬組織を介して直接的あるいは間接的に歯髄に加わることにあるが、そのもっとも主なものは齲蝕であることはいうまでもない。しかし、ある調査によると、齲蝕と外傷などを除いたその他の歯髄傷害の原因の大部分は、それを防止すべきはずの歯科治療処置に起因(歯科医原性疾患)するとされている。

 歯科医原性の原因には、歯の切削、刺激性の修復材料、窩洞接着剤などがあげられるが、なかでも切削による歯髄への障害は大きい。たとえ直接的な歯髄への障害がなくとも、通常の回転切削法による歯牙の切削は、歯とバーの接触面で摩擦熱が生じ、hydrodynamictheoryによる痛みが生ずるとされている。また、歯髄に近接した象牙質齲蝕における切削処置では、象牙細管または象牙質細胞の突起を介して象牙芽細胞に障害を引き起こすことも多くの基礎研究で実証されている。とくに、象牙質の不注意な切削は歯髄組織に刺激が伝達され、歯髄に反応が起こり、同時に歯髄神経を刺激して疼痛発生の原因になるのみならず、歯髄組織に炎症性の反応を惹起させることになる。

 このような理由から、近年、低速回転(6,000~30,000rpm)やエアータービンの高速回転(50,000~300,000rpm)による歯牙切削時の硬組織および歯髄に及ぼす為害性に関する研究から切削の方式を見直す臨床家も増えつつある。

 今回、後述するAir Abrasive Technicによる歯牙切削法は、回転切削方式が発生する振動、熱、騒音、臭気などがなく、疼痛も最小限に止められるため、歯牙にとってもっとも生理的で人に優しい治療法である。レーザー治療と併用させることによって、通常の術式では歯髄除去治療にせざるをえなかった症例に対しても歯髄保存療法が可能になったので報告したい。

 私は、この25年間、エアーアブレーションを利用した臨床を行ってきた。当初を振り返るに、適応症例や切削の方法が十分には説明されず、試行錯誤にて操作方法を体得し、その原理を理解し、現在に至った。

 エアーアブレーションは、原理として運動エネルギー(E)kinetic energyを応用するものであり、そのエネルギーEはE=MV²(M:質量、V:速度)で示される。

 具体的には、質量に酸化アルミナ粒子、速度にチップのノズルから噴射される圧縮空気が該当する。得られるエネルギーは、切削能力として粒子の質量よりも2乗された速度に大きく依存している。エアーアブレーションによる歯牙切削は、象牙組織を粉砕するのではなく、研磨作用(abrasion)によるもので、噴射された酸化アルミナ粒子が歯の表面を摩耗させる(awearing away)作用を利用している。ここで発生する摩耗熱は極めてごくわずかであり、噴射エアーにより瞬時に放散されるので、象牙細管内液の移動は起こらず、その結果、患者に不快感や痛みを与えないとされる。

 このような原理から考えられるエアーアブレーションの特徴を次のようにまとめた。

①歯牙に直接接触させる必要がない

②切削器の不快音や切削音が生じない

③切削行程で歯牙を加圧しない

④摩擦熱がほとんどないため、温度上昇が僅少である

⑤切削による振動がない

⑥熱が発生しないので注水の必要がない

⑦切削による歯髄被害が少ない

⑧切削による臭気が発生しない

以上の性状から通常の治療は無麻酔で処置可能である。

 エアーアブレーションにおいては、切削面が凹凸にならずに均等な深さと広さになるように形成することが基本である。それには、種々設定条件における歯牙切削の特性を把握し、ノズルの動きや噴射時間の長短による切削円錐の形成状態をよく理解することが肝要となる。臨床の前に抜去歯による切削テクニックの練習を勧めたい。

 また、原理から推して自明であるが、エアーアブレーションでは回転切削のように明確な線角、点角の形成が難しく、このような隅角を必要とするBlack分類Ⅱ級窩洞形成には適していないことがわかる。さらに、軸面形成も困難であり、歯冠形成は不可能である。

 エアーアブレーションによる切削の特徴を理解するために、エアーアブレーションと回転切削器具による切削面をSEM像により比較した。図2~6は、テキサス大学ヒューストン医療センター歯科保存修復学Ebb A BerryⅢ教授のご厚意により提供いただいたものである。

 設定条件はノズル口径大(large)、粒子噴射量少(low)、噴射圧力40~80psi。

 2021.1.20.の投稿で示したように、エアーアブレーションを用いた臨床適用範囲は広範にわたっているが、ここでは通法のタービン、エンジンでは困難な齲蝕象牙質(病変組織)の除去に本法を利用した症例を紹介したい(症例1~5:図7~11)。

歯髄に優しい新しい切削法_3
歯髄に優しい新しい切削法_4トリミング
歯髄に優しい新しい切削法_5トリミング
歯髄に優しい新しい切削法_6トリミング


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