見出し画像

恐ろしい疫学調査、早期発見、早期治療の疑問③

 わが国における数少ない疫学調査である安藤らの論文がクラウンを施した歯の喪失リスクについて健全歯との比較の中で述べているように、う蝕の初発から放置されたまま抜歯に至るケースよりも早期発見、早期治療の方針のもとに、不適切な修復物を繰り返す(Restoration Cycle)ことが最大のリスクファクターになっているという衝撃的な報告がある。*

 歯科は健康科学と言われている。病人、疾病を対象にした歯科医療から単にう蝕、歯周病の予防にとどまらず、咬合、顎関節、歯列不正、咀嚼、嚥下、発音等口腔機能に関わる全てを対象にした口腔保健・予防にシフトさせていくことが必要である。

 私達が大学で学んだ知識や技術は、急速なスピードで日々陳腐化している。大学での教育、卒後の研修、学会や専門雑誌などによる学習、研修を生かし最前の治療法に努めているが、個人として把握できる知識量には限界がある。歯科治療にどこまでEBMが求められるかを検証しながらも科学的根拠に基づく治療を推進することにより、最新かつ正確な情報に基づく治療が可能になる。

 21世紀には健康科学としての歯学と健康保持のための歯科医療を再構築する必要があり、そのためには、今までの学説を総括し、不必要な疑わしい常識を取り除くことこそが、歯科における医原性疾患(Iatrogenic Disease)をつくらない真に患者のための歯科医療になると思われる。

 わが国の歯科医療提供者の象徴である日本歯科医師会の一部には、歯科医療の標準化は歯科医師の裁量権の侵害になるとして反対している向きがあるようだが、米国の医療政策研究局による臨床診療方針(clinical practice guideline)の診療ガイドラインは疾患ごと5万~6万の症例データに基づくものであり、医師が正しい意思決定するための内容が十分確保されている。もちろん、診療ガイドラインは全ての症例にそのまま適用できない場合もあるが、各患者の特性に沿うように柔軟性を持たせることが前提になるとすれば、経験の浅い歯科医師の判断よりはるかに医療の質を保障するもので、EBMの実践に役立てることができるものと考える。

*)安藤雄一ほか:クラウンを施した歯牙の喪失リスクについてー健全歯との比較ー、日本歯科評論、ヒョーロン・パブリッシャーズ、東京、1994



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?