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Denture fibromaの改善にはPlaque ControlとOral Physiotherapy    ー歯槽骨の保存を求めてー(その3)

 義歯床による慢性の刺激によって起こる義歯床下および床縁部の病的変化として、褥瘡性潰瘍、粘膜における炎症、乳頭状過形成、床縁部あるいは顎堤粘膜の増殖性病変などがある。その原因については多くの文献に述べられているように、義歯の圧迫による粘膜の循環障害、義歯床下粘膜の温度の上昇、清掃の悪い義歯床の汚染とその部に増殖する口腔内微生物の毒素、義歯床材料の化学的毒性による刺激や義歯床材料に対する粘膜のアレルギー性反応、適合不良の義歯床や咬合圧による義歯の機械的刺激などが考えられる。なかでも、臨床的に最も影響力の大きいものは、その1に述べたように義歯による機械的刺激であり、無歯顎においてはどのような防止策を講じたとしても、程度の差はあれ顎堤粘膜の炎症を避けることは不可能である。しかも、これらの原因は条件によっては相乗的に作用しながら、口腔組織に影響を及ぼすものと思われる。

 顎堤粘膜の炎症を大きく左右する要因には口腔内微生物が関与しており、義歯性口内炎を誘発するものとしてCandida菌が主役を演じていることが明らかにされている。Budtz-Jorgensen(1970)によると、機械的刺激のみによる炎症は限局性に生ずることが多く、炎症の程度は義歯の清掃度に関係する。特に粘膜の顆粒状炎症は機械的刺激と真菌感染(Candida albicans)の二つの要因に由来し、臨床学的に炎症所見が認められなくとも、組織学的には増殖性変化と上皮下の慢性炎症が存続していることを強調した。これらの事実からして、義歯装着による顎堤粘膜の組織学的構造は、有歯顎者の粘膜とは違いがあり、顎堤粘膜の健康を保持するためには有歯顎におとらぬPlaque ControlとOral Physiotherapyが重要であることは言うまでもない。

 Candida菌などの感染を伴う顎堤粘膜の炎症は症状を増悪させ、場合によっては義歯床下および床縁部の粘膜に血管に富んだ分葉状の増殖が生じることがあり、歯槽骨の吸収を促進させる結果になる。このような義歯性線維腫(denture fibroma)は局所に加わる慢性的な機械的・外傷的刺激が原因であるが、細菌の二次的感染によって顎堤粘膜の破壊、増殖が助長され、潰瘍から出血、排膿を認めるようになる。なお、問題なのはこれらの細菌は特殊な病原体ではなく、常在する口腔内細菌によって起こされることであり、そこにOral hygieneとオーラルフローラ(口腔内微生物叢)のバランス(改善)が重要である。昨今、歯周疾患に関心が高まり、有歯顎者に対する刷掃指導が強調されている。しかし、こと無歯顎者に対してはプラーク・コントロールにあまり重きがおかれていないことは残念である。よく遭遇することだが、小児の矯正治療に使用したNance holding archを口腔内から取り出したとき、人為的に粘膜の炎症を作ってしまうことがある。これは、体質や年齢とは無関係にPlaqueがあれば歯肉や口腔粘膜の炎症が発症し、無歯顎においてもPlaque controlの大切さを示唆したものと解釈される。

 Denture fibromaはFlabby gumと共に補綴学的に大きな障害となるために、最終義歯を製作するにあたっては何らかの術前処置(Initial Preparation)が必要とされるが、その取り扱いについては意見が分かれているのが実状である。私はDenture fibromaおよびFlabby gumに対する一般的な処置方針である外科的処置をあえて行わず、Oral hygieneに重きをおいた治療方針を立て、ブラッシングとTissue conditioningを活用したイニシャル・プレパレーションを行ない、最終義歯装着後もPlaque ControlとOral physiotherapyを積極的に励行させることに努めている。

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