その稚拙さを憂う『週刊新潮』の記事を受けて
日歯連盟の役割 再認識を
その稚拙さを憂う『週刊新潮』のl記事を受けて
日歯連盟の役割 再確認を
2024年5月2・9日合併号の『週刊新潮』にMONEY「日歯連『国民皆歯科健診』導入工作で自民党議員に1億円超献金」のタイトルで記事が掲載された。日本歯科医師連盟に関する内部情報は記事になるようなものではないが、「政治資金パーティ裏金事件」に絡めた巧妙な悪意ある内容になっている。
問題なのは、前回の15年に特捜部への情報提供による事件発端と同様、今回も会長選に伴う内部抗争に端を発している可能性があり、新潮社は「日歯連の元執行部メンバーが明かす」とリークがあった旨を明記している。
私たちは、日歯会員として、常に高い倫理規範と透明性を維持することに努めている。しかし一部の個人による利己的な怪文書や情報漏洩という稚拙で卑劣な行為は、私たち会員にとっての信頼と尊厳を著しく損なうものであり、責任は重大である。稚拙さゆえに日歯・日歯連盟が要らない労力を払う時間は実に無駄であるが、迅速かつ断固たる行動を強く求める。
なお、新潮社の「国民皆歯科検診」導入工作という表現は「歯科口腔保健法」の制定に至る長い苦難の歴史の経緯と歯科の置かれている背景を無視したものだ。
1953年頃までの「むし歯科予防法案要綱」から2011年8月に制定された「歯科口腔保健法」までは約60年を要した。
これは日本が先進国の中で歯科検診の受診率が最も低い状況から脱するために歴代の各都道府県の役員および会員の弛まない努力の成果である。ちなみに私も携わった一人であるが「歯科口腔保健法」は理念法であるために、制定後13年なるが思うように進展していないのが実状である。この状況を解決するために考えられたのが「国民皆歯科検診」である。
さて、以下は前回の東京地検による強制捜査を受けた時に一部の機関紙に向けて執筆した内容(抜粋・編集)だが、この週刊誌報道を受けて歯科関係者に改めて日歯連盟の役割を認識して頂くことを願って投稿する。
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日歯は法律上、政治活動に強い規制を受けている。公益社団法人が法制上出来ない活動を受け持つのが、日歯連盟だ。国民の歯科医療について政策を立案するのは日歯で、それを実現するために行政も含めた国民への社会活動を行うのが日歯連盟の役割となっている。
15年10月3日付の朝日新聞に、「政界攻勢 日歯連、診療報酬巡り」のタイトルで再び逮捕者を出した。
なぜリスクを冒してまで、政治に力を入れるのか。その背景には診療報酬を巡る医師への強い対抗心がある。歯科の点数アップを実現することが、日歯連の最大の目標だ。これは紛れもない事実ではあるが、日歯連の役割の一部である事を日歯会員は認識すべきだ。
日歯連盟は04年の不祥事以来、組織的な隠蔽行為は存在しないコンプライアンスに則した運営を行うべく、法制面では日歯連の顧問弁護士に、会計面では公認会計士の外部監査などによる業務管理体制の整備の下で、その都度、案件を都道府県歯科医師会会長会で報告し、日歯連盟理事会・評議員会の機関決定しながら執行している。この11年間の懸案事項は全て評議員会で審議、可決されて施策が実行されて来た。その結果として東京地検は組織ぐるみの犯行と判断し、日歯連盟の会長ならび日歯連盟組織を起訴の対象にした。日歯会員にとって晴天の霹靂と言わざるを得ない。
私は過去18年間、仙台歯科医師会ならび宮城県歯科医師会の会長職を務めさせていただいた。この間、仙台市福祉プラザ、宮城・仙台口腔保健センターなど種々の拠点整備や地域歯科保健・医療・福祉事業を展開するに当たって、国の制度的な医科・歯科の格差を痛切に感じながら事業を進めてきた。法令によって行政が国の金で種々な拠点整備が成される医師会に対して、歯科医師会は自分たちの資金と努力が求められる。障害になっている医療法や県の条例などを解決するには政治的な力が必要になってくる。
歯科に対する行政の認識が甚だ低い理由は、わが国の医療行政の歴史にあると思われる。歯科の置かれている状態は結果として国民の歯科保健・医療・福祉の質的低下を招いており、国の制度的な改善が必須条件になる。
21世紀に求められる医療は、単なる延命の医療を乗り越えて、生活の質QOL(クオリティ・オブ・ライフ)を高めることが目標とされている。本格的な高齢社会の到来を控え、寿命の延伸にともなって歯科の医療・保健・福祉の重要性は増してきた。
しかし、我が国では口腔の健康については成人期以降の系統的な施策がなく、高齢者の口腔の健康が脅かされている。これからは医療・保健・福祉の諸施策に歯科分野が遺漏なく整備され、より質の高い高齢社会の実現の為、現在進められている社会保障制度改革に当たっては近代歯科医学の成果が制度的に組み込まれる必要がある。
さらに、これまでの疾病治療を中心とした医療から再発防止、進行阻止の教育・指導・リハビリテーションに重点を置いた歯科医療制度への転換が求められている。これが、とりもなおさず医療保険財政の健全化に資するものとなる。
また、憲法には「公衆衛生の向上に努めねばならない」という一文があり、国の役割が決められている。国の役割は重要だが、国へ歯科口腔保健施策を立案し、要請する日歯と日歯連盟の役割はもっと重要になってくる。認知症・寝たきり者をつくらないためにも国家的な歯科口腔保健医療対策のさらなる推進が必要である。
公平で能力に応じた人事や社会の構造変化に敏速に対応できる日歯を構築し、常に国民、会員の視点に立ち、執行部は変わっても継続的会務執行につながる組織改革が必要だ。
今ほど、国民、会員から日歯の改革が求められている時はない。改革をする時、一番大事なことはまず会員の意識改革をすることだ。マスタープラン(基本計画)を国民ならびに会員に明示し、具体的な施策を立案し、実行することが重要だ。
関連する意見や反論があれば、ぜひ本誌に投稿してほしい。
新潮社 記事は