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ミニマル インターベーション デンティストリー~エアーアブレーションによる修復~
歯科臨床において、硬組織を削去する手段としての回転式切削器具の効率性は誰しも認めるところである。しかし、このような切削方式に疑問を抱きながら、日々に診療を行っている歯科医師も多いことと推測する。回転切削方式が発生する振動、熱、騒音、疼痛、臭気等が不快であることは、患者のみならず歯科医師も気づいていることであり、患者が処置を嫌う要因ともなっている。
また、20年前から米国に於ては歯科医療施設における院内感染や医原性疾患が社会問題になり、切削器具をエアータービンから高性能マイクロモーターに転換している状況でもある。そして、エアータービンによる歯牙切削時の硬組織および歯髄に及ぼす為害性に関する研究から、切削の方式を見なおす歯科医師も増えつつある傾向にある。
このような状況の変化を支える環境として、歯科材料のうち接着性レジンの開発進歩が歯牙の切削を最少にする術式を可能とするようになった。また、不幸にして歯牙を切削される状況に至った患者が、歯の機能の回復は勿論、自分の歯の色を再現し形態を回復してくれる必要最小限の歯質削除による修復処置(Minimum Invasion Dentistry, Minimal Intervention)を期待する大きいうねりが生じてもいる。以下にこれらに対するエアーアブレーションの臨床的特徴をまとめた。
1)回転切削と比較して患者への苦痛が少ない
2)小さな形成が可能なため歯質の切削量を必要最小限にできる
3)ほとんどの処置が注射麻酔を必要としない
4)接着性レジンの開発にともなってG.V.Blackの窩洞形成の法則にとらわれる必要がなく、う蝕に罹患した部分だけを削除できる
5)切削によるエナメル質のチップやマイクロクラックが生じない
6)上記4と5による歯質保全治療により、う蝕の再治療を繰返す過程で悪化するRestorative Cycleを防止し、医原性疾患を引き起こしにくい
7)う蝕象牙質の削除が確実にできるため歯髄の保存療法が容易である
8)切削時間の短縮と効率がよいため、同時に多数の形成が可能
9)切削面にスメア層やスメアプラグができず、レジンの接着力を高める
10)質の高い治療が望める
11)患者、術者の双方にとってストレスが軽減できる
このような状況を体感しつつ、また歴史的な流れを踏まえ、私はこの26年間、エアーアブレーションを利用した臨床を行ってきた。当初を振り返るに、適応症例や切削の方法が十分には説明されず、試行錯誤にて操作方法を体得し、その原理を理解し、現在に至った。これまでの臨床適用例をまとめると以下のようになる。
1)プラーク除去、歯面清掃、ステイン除去
2)歯肉縁上歯石除去
3)フィッシャーシーラント時の歯面処理
4)充填に適したカリエス全般の窩洞形成
5)小窩裂溝う蝕などの初期カリエス、小さなカリエスの窩洞形成
6)形成困難な隣接面、歯頸部カリエス
7)トンネルプレパレーション
8)タービン、エンジンでは困難な軟化象牙質(病変組織)の除去
9)クラウン内および歯頸部カリエスの除去
10)金属以外の充填物の除去
11)セメント等の歯面付着物の除去
12)硬質レジン、メタルボンドの補修時の保持形態の付与
13)ポーセレンフルベークを除去せずに歯内療法が可能
14)セメントのぬれをよくするためのクラウン、修復物の内面処理
15)急性化膿性歯髄炎の穿孔
16)ポストの除去
17)接着性ブリッジ用の形成
私がエアーアブレーションの臨床応用について日本で初めて症例報告させて頂いたのは1994年である。その8年後となる2002年に、FDI(国際歯科連盟)はう蝕管理における最小介入法に基づく歯科医業(MID)を提唱した。
MIDの目的は、健康な歯質をできるだけ多く維持し、生涯にわたって歯の機能を保持させることにある。平均寿命が着実に伸びているため、この概念はいっそう重要になっている。生まれ持った健康な歯列の機能を高齢になっても存分に享受できるようにするべきである。
具体的には、高齢になるまで歯を温存するため、再石灰化と健康な歯質の生存を維持することを目的としたう蝕治療の概念である。歯質を無用に切削するべきではないとし、構成する主な要素は以下のとおりである。
1)う蝕病変の早期発見、ならびにう蝕のリスクおよび活動性の評価
2)脱灰したエナメル質および象牙質の再石灰化
3)健康な歯を健康なまま維持するのに最適な方法
4)個々の患者に適した定期検診
5)必要最小限の侵襲による処置的介入で歯の寿命を保証する
6)再修復よりも補修修復