競馬連載030

「川田、スミヨン、戸崎、内ラチのはざま」

「先週の重賞を回顧してみた」
編集部Kによる重賞回顧。レースをあらゆる角度から読み、
独自の視点で語ってみる。次走狙いたい馬、危険な馬を指摘しつつ、
なんとなく役に立ちそうなコーナー。ときに自らの馬券の悔恨と反省も。
基本、競馬が終わった、ちょっと寂しい月曜日に掲載。


【第160回天皇賞(秋)】回顧
2019年10月27日(日)3歳以上、GⅠ、東京芝2000m


 レース後、アーモンドアイが口取り写真に参加しなかったことからも決して楽勝という競馬ではなかった。最初の難関はやはり2角。改修されたとはいえ、東京芝2000mは特殊すぎるコースレイアウト。2番枠のアーモンドアイは予想どおり枠なりから位置を取りに行ったが、出遅たサートゥルナーリアをスミヨン騎手が馬群を縫うように先行態勢をとらせ、外から内へ切れ込んだ結果、内ラチに接触、位置をやや下げて包まれる形となった。
 
 スミヨン、恐るべしとしか言いようがない。日本の騎手であれば出遅れた場合、多少は挽回はしても、多頭数競馬で窮屈なコーナー突入を前に3番手のインを目指したりはしない。プランに忠実であり、勝てるポジションは死守するという欧州競馬の特徴が端的に出ていた。
 
 欧州は折り合い重視の我慢比べのイメージが強いが、だからこそスタート直後のポジションニングが全てである。ディープインパクトの凱旋門賞でプライドやシロッコが仕掛けた位置取り争いなどが思い出される(プライドはルメール騎手、シロッコはスミヨン騎手だった)。結果的にディープインパクトは一度ハナに立たされた。いかに理想的な位置を取ってから我慢させるか、欧州競馬の厳しさの一端である。
 
 ただし、そういった攻めの騎乗をするにはサートゥルナーリアはまだ若かった。行く気になり折り合いを欠いてしまった。シーザリオの血統は折り合いが難しい馬が多く、良くも悪くも血統が出てしまった印象。スミヨンだからなだめられたが、もっと大敗してもおかしくないほど、馬のリズムがレースにフィットしなかった。ただ、これで距離延長に疑問符もついたが。

 これでアエロリット、ダノンプレミアム、サートゥルナーリアの背後になったアーモンドアイの最後の試練は直線を向いてから。
 さあ、この3頭の間、どこから抜け出すのか。内から戸崎、スミヨン、川田の順。スミヨンと川田の間はそれなりにスペースはあった。スミヨンと戸崎の間はアエロリットの良さを出すために戸崎が
サートゥルナーリアとの併せ馬に持ち込んでいて、スペースはない。
 どこを出てくるのか。スミヨンと川田の間にスペースがあるのはおそらく罠。そこに馬を誘えば、必ず絞められる。犬猿の仲?という噂のスミヨンが抵抗するのは必至。
 となれば、外に寄った戸崎と内ラチの間しかなかった。だが、サートゥルナーリアを追い落とせば、いくら安全運転が信条の戸崎とてアーモンドアイの進路を塞ぐ可能性はある。飛び込む瞬間は限られていた。サートゥルナーリアの脚色が衰え出す、その瞬間。アーモンドアイは見事に内ラチ沿いへ飛び込んだ。

 ドバイもそうだったが、アーモンドアイは桁違いの末脚を繰り出すだけでなく、とても器用。一瞬の進路取りに反応できる器用な瞬発力こそが持ち味。完全燃焼型らしく、レース後には熱中症のような症状が出てしまうというが、これだけ極限の世界でギリギリの勝負に打ち勝つのは並大抵ではなかろう。しかしながらそれに毎回勝ち切るわけだから歴史的な名牝である。

2角と直線。
この2箇所には豪華絢爛なGⅠにふさわしく、競馬の魅力、怖さを伝えるような駆け引きがあった。


編集部K


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?