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若冲の雪の描写に共感? し、曽我蕭白にフルボッコにされ…… でも楽しかったよ! ~「皇室の名宝と新潟」展@新潟県立近代美術館
まず、チラシがすごい件
1月末、某文化施設に行った時のこと。
とある展覧会のポスターがどどんと貼られているのを見て「わあ、若冲だ! ……こんどの長岡の美術館の展覧会か。で、チラシはどこだ」と思ったのですが。なんと1枚も残っておらず……
どういうこっちゃと思っただけで、その日は終わりました。
後日、新潟市某区の出張所で探し求めていたチラシを発見、同時に「なぜチラシがなくなっていたのか」の理由も知ることとなりました。
なんと、チラシが5種類!
そりゃなくなるわけだ、と納得した次第。
(各チラシのキャプションより)
国宝 伊藤若冲《動植綵絵 雪中錦鶏図》
香川勝廣ほか《花唐草透彫水晶入短刀拵》
下村観山《光明皇后》(部分)
佐々木象堂《瑞鳥置物》
国宝 伊藤若冲《動植綵絵 老松鸚鵡図》
以上5種から選び放題、でもみんな(私も含め)全種類ゲットしたくなるんじゃないでしょうか。
こんなすごい作品群に会える展覧会、それは新潟県長岡市の県立近代美術館で3月16日(日)まで開催中の「皇室の名宝と新潟」展!
皇居三の丸尚蔵館に収められている、皇室に代々受け継がれた名品を見ることができる展覧会です。
※写真はすべて、チラシや図録を自分で撮ったものです
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さらに、チラシに書かれた展覧会のタイトルのレタリングを見ると……
「皇」の字に、アルファベットの「I」(Imperial)
「宝」の字には「T」(Treasures)
さらに「新」の字には「N」(Niigata)
の文字が隠されています! 気づいた時は「おおっ」て言っちゃいました。
チラシだけでこんなに楽しめるんだし、もう行くしかない!
もうすぐ(まさに今。これを書いている2月20日)、新潟県内に今冬最後の寒波が襲来するっていうし。その前に行っておかないと……
ということで、2月16日(日曜日)。いざいざ、新潟県立近代美術館へ!
はじめて出会う、新潟ゆかりのあれこれ
タイトルに「~と新潟」と入っているし、例えば明治天皇の新潟巡幸の道のりや、訪問先を当時と現在の写真で比較したり、また新潟出身の画家の作品なども多数展示されています。
新潟巡幸の項で見つけたのが、私の地元・新潟市秋葉区(新津)の史跡「煮坪」の新旧の写真! ちなみに煮坪というのは、石油の街としての新津の原点になるような大事な場所。当時から注目されていたんだ、と誇らしくなりました。
また、浅野赤城(現在の長岡市出身)や津端道彦(津南町出身)など、今まで知らなかった画家たちの作品を見ることもできました。
はじめてのお宝拝見。技術に驚嘆!
で、「皇室の名宝」ですから。三の丸尚蔵館収蔵の、さまざまなお宝を拝見できるわけです。
絵(特に日本画)を見るのが好きなだけの私にとって、工芸品は正直なじみがない。というところですが。
でも、煙草箱という小さな箱の蓋や、お盆の表面に施された装飾が見事でした。滝だったり富士山だったり、あるいは湖を進む帆掛け船だったり……
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《琵琶湖図名刺盆》(海野勝珉)という作品があったのですが、船の帆の色や、湖の水面に映る太陽の感じまで、微妙に色味の違う金属で表現してるんですよね。
金属を彫ったり熱したものを加工したり、ってやってるのかな? と素人なりに想像することしかできないのですが、そういう材料を自由自在に操って素晴らしい作品を作り上げられるようになるまで、本当に大変なんだろうな、と。
「彫金」という技術で、こんなすごいことができるらしいですね。こういう美術のジャンルがある、となんとなく聞いたことがあった程度で、作品を間近に見たのは今回が初めてでした。
蕭白さん、えぐみ効かせすぎだよ!
そして!(個人的に)今回のメイン!
伊藤若冲《動植綵絵》の2作品と、特別展示の曽我蕭白《群仙図屛風》ですよ!
※写真はありません! 気になった方、ネットできれいな画像を探していただくか、いっそのこと長岡の会場へ!
言わずと知れた、若冲《動植綵絵》。全部で30幅ある、というのはまあまあみんな知っていることではあるのですが、そのうちの2幅が今、新潟にある! って考えると、なんかすごいことだよなあ、なんて思ってしまうんですよね。
《老松鸚鵡図》の、白鸚鵡のたたずまい。目も体も丸まっこくて、フクフクした感じがすごくかわいらしい。見るとちょっとほっこりします。
あと、《雪中錦鶏図》の雪の感じ!
図録の解説には「独特な表現」「非現実的」と書かれていました。
たしかにヘンなんですよ、木の枝に積もってる雪が「でろりん」ってなってたり、(図録にもあったように)変なトコに穴があいてたり。
でも、そういうところから。雪がワッサワッサ降ってくる感じ(密度みたいなもの。なんか、そういうのがあるんですよ)、寒さも半端ないんだぞ、っていう感覚を描いたのかな、これは。みたいなことを、ふと考えたのですよ。
新潟県人だからそう感じたわけじゃないです、私ほんと変わり者なので。
そして…… 今回フルボッコにされました、といいたくなるほどの衝撃を与えてくれた作品。
《群仙図屏風》(曾我蕭白)。
曽我蕭白って、「奇想の画家」といえばこの人! みたいな存在ですよね。
今回は蕭白・若冲・さらに岩佐又兵衛(《小栗判官絵巻 巻十三上》が出品されています。この作品のおかげで、タイトルしか知らなかった「小栗判官」の概要が分かりました。まあスペクタクル)と、「奇想の画家」3人揃い踏み、というのがこの展覧会のウリのひとつでもあるみたいです。
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で、曽我蕭白。私自身、もちろん名前は知っていたけどさほど注目はしていませんでした。なんでかな、若冲ブームと同時期に多分この人の名前を知ったはずだけど「いや今は若冲に注目すべきだ」とか思っちゃったのかな。もったいない!
今回、《群仙図》で初めて、蕭白の作品を見たんですけど。
なんかもう、さっき書いたようなフルボッコだったり、「毒気にやられました」的な感じだったり、心の中がざわついた感じだったり。
この人の作品ってきっと、好き嫌いがはっきり分かれますよね。無理な人だったら、《群仙図》なんて気分悪くなるぐらいのレベル。
とにかく、わけ分からん!「おどろおどろしい」「禍々しい」という言葉がピッタリくるのです、おめでたい仙人を何人も描いている絵なのに。
私が見たのは、前期展示の「右隻」。
この右隻の右から3人目、手を挙げて誰かに声をかけている? ような仕草の仙人、その衣が……
こんな描き方、ある? と。
これを見た時、ブラウン管時代のテレビのノイズ、みたいなものを想起したんですよ、そんなん思い出すのは私ぐらいだろうけど。映像がザザザって乱れて、そのうち人の姿もなにも分からなくなる――みたいな。
いろんな細かい要素もしかり、描かれている仙人たちの表情もしかり。絵の隅々まで、気持ちをざわつかせる何かで埋め尽くされている。そんな感じです。こんな変な絵、ちょっと他にはないでしょうね!
蕭白の逸話として、
「画を望まば我に乞うべし、絵図を求めんとならば円山主水(応挙)よかるべし」
(意訳「俺はこういう絵しか描けないし、いくらでも描いてやるよ。でも普通の絵でよければ円山応挙に頼めばいいんじゃね?」
これ、「『本物』は俺のほうだからね!」と言いたかったんじゃないかという気がしてしょうがない)
と言っていた。というのがありますが。
なんていうのかな、蕭白の画風があんな感じになったのって……
彼の目には、当時の世の中があんな感じに映っていたんじゃないか。おめでたい+崇めるような存在であるはずの仙人も、彼の手にかかればあんな禍々しい感じになる。当時の世の中もまあまあやばくて、そんな中で跋扈する者を――という風刺の意味もあったりして。
などと、やはりまあまあやばい現代社会に生きるおばさん(私)は考えてしまったのであります。
《群仙図》の左隻は後期展示だそうですが、やっぱりこちらもかなりヤバそうです。
また見に行きたいなあ。今回と同様、心の中で「蕭白さん、えぐみ効かせすぎだよ!」って言いたい!
「皇室の名宝と新潟ー皇居三の丸尚蔵館収蔵品でたどる日本の技と美」展は、新潟県長岡市の新潟県立近代美術館で3月16日(日)まで開催されています。
前期展示は24日(月・祝)まで、展示替えを経て26日(水)から後期展示だそうです。
県外にお住まいの方も、寒波が収まったらぜひ見に来てくださいね!