東大推薦(経済学部)受験記

一部の方からの要望を受け、面接当日の様子を記録に残していくこととした。当日の様子を時系列で述べていこうと思う。特に口止めなどはされなかったから、記憶にあることはすべて書いていく。なお、過去の資料を見る限り年によって面接の形式は変動するようであるから、そこはご承知おかれたい。私の手元にある資料の内容については、おまけとして最後に書くことにする。

 経済学部は第1次選抜を突破したのが16名、定員が10名である。定員通りにとられるとは限らないが、5年目の見直し直後で、経済学部はこれまでの合格者が異常なほど少なかったから、今年は定員通りとられるのではなかろうかという見立てを持っていたので多少気が楽であった。コロナ対策だろうか、16名が午前、午後の2組に分けられていた。私は午後の組であった。

 本郷キャンパスから徒歩3分ほどのホテルに宿泊していたのだが、クイザーのノリで集合1時間半前には会場に到着した。図書館を利用する学生や職員の方が多い印象で、受験生はあまり見かけなかった。まずは赤門で入構届を提示し大学構内に入る。守衛さんがかなり親切に道を教えてくれた。会場となる建物へと歩く。内田ゴシックの建物が連なる本郷キャンパスの中では珍しく新しめであったと記憶している。典型的な公共建築という感じでそこまで面白みを感じなかった。
 入り口で受験票を見せ、本人確認。受験生が来るにはかなり早い時間だと思うのだが驚かれることはなかった。そのまま係員の方に誘導され控室へ向かう。高崎善人教授のような気がするが、私の相貌認識ほどあてにならないものはない(つい先日もこれでやらかした)ので多分違うだろう。市立図書館のような雰囲気の階段を上り、「入学試験につき関係者以外立ち入り禁止」と書かれたエリアに「我、関係者ぞ?」という顔をしながら足を踏み入れていく係員さんについていく。
 通された控室は普通の講義室然とした部屋であった。フルで詰め込めば100人強は入りそうである。椅子の形状が独特であまり安定しなかったが座り心地は決して悪いわけではなく、講義を受けるのにちょうどいいが寝るには厳しいという講堂に最適なものである。一時間半前ということで、当然ほかの受験生はいない。控室は厳戒態勢で、トイレに行くにもスタッフの方に連れられることになる。ただスタッフの方は話しかけてこそ来ないがみなにこやかで、プレッシャーを受けることはなかった。
 ものすごく時間があるので、面接で数Ⅲの内容が聞かれるという話を聞いて直前に詰め込んでいた数Ⅲの合成関数・分数関数の微分の復習をした。微分して緊張をほぐすという限界受験生の極致である。50問ほどこなし問題ストックを使い果たしたので大橋弘『EBPMの経済学』、神崎史彦『面接のルールブック』を読み時間をつぶす。少しずつ他の受験生が入ってくるが、しっかりとソーシャルディスタンスが確保されているうえに私語禁止なのでコミュニケーションが全く取れない。エコ甲で見かけた人もいたので話しかけたかったのだが、残念であった。(一般入試と違って)まともな男女比であるはずの推薦入試だが、女子が8人中1人しかいなかった。女子は午前中に固められたのだろうかと勘繰ったが、どうやら経済学部は女子の志願者が少ないだけのようだ。

 時間になり、ついに面接が始まる。控室で受験番号が呼ばれ、スタッフの方についていく。通ったのと別の階段から階を1つ下り、一か所セキュリティーゲート的な場所を抜けて面接室へ向かう。控室周辺とは打って変わって教授の研究室がある区画。廊下の内装も無機質で、もう少しデザインをよくしたほうがクリエイティブな職場環境になるのではなかろうかなどといらぬ考えをめぐらしながら歩く。思ったよりは遠い。ちょっとした会議室が面接会場なようで、その前について係員の方から「じゃ、部屋に入るとこから。頑張ってね。」的なことを言われる。荷物はそのまま持って入るようだ。例の新詳高等地図デザインのカバンで来ていたから、アピールになっただろうか。
 3回扉をノックして入る。平均的な高校の教室程度ある、そこそこ広い会議室であった。コの字型に机が配置され、受験者1:面接官3で向き合う。横には教室備え付けのホワイトボードが意味深げな前方スペースを作って鎮座している。左手から若い先生、中年の気さくそうな先生、強面っぽい先生という構成で、強面を置くとは圧迫ではないかと身構えた。おそらく若い先生は松井彰彦教授、中年の先生は楡井誠教授ではないかと思ったが、これまた私の相貌認識ほどあてにならないものはないので多分違うだろう。
 荷物を置いて、受験番号と名前を言う。次に志望理由を聞かれた。過去の資料では英語質問になっており模擬面接でもこの部分は英語で練習したが、日本語だったので安心し2分ほど話した。地方創生への関心、それに果たす政策の役割、EBPMの必要性といったところを語った。教授の反応はみな好意的であった。とくに強面だと思った先生が非常に笑顔で頷きながら聞いてくれて、圧迫ではないかという心配は杞憂に終わった。人を外見で判断してはいけない。
 志望理由を語り終わると英語と数学どちらが得意かと聞かれた。真意をつかめぬまま「どっちもおなじくらいだ、数学はもともと大の苦手だったが何とか引き上げた」などとしれっとアピールを混ぜて答えた。どうやら英語と数学の課題が準備されているらしく、得意なほうから先にやらせてくれるらしい。
 先に英語課題を選択した。コロナ禍における国家財政拡張の是非についてのNew York Timesの社説が与えられた。英文のレベルは東大の一般入試より少し高いくらいであったが、内容があまりにもオーソドックス、すなわち緊縮論に対し災害時負担の世代間平準化を説いて反論するというものであったため、経済学部を志望するものならば皆読めるだろうという印象を受けた。読むスピードも評価に入るのだろうかと思いかなり爆速で読んだが、読み終わった後に「知らない単語なかったですか?」と声を掛けられるなど英語力自体はそこまで重視されていなかったのかもしれない。読み終わると文章の内容の要約を求められたため軽く概説。次に自分の意見を求められた。MMTの議論をベースにして「財政拡張は緊急時以外にも許される」と述べ、インフレ制御に関してもっと知見を蓄積すべきという課題も挙げた。最後には「長期的には(インフレ制御が持続不可能になるかもしれないから)租税のほうがいいということ?」「そうですね、格差是正の観点からも長期的には租税による再分配機構を生かすべきです」というやり取りをして逃げたが、果たしてこれは良い選択だったのだろうか。
 そんなこんなで英語課題を切り抜けた。数学課題が来る。教授がホワイトボードに数式を板書。数3が来ないことを祈っていたら、あろうことか「関数y=−3x^3+4x+1のグラフを書け」などという問題である。受験生を小馬鹿にしているのかと若干不愉快に思ったが、逆に計算ミスをするわけにもいかず、しかも解きながら先生方に解説をしなければならないので気持ちを切り替える。定義通りに微分しようかとも思ったがさすがに控え、導関数を求め、増減表を書いてグラフを書く。「X軸との交点の座標も書いて」というリクエストがついたのでそれにこたえて方程式を解いた。今から思えば変曲点を調べていないのだが、文系だから許されるだろう。
 解説を終えると「数学もともと苦手とか言ってたけど得意じゃないですか~」などと適当なおだてを言われ「何のための問題なんだろう」と思いながら普通の面接へ移る。主に強面に見えた先生から質問され、松井・楡井両教授(たぶん)からは補足的な説明を求められた。
 まず聞かれたのは地理を好きになったきっかけ。「池上彰氏のニュース番組をきっかけに国際関係に興味を持ち、そこから地理を学んでいたら地方の問題に対してアプローチできることを知りさらに深めっていった」と答えた。次に「中山間地域ではなく地方都市の問題に関心を持ったのか」と尋ねられる。生まれが地方都市だからなのだが、まっとうな理由をこたえられず、返事を濁してしまった。「ミニ東京になる懸念があるが」と追及される。「中山間地域からの人の流出は構造上仕方なく、止めようがない。現状は地方都市がポンプ役を果たし大都会に人を送り出して出ていった人はもう帰ってこないが、地方都市に人をとどめることができれば中山間地域とも距離が近いから対流が生まれ、関係人口の観点における中山間地域活性化がやりやすくなる。このように抜本的に問題を解決するには地方都市の活力を創出することが重要だ。」と答えた。教授の表情が満足げだったので少し安心。
 話題が地理オリンピックに切り替わる。「浦安市での政策提言というのはどういったもの?」と質問された。浦安市の3地区について、元町:商業アクセス困難&空き家、中町:高齢化&住宅以外何もない、新町:臨海のタワマンという概況を説明したうえで、南北間の3つの町を貫く交通整備と元町エリアの空き家を高齢者向け施設にするという構想を説明した。特に松井教授の反応が何度もうなずいてくれるなど芳しかった記憶がある。
ここまで地理の話をかなりしてきたので案の定「なぜ教養地理ではなく経済学部?」という質問を投げられた。想定質問として答えも準備していたので、「現行では政策立案が定性モデルに依存し、評価も不十分。計量経済学などを用いて統計的な分析から政策を立て評価することで効果的なものになると考えるため、空間経済学とEBPMを学べる経済学部を志望した」と述べる。「よく考えられて立派だと思います」と笑いながら返され、「事前に準備してきたのバレバレやん、心証悪くしたかな……」と危惧した。ここで松井教授が「時間になったので終わりましょうかね」とスマホを見ながら発言。時間を計っていたらしい。ここで終わってほしくないよ……と思ったがどうしようもない。最後に「ラ・サールでトップってかなりできるんでしょ?」「確かに模試では一定の成績を上げていますがとんでもないです」「じゃあ受験勉強頑張ってください」という感じのやり取りをして面接終了となった。礼と謝辞を述べて退席。そのままスタッフの方に建物の外へと誘導された。
 最後に「受験勉強頑張ってください」などといわれ不合格を確信し、沈んだメンタルで本郷キャンパスをぐるぐる、昼食を食べる場所を探した。理学部の係員の方に聞いたら大体どこも閉まっているとのことだったので、開いていたコンビニでサンドイッチを買って安田講堂の前で食べた。横のベンチにいる猫がなにやら物欲しげな目でこちらを見てくる。猫には味付けが濃ゆすぎるだろうと思いサンドイッチはあげなかったが、可愛かったので愛でているうちにメンタルが直ってきた。しかし「2年後、また会えるかな」などと猫に語り掛けると逃げられたので振られたかと儚い気持ちになり、そのまま東大を後にした。

 今から振り返ると、MMTに時間を割いて本職の話が簡単なものになってしまい、どうも拍子抜けの感がぬぐえない。このような短時間で本当に学生を評価できるのかと思ってしまった。開示が来ていないので何とも言えないが、おそらく面接の評価は高くないだろう。


最後におまけとして、学校からもらった過去の面接に関する資料の内容を載せておく。

<2020年>
英語面接10分
数学試験30分
通常面接10分
受験者4人に対し面接官3人。2人は和やかだが1人は厳しめ。経済学部研究棟の10畳ほどの部屋。トイレに行くときも職員がついてくる厳戒態勢だった。
質問内容
①志望理由(英語)
②確率・微積の問題を解く(数Ⅲを含む)
③課外活動について、自作の政策、法学と経済学の政策アプローチの違いを説明

<2018年>
主に日本語、少し英語面接が混じる。
受験者1人に対し面接官3人。40~50代の男性。数学系と経営系で部屋が分かれていた。
質問内容
①志望理由
②数学の問題3問(確率回収不等式、わからないときはヒントをくれる)
③経済学に興味を持った本
④日本経済について関心ある出来事を3つ
⑤経済情勢について自分の意見を提示したいこと
⑥英語で将来の夢を語る(30秒ほど)
⑦部活の話
⑧経済学の数理モデルについて所感


追記(2021.5.11)

面接官の先生は後で明かされましたが、全然違いました。どの先生かは口止めされたので言わないことにします。また、開示が来たのですが、共通テスト858点、書類A判定、総合A判定でしたので、大学側からの評価は私が思っていたより高かったようです。

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