帰ってきた成長する準結晶(正12面体) - Return of growing quasicrystal
要約
正12面体は、4面体1種類と8面体1種類の2種類のモジュールによって成長することが分かった。
前回までのあらすじ
成長する準結晶(正12面体)という記事を書いたのですが、5回対称性を持たない5角形12面体黄鉄鉱の結晶が念頭にあり、それに引きづられた結果、5回対称性を前提としない結晶構造となってしまいました。
5回対称性という「ありえない」とされていた結晶成長モデルが振り出しに戻りましたが、カムチャッカに行くでもなく菱形30面体モデルを淡々と作ったところ、菱形30面体では4面体1類種と8面体1種類の2種類のモジュールで作成が可能であることが分かりました。
これに気を良くして同じ5回対称性を持つ正12面体も4面体1種類と8面体1種類の2種類のモジュールで作ることが「ありえる」という信念の元、色々と試行錯誤を行うのでした……
きっかけ
2f菱形30面体
菱形30面体を眺めていたところ、面としては菱形だが5角形の頂点部分を押し込むと正12面体になることに気づいた。今回は、zometoolではできないので仕方なくPCで計算することにしました。
4f菱形30面体
4f菱形30面体(4面体モジュールのみ配置)
4f菱形30面体モデルを作ってみた。奥行き感が出すため4面体のモジュールのみ配置です。押し込む場所と正12面体を書き込むと下のようになります。
正12面体の境界線(実線)と押し込む頂点(矢印)
モジュール
モジュールは、4面体1種類と8面体1種類の2種類のモジュールとなりました。4面体のモジュールの4面のうち、2面は垂直3角形より構成されていています。
正12面体モジュール(4面体に囲まれている箇所が8面体モジュール)
4f正12面体
4f菱形30面体を押し込むと下のような図になります。正12面体は、4面体1種類と8面体1種類の2種類のモジュールで成長することができます。
4f正12面体(4面体モジュールのみ配置)
ギャラリー
4f正12面体(5回対称性)
4f正12面体(3回対称性)
10f正12面体
新たな問題
前回記事の菱形30面体で議論していた結晶格子の大きな粒子と小さな粒子は、今回の変形によってどうなったかというと、まず、大きな粒子の配置は変わりませんでした。しかし、小さな粒子はだけでは大きな隙間が生まれるようになりました。試しに、1fと2fの一面だけ球体を配置したところ、思った以上に正12面体の内外の層に隙間がかなりあるため、球体による作成に関しては望みが薄そうです。菱形30面体も同様かもしれません。
色別正12面体成長図(白は別面)
適切な問いを考える
少し視点を変え「正12面体の形状を作る」という命題であれば、別の解決方法が提示できます。それは、4面体のモジュールとなる結晶と8面体のモジュールとなる結晶をパーツのように組み立てることで、正12面体となる結晶を形成するという考えです。
つまり、目的の結晶構造を異なる形状の結晶構造で組み立てるということです。このように結晶構造が階層を持つと仮定すれば、原子や分子の半径に囚われてはいるものの、結果としてできあがる結晶構造の形状との矛盾性が解消されると考えられます。
異なる分野ですが、プログラミングの世界では、オブジェクト指向により様々な部品をモジュール化して組み合わせることで、総体としてサービスを作り上げることが当たり前になっています。結晶構造も小さなモジュールの組み合わせていけば、総体として「ありえない」とされる形状が作り出せるのではないかと考えられます。その結果、階層を持つ結晶構造を電子顕微鏡で見たら、非周期的に見えてしまう可能性はありそうだと思いました。
振り返って
正12面体の真っ先に辿り着きそうな分割に行き着きました。実際、この分割自体は、初期の段階から考えにあったのですが、必然性に関して疑問視していたので候補から除外していました。しかし、菱形30面体の準結晶が存在すること、その菱形30面体のモジュールの若干の変形程度で可能であることより、十分取りうるのではないかと思い直すに至りました。
なぜ結晶格子ではなくモジュールを使って図示していたかというと、興味の対象が粒子の配置ではなく、領域の分割のためです。
階層構造のある結晶構造を思いついたのは、ナノ粒子が結晶を作ることがあると知ったことがきっかけでした。結晶が階層構造を持つことができるとしたら、新たな性質が見つかるかもしれません。今後のナノテクノロジーの発展に期待したいところです。
今後について
準結晶の構造に関しては今回で終わりです。
また直接お金にならないことを思いついたら、記事を書こうと思います。
それでは楽しい研究生活を!
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