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成長する準結晶(正12面体) - Growing quasicrystal

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要約

 正12面体は、4面体2種類と8面体2種類の計4種類のモジュールで作成可能であることが分かった。この正12面体は自然数倍で作成可能であるため、隙間なく空間を充填できる特徴を持つ(0倍は体積0の点とする)。正12面体モデルは、同一面を2種類の異なるオクテット・トラスが高さ同じで隙間なく接合することで形成された夢のコラボであるということが分かった。
※トップ画像は、作成中(成長中)の正12面体

注意事項

 この記事は趣味人の思いつきです。
 既知や棄却済みの可能性があるので取り扱いには十分ご注意ください。
 居ないと思いますが研究中の方がいたらごめんなさい。
 転載時は出典URLをつけてください。

準結晶とペンローズタイル

 準結晶は、1984年に発見された結晶格子(の概念)では絶対にありえないとされた5回対称性を持つ結晶(?)で、2011年に発見者のダニエル・シュヒトマンがノーベル化学賞を受賞しました。
 唐突ですが、今から30年前の雑誌 日経サイエンスが、サイエンスだった最終号1990年9月号を最近入手したので、特集 準結晶の2論文を読んでみました。

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サイエンス1990年09月号

 「電子顕微鏡像に現れた正五角対称」は、3次元ペンローズタイルで準結晶の説明をしていました。この頃から既にペンローズタイルで準結晶を説明しようという研究があったのです。
 ペンローズタイルについてですが、2種類の菱形タイルを平面に敷き詰めると5回対称性が生まれつつ、隙間なく平面が埋められるというものです(平面充填と言います)。言いたいことはいくつかありますが、その3次元版とのこと……

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電子顕微鏡像に現れた正五角対称

 「成長する正二十面体」は、モデルを作りながら読んだのですが、4面体5種類と8面体5種類、計10種類のモジュールで様々な多面体が作れるというもので、(説明的に苦しい箇所はあったものの)多面体の統一理論を打ち立てようとした意欲作だと思いました。なお、正20面体を成長させたいだけなら、2種類(4面体1種類、8面体1種類)でできます。準結晶とあまり関係ないのですが、4面体と8面体による空間充填が参考になりました。

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成長する正二十面体

準結晶の説明で使われているペンローズタイルの不満

 今年(2020年)のノーベル物理学賞の受賞者にロジャー・ペンローズがいます。ペンローズタイルの考案者でもあるので、これを機に準結晶の説明で使われているペンローズタイルの不満を書き出し調べることにしました。

不満点その1

 5角形12面体の準結晶を3次元ペンローズタイルで作っている図を見たことがない。
 平面に投影する電子顕微鏡で映された配列パターンが一致しているという主張のものばかり。黄金比は偉大です。

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ペンローズタイルを黄金比の2種類の辺で2種類の3角形に分解した図

不満点その2

 自然界にある5角形12面体も原子の集まりなので、岩塩の結晶のように何らかの規則性を持ち成長すると思われるが、5角形12面体が成長するモデルを見たことがない。

不満点その3

 そもそも平面のペンローズタイルは、5角形を5角形として表せない。心の目で見て点を選び線を引く必要がある。なお、不満点その1の図登場の2種類の3角形を使うと5角形を作ることができます。
 なぜ人類はペンローズタイルを使いたがるかは難しすぎて分かりません……

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2種類の3画計で作った正5角形(かっこいい)

モジュールの紹介

 上記のような不満点があり試行錯誤したところ、4種類(4面体2種類、8面体2種類)のモジュールで正12面体を成長させることができました。ちなみに、4種類で使われるモジュールの辺の長さは3種類、そのうち2種類が黄金比になっています。
※1: 1辺が1から3の正12面体が登場します。分割数はfrequencyなので、1f正12面体などと表現します。なお、0f正12面体は点です。
※2: 「成長する正二十面体」の10種類のモジュールとは別モジュール

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左からモジュールA(4面体)とB(8面体)

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左からモジュールC(4面体)とD(8面体)

結晶格子での紹介

モジュールでは分かりにくいかもしれないので、結晶格子も追加します。4画形の対角線は分離する場所です。写真が何だか縮尺失敗しているように見えます……

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モジュールA,Bで構成された結晶格子

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モジュールC,Dで構成された結晶格子

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高さが同じ2つの結晶格子を並べた図(左からC,DとA,B)

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高さが同じ2つの結晶格子を横から見た図(左からC,DとA,B)

1f正12面体のモジュールの組み合わせ

 1f正12面体は、12の5角錐によって構成されていると言うことができる。この5角錐は、1f正12面体は、モジュールA2個、C1個を組み合わせることで作ることができる。一番手前の頂点が、中心点である。
 なお、このモジュールAとCが2倍、3倍...と成長することで、正12面体も2倍、3倍...と成長することになる。

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5角錐を上から見た図(左からA, C, A)

2f正12面体の5角錐

成長感が分かりにくかったので、小さい5角錐の次に2fの5角錐を持ってきました。
2種類の4面体に同じ3画形があるように、2種類の8面体に同じ3画形があり接着します。

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2f5角錐を上から見た図(左からAとB、CとD、AとB)

2f以上の正12面体の配置

 1f正12面体は4面体のみで構成されていたが、2f以上の正12面体は8面体も含まれるようになる。また、モジュールAとCが成長していると解釈することもできる。このため、モジュールAとCの位置関係は正12面体が成長しても維持される。
 構造として、モジュールA,Bのオクテット・トラスが、モジュールC,Dのオクテット・トラスを挟むように5角形を構成する。
 乱暴に言えば、結晶は同一面を1種類の結晶格子で充填するため結晶格子は単一とならざるを得ないが、準結晶は同一面を2種類の結晶格子によって充填しているため、5回対称性という単一結晶格子ではありえない構造を持つことができると考えられる。

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手前側が2f正12面体の面、奥側3f正12面体の面

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オクテット・トラスの種類で分離
(左からモジュールAとB、CとD、AとBで構成されている)

正12面体の分割

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3f正12面体を外側から見たところ

1辺がnの正5角形において、モジュールA,C,Aとなるように5角形内に対角線を引き、その線と平行となるように、かつ、n等分がなされるように線を引く。あとは、3角形となるように線を補えばよい。

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2種類の平行な線を引いた3f正12面体の面

2f正12面体

2020-10-07 現在
 パーツ注文中のため6面のみ完成した状態の模型をアップしておきます。

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成長していると言えなくはない……

2020-10-09
 パーツがやってきたので2f正12面体が完成しました。

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2f正12面体

現実の5角形12面体

 黄鉄鉱の5角形12面体は5辺のうち1辺だけ短いという記述が、中川宏著『多面体木工(増補版)』p.21にあった。対称性よりモジュールCの1番短い辺が、より短いために発生すると考えられます。この短い辺の位置関係は書かれていないが、理想的な状態であれば、全部でおそらく6本、2本が中心点で対面となり、正方形の面と同じ位置関係で配置されていると考えられる。
 実証は時間もお金も設備もないので本職の人にお任せです!

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5角形の1辺だけ異なる種類を許容する正12面体(黄線)

振り返り

 結晶格子の格子は、4角形に囲まれた6面体であるが、その6面体は並進(繰り返し)が前提とされている。この並進を持つ6面体は、並進対称性を持つため空間充填可能である。しかし、空間充填は並進対称性を必ずしも必要としない。ペンローズタイルが2次元の平面での反例である。
 既に結晶と認めていない準結晶であるなら、並進対称性を要請する格子を破棄して、より重要な概念である空間充填を満たすようにモデルを採用することの方が理に適っていると思い試行錯誤していました。

今後について

 言いたいことは言い尽くしましたが、補遺としてCGを使った記事をアップしようと思っています。公開しても大丈夫な資料を作るのは楽しいですね。
【2020-11-22追記】
 この記事は5回対称性を持たない黄鉄鉱であるため、補遺の作成は辞めました。

公開にあたって

 時間節約のためzometoolを使い模型を作成したのですが、この模型を作るのに試行錯誤した結果、控えめに言って数万円使うことになりました。ちょっと想定外の出費だったので、余裕がありましたらサポートをお願いいたします。別アングルの模型を見たいなど、リクエストがあればできる限り対応したいと思っています。zometoolを日本で買う場合はジャパン・ゾム・クラブの会員(無料)になると20%引きになってお得(でも高い)です。
それでは楽しい研究生活を!

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