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1993年のゼラチン、2006年の紅茶、2015年のお味噌汁

  • 1993年のゼラチン

  • 2006年の紅茶

  • 2015年のお味噌汁

上記のキーワードからなにが連想できるだろうか。

私は勿論即答できるのだが、まあ焦らしてもあれだ、紛れもない、祖母の家から発掘された年代物の品々である。
私は1994年生なので、1993年が賞味期限のゼラチンは先輩にあたる。生まれはもっと前だろうから、6.7年位先輩かもしれない。

祖父が亡くなってから約20年のあいだ、祖母がたったひとりで暮らしていた3DKの団地の一室には、開封済みのミンティアが60個あったり、馬鹿みたいにカップのでかいブラジャーが150枚、これまたでかめのパンツが200枚くらいあったり、物が足りなくなるのを恐れる祖母の人生がそのまま反映されていた。

くたびれた下着は雑巾にでもすればいいし、ミンティアは孫の私が持ち帰って在宅勤務のお供にすればいい、なんの問題も無い。
しかし、現実はしばしば予想を大きく上回ってくるということを、平坦な日々に埋もれてすっかり忘れていた。

母と二人で祖母の家に遊びに行ったとき、祖母の家の中心には人が入れるでかい物体が置かれていた。何かと聞いてみると身体が楽になるマッサージ機?のようだった。約400,000円払った当の祖母は一切使っておらず、付き合いで買ったそうだ。

その他にも前来たときにはなかったアクセサリーや化粧品、洋服が無限に湧き出てくる。ほぼ身に覚えがないか、付き合いで買ったということだった。
さらに母が通帳を確認したところ、難なく暮らしていけるくらいにはあったはずの貯金がほぼ底をついていたらしい。
その他、会話の様々なやりとりから判明したことは、祖母は知らぬうちに軽い認知症になってしまっていたということだった。

85歳まで皆勤で働いて、友達も多く、カラオケにも通ってカラオケ大会まで出ていた元気な祖母と認知症というワードは、不思議と全く結びつかない訳でもなかった。

祖父が死んでしまってからの寂しさや空虚、少なからずあったのだと、思った。全くそんなそぶりや言動は見せなかった祖母。本心はやすやす語らず、祖母なりに楽しく生きようとしたんじゃないかと、思った。
その姿は傍からみたら元気に見えても、やはり祖母の意識すらも超えるレベルでダメージを受けていたんじゃないかと考えた。

もちろん人はいつか死ぬ。それを祖母も分かってるだろう。祖父の死はとうに受け入れて、気持ちには区切りをつけられていたけど、単純に脳の老化かなにかで、発症した可能性もある。いまとなっては誰もわからないし、真実はどちらでも良い気もする。祖母はまだ生きてることだけが重要だと思う。

結局、祖母は母と一緒に住むことになった。祖母一人では片付けられないので、母と二人で会社を休み1週間通い詰め、互いの目利きで要不要を切り分け、要は段ボール50箱に、不要はゴミ袋80〜100袋くらいにそれぞれ収めた。

でかい家具などは10万くらい出して、不用品回収業者に頼んで引き取ってもらった。ものを所有しているだけでこんなにもコストがかかるのかと唖然とした。

gkbrはもう何も感じなくなるほど見かけた、麻痺した感覚だけを武器に、gkジェットは特段用意せず掃除に勤しんだ。
エアコンを取り外してくれた業者の兄ちゃんが、エアコンからgkbrがめちゃくちゃ出てきたと慌てていて可哀想に思ったので、そこでようやく最寄りのコンビニでgkジェットを自腹で買いに行ったやつを貸してあげた。
兄ちゃんが帰ったあと、9割片付け終わっており、私物にしようと思っていたgkジェットはいくら探しても見当たらず、兄ちゃんが持ち帰ったらしかった。

母と父と祖母が住みだして3年くらいが経とうとしてる。まだ私のことは分かるようだが、私が結婚してることやどこに住んでいるのか認識してるかは怪しい。

何度か夫も会わせたが、会うたびに出身地と兄弟構成を質問し、夫は丁重に答えている。数分経つとまた忘れてしまうので、夫は聞かれた分だけ答える。

好奇心から、「どこのひとですか?」と夫に聞く祖母に、「どこだと思う?」と聞いてみた。不思議なことに祖母は、「北海道かどこか?」と正解をさらりと口にしたのである。やはりどこかに記憶は残っているのだろうか。

祖母は3年前から自分の年齢を90歳と言い続けているが、ようやくいま本当に90歳で、今年は91歳になろうとしている。91歳になってもまだ祖母は90歳と言い続けるかもしれない。95歳の節目ではどうなるんだろう、というのも、私は祖母が四捨五入している気がしてならないのである。

今の祖母の存在を私なりに大切にすることが、私にできることであり、彼女の長寿に少しでも繋がることな気がしている。四捨五入しているか否かを確かめることができたらそれはそれで面白いし、出来なくてもなんだかミステリアスで祖母らしい気もする。

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