鳥取のじいちゃん②
中学生の終わり頃にもなると、自分の限界値を把握させる、というていで、父親が自分の飲んでいるビールを少し分けてくれた。
くすんだ金色のグラスに注がれたソレは、すごく不味かった。
それを見てばあちゃんは
「頭が悪ぅなるけ」と心配そうにする。
それを見てじいちゃんは
「ともくん、勝負しようや」とニンマリ笑う。
これが僕とじいちゃんの第二次大戦勃発の合図となる。
じいちゃんは根っからの商売人で、晩年は酒屋の店主として暮らしていた。
先の腕っぷしが強かった所以も、毎日の様に酒樽を配達し続けた賜物かも知れない。
そんなわけで、じいちゃんの家に行けば酒屋の特権よろしく、なんでもござれ。今思えば宝の山だったのだろう。しかしながら、当時の僕はくすんだ金色のグラスに注がれたソレを、美味いと思えなかった。
高校を卒業して、それなりにお酒も飲めるようになったある日の晩、台所でこっそり彼女と電話をしていると、二階からじいちゃんが降りてくる音が聞こえた。
「おぅ、ともくん、起きとったか」
「ちょっと飲もうや」
そう言ってじいちゃんは、売り場から一本の酒を持ってきた。それが、サントリーローヤル。
当時ブラックニッカのポケ瓶を買って、飲み方も良く分からずラッパで飲んでは、なんじゃこのキッツイのは!と反吐を吐き散らかして、ウイスキーは僕にとって大人のお酒だった。
トゥクトゥクトゥク‥
ロックグラスに金ピカの滝が流れる。
「これも用意しときぃ」と、傍に水が置かれる。
これをチェイサーと呼ぶと知る。
余談だが、それからしばらく「あとチェイサーもください」と店員さんにオーダーするのが、とても誇らしかった。
そんな夜から十数年後
じいちゃんの通夜を終えた夜に、酒屋の在庫からサントリーローヤルを見つけた。
長生きするために辞めた煙草と酒
その夜はじいちゃんと久しぶりに勝負をした。
僕はまだまだ酒が弱いままだ。