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【日本酒記 その一二】タクシードライバー

 私が日本酒を購入するときの基準は、かつて第七回の記事(【日本酒記 その七】一白水成)で記したので、ご存知の方もいらっしゃるかもしれない。まだ読まれていない方には、お時間の許すときに、是非とも読んでいただきたいと思う。
 今回、本稿で取り上げる「タクシードライバー」は、まさに、そんな私が日本酒購入時の基準の一つとする「見た目」「ジャケ買い」がきっかけの銘柄だ。

 ラベルを一目見て、多くの方は、「誰だこれは!?」「何だこの酒は!?」という印象を持つだろう。ラベルからこちらを見ている男性は、俳優のロバート・デ・ニーロだと思われる。こんな書き方になってしまうのは申し訳ないが、ネットで男性の正体を検索してもすぐに出てこなかったためだ。しかし、一九七六年公開の映画『タクシードライバー』がモデルになっていることは、蔵元の公式情報や各地の酒屋の情報から明らかである。
 しかし、「この男性はロバート・デ・ニーロです」と紹介された記事や情報が見つからないので、結論は保留としておく。というのも、醸す喜久盛(きくざかり)酒造は、その他にもユニークな銘柄をデザインしていることで有名なので、遊び心でデニーロに扮した誰か(例えば杜氏や関係者)の可能性も捨てきれないのだ。たぶん、デニーロだと思いますが・・・。

 そんな通称「タクドラ」の歴史について、もう少しだけ記す。
 タクドラは、五代目蔵元、藤原卓也氏が二〇〇五年(平成七年)に立ち上げた銘柄というから、比較的、新しいブランドだ。藤原氏は、映画業界でデザイナーとして活躍されている高橋ヨシキ氏と懇意であり、縁があってラベルのデザインを依頼したとのこと。見た目と同様に、味にインパクトはあるのか。
 では、早速、レビューを書き進めよう。

ラベル表面
ラベル裏面

タクシードライバー 純米原酒 仕込み2号 生酒

原材料名 米(岩手県産) 米麹(岩手県産)
原料米 かけはし(100%使用)
精米歩合 55%
アルコール度数 17度
日本酒度 +9
酸度 1.6
アミノ酸 1.7

 喜久盛酒造の特徴として、異なる酵母や麹、仕込み時期で醸し、味の違いを楽しむというスタンスが挙げられる。今回、私が戴いたスペックは上記の通りだが、酒蔵によっては、各項目で非公開とされている箇所があったりするのに比べて、オープンな酒蔵だといえる。

 まずは、冷酒で呑んでみる。開栓してすぐに瓶の口から香りを嗅ぐと、酒らしい酒といった印象を抱く。甘さは香らない。盃に注ぐ。透明に近いが、酒にやや色がかかっているように見えた。さて、味見だ。
 ゆっくりと唇を伝って口内に流れ込んだタクドラは、飲み口がキリっとしている。それは喉越しまで持続して、やがて爽快感のある後味となった。甘みはやや感じる程度か。鼻へはそれほど抜けてこないが、香りを嗅いだ印象通りの酒らしい酒だった。

盃に注いでみた

 しばらく時間をおいて常温で戴く。それほど大きな変化は感じないが、適温になって突出した箇所がなく落ち着いている。呑みやすくなり、これもまた良い。
 さて、最後の仕上げは燗酒だ。温度帯を飛び切り燗ほどにして、鍋から引き揚げ、味を窺う。盃に鼻を近付けると、香りが豊かになったように感じる。一口、含む。ふう・・・。甘みと酸味の調和がとれている。酸味は他の温度帯であまり印象に残らなかったが、これは驚いた。燗映えしている。生酒だが、この酒は燗でさらに良し。ベストな燗つけができた。

 私はどの銘柄の生酒でも必ず御燗にして変化を探るが、最後の最後にベストな味の変化を楽しめた。上記の通り、喜久盛酒造様は多種多様な仕込みのスペックで商品をリリースしている酒蔵なので、今回、私が戴いた銘柄だけが燗映えしたのかどうかはわからない。つまり、今後も機会を得て、スペックの異なる種類を手に取り、味の違いを楽しむことになりそうだ。

 喜久盛酒造は一八九四年(明治二七年)岩手県北上市に設立された。しかし、二〇一一年(平成二三年)三月一一日に発生した東日本大震災の被害を受けて、蔵は倒壊してしまった。
 路頭に迷っていた藤原氏であったが、その後、花巻市で酒造りを営んでいた白雲酒蔵が廃業するとの知らせを受け、蔵を残すという意味も込めて、喜久盛酒造は花巻市に移転することで酒造りを継続した。
 そんな復興の歴史を今も歩んでいる蔵元だが、タクドラは今後も長い年月をかけて、酒造りと、地域の発展とPRに勤しむのだろう。それはやがて、私の大好きな東北にとって、実りある軌跡となることを期待したい。

参考サイト

岩手県北上市唯一の酒蔵、創業130周年の記念すべき年に復活へ。 - CAMPFIRE (キャンプファイヤー)

タクシードライバー 喜久盛酒造(きくざかりしゅぞう) 鬼剣舞|日本酒通販専門店 佐野屋 地酒.com


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