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 噂で聞いていたが、なかなか触れる機会がなく、間延びしていた欲しいもの。日本酒に限らず、そんなものは皆様の身近にもあるかと思う。私にとってはその一つが、今回、ご紹介する「光栄菊」だ。

 醸す「光栄菊酒造」は一八七一年(明治四年)創業。しかし、二〇〇六年(平成一八年)に一三五年という長い歴史に幕を下ろした。ところが、後にその名を引き継ぐ三人の造り手が現れた。元テレビマンで光栄菊酒造現社長の日下智氏と、同じく元テレビマンで取締役の田下裕也氏である。
 二人は日本酒をテーマにした番組制作の過程で、日本酒に対する関心を深めていった。「いつか自分の手で日本酒を造りたい」。二人はそんな思いを抱き、日々、日本酒造りについての知識を追究した。そんなある日、日下氏は愛知県にある藤市酒造が醸す「菊鷹」を口にする。呑んだ瞬間に衝撃が走り、「こんな酒を造る杜氏と仕事がしたい!」と、酒造りへの思いは募るばかりであった。
 その杜氏とは、山本克明氏である。二〇〇四年には自身の名前を冠した「山本スペシャル」を販売したことで一躍有名になったが、二〇一二年に藤市酒造に移籍。こうして、菊鷹が販売され日下氏の舌を唸らせることになったわけだが、二人は後に知り合い、田下氏を含めて三人で酒造りを開始する。
 そうはいっても、どこでどうやって酒を造るのか。思案した三人は、十年ほど前に佐賀県で閉業した光栄菊酒造の蔵が残っているとの情報を掴んだ。創業者一族との交渉の末に、「蔵を復活させることができるなら嬉しい。譲りましょう」との想いも背負い、二〇一九年、名前を引き継ぎ、光栄菊酒造は復活を果たした。

 栄枯盛衰を経て新たなスタートを切った光栄菊。初のリリースからいくつもの種類を醸造してきたわけだが、今回、私が手に入れた種類のスペックをご紹介したい。

ラベル表面
ラベル裏面

光栄菊 Harujion(ハルジオン) 無濾過生原酒

原材料名 米(国産) 米麹(国産米)
原料米 春陽(しゅんよう)100%
精米歩合 非公開
アルコール度数 14度
日本酒度 非公開
酸度 非公開

 原料米の春陽は低タンパクであり、また、完成品は「4mmp」という特異な香りを放つことで評判が良い。それはマスカットのような香りだと表現されているのをよく見かけるが、真相は如何に。

 まずは冷蔵庫から取り出して冷酒でいただく。キンキンに冷えていて楽しみだ。栓を開けると心地良い音とともに僅かな香りが漂ってきた。グラスに注いでみる。

よく冷えていて瑞々しい
気泡が立っているのがわかる

 見た目は無色透明。グラスに鼻を近付けて改めて香りを嗅いでみると、先述のように微かに香るが、評判通りに果実臭がする。しかし、マスカットというよりはパイナップルのように私には感じられた。それほど強い刺激ではない。一口、含んでみる。
 うむ・・・。これは、最早、炭酸飲料だ。ややフルーティーだが甘口ではない。しかも日本酒らしい切れ味があり酸味もある。スパーリングワインのようで親しみやすいスッキリ感があり気分が良い。ハレの日に呑むには打って付けのような感覚だ。
 さて、グラスのまましばらく放置して常温にしてみる。このタイプの日本酒は冷酒がベストなのは呑んでみて納得したが、せっかくの試飲機会なのだから、温度帯を変えて様子を見たいのが私である。温度が上がるとどうなるのか。呑んでみる。うむ。なるほど。切れ味が出てくる。パイナップルのような味が濃くなり、顔を出したようだ。冷酒よりも強めに存在を感じた。さて御燗にしてみよう。
 程良く湯気が立った状態で燗つけを止めて、口に含む。・・・なるほど。酸味というより辛さが鋭くなったようだ。温めると意外にもフルーティーさがはっきりする。私の馬鹿舌のせいか?だが、これも嫌いではない。しっかり冷酒で呑むのがベストだとは思うが、燗酒は変化球という感じだ。

 コロナ禍直前に新たなスタートを切った光栄菊。出鼻を挫かれるかたちでまたもや困難が訪れた時期だったとは思うが、新たな挑戦は始まったばかり。すでに数多くの種類を世に送り出している光栄菊に、今後も目が、いや、舌が離せない。

参考、引用元
https://jp.sake-times.com/knowledge/sakagura/sake_g_koueigiku

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