LanLanRu映画紀行|ジャイアンツ
舞台:1920-50年代/アメリカ
「ジャイアンツ」を再見して
初見の時にはエリザベス・テイラーの美しさを堪能した。だが、考えてみるとそれだけではどうも終われない映画のような気がしてきた。改めて見るとこの映画、ベネディクト家の姿を通して時代の流れの中に移り行くテキサスの姿を描いている。西部劇で有名なテキサスであるが、実はこの土地についてあまりよく知らないことに気が付いたのだった。
テキサスの大牧場の家族史を描いた ハリウッドの超大作映画
1956年公開/ジョージ・スティーヴンス監督作品
まずは映画の話を。『ジャイアンツ』はテキサスの大牧場、ベネディクト家の家族史を描いた一代叙事詩である。エドナ・ファーバーの小説『Giant』(1952年)の映画化であるが、時間にしてたっぷり3時間21分。主演も往年のスター、ロック・ハドソン、エリザベス・テイラー、ジェームズ・ディーンと、黄金期のハリウッド超大作映画と呼ぶにふさわしい映画の一つである。
エリザベス・テイラー扮するレスリーの嫁いだテキサスの封建的な牧場主ビック・ベネディクトと、一介の牧童から石油王に成り上がる男、ジェット・リンクの生涯を通して、アメリカ東部と西部の価値観の違い、また変化する時代のなかで廃れゆく”西部”の姿が描かれる。21世紀になった現在でも直面している女性の自立や人種問題などへの問題意識を提起した、当時としては先駆的な映画でもあった。
西部の牧場主と東部から来たお嬢さん
東部ヴァージニアの名門リントン家の令嬢レスリーは、テキサスからやって来た青年、ビック・ベネディクトと魅かれ合い結婚する。新婚生活に大きな夢を抱いてテキサスに嫁いできたレスリーだが、東部と西部の生活や考え方の違いに悩まされ続けることになる。
男尊女卑の風潮。ー女が政治などの話に首を突っ込む事を許さない頭の固い夫やその友人たち。一方レスリーは彼らを「原始人」呼ばわりする。
また、メキシコ人に対する人種差別の激しさ。ー劣悪な生活環境や白人経営のダイナーに入店を認めないなど。公然と差別が行われている様子が見てとれる。そんな因習を引き継いで傲慢で差別的な態度を見せるビックと、愛しながらもそんな夫の行動に眉をひそめるレスリー。映像的にも、緑が広がるヴァージニアの大地と、一面乾いた埃立つテキサスとの対比が印象的だった。
ベネディクト家にみる 移りゆくテキサスの姿
カウボーイが力を振るった西部劇の舞台から、オイルメジャーが拠点を構える石油の都に。大牧場を経営しながら力を失っていくベネディクト家の姿は、時代と共に移り行くテキサスの象徴のようだ。
もともとメキシコ領だったのが、アラモ砦の攻防戦や米墨戦争の末にアメリカに加えられた土地ということもあり、西部劇の印象の強いテキサスである。「テキサス決死隊」、「テキサスの5人の仲間」、「アラモ」などなど。しかし1920年代にはすでに”開拓”すべき土地はない。その代わり、映画のなかでジェット・リンクが取り組んだのが油田の開発だった。馬やバッファローは姿を消し、石油オイルを積んだタンクローリーが走り回るテキサスの変貌が映像で象徴的に示されている。
実際にテキサスで油田ブームがはじまったのは20世紀初頭、1901年にテキサス州ボーモント郊外で大規模な石田が発見されたのがきっかけとなる。制御できるようなるまで9日間、黒い液体が噴き出し続けたというが、このスピンドルトップ油田はその規模において前例のないものであり、当時進行しつつあったアメリカの急速な工業化を支える原動力となった。今でもテキサス州の石油・ガスの生産量は全米No.1、アメリカの原油生産の3分の1以上を担っているという。
テキサスも油田ブームに沸いた頃があったのだなくらいの気持ちで映画を見ていたのだが、よくよく調べてみると、この地域における石油の発見はアメリカの経済構造そのものを一変させるほどの影響力を持っていたのであった。
もっとも、油田ブームも1930-40年代には終わりを告げ、今ではテキサスも航空宇宙やハイテク、通信、運輸、農業などさまざまな産業への多角化が進んでいる。そういえばNASA(アメリカ航空宇宙局)はテキサスのヒューストンを拠点としていた。『宇宙兄弟』でムッタがカウボーイハットをかぶって制服でNASAに向かう姿を思い出したが、あれはあれで今のテキサスを体現している気がする。GDPはカリフォルニアに次いで全米第2位(出典:Bureau of Economic Analysis, U.S.Department of Commerce,2014)。人口も増加の一途でアメリカの中で最も勢いのある州となっている。
さいごに
映画に話を戻そう。何一つ思い通りにいかなかったビック・ベネディクト。息子に自分の跡を継がせることができなかった。ケンカでも負けた。かつての使用人のジェット・リンクは今や石油王だ。しみじみと自分は人生に失敗したんだとこぼすビックに対し、そんなことはないと否定するレスリー。自らも偏見を持っていたビックが見知らぬメキシコ人一家のために差別に立ち向かった姿こそが誇らしく、私のヒーローだったと語りかける。
ぶつかり合いながらも互いの理解を深めていく二人に対して、成功を手にしながらも孤独を深めていくジェット・リンク。それぞれの30年間の旅路が感慨深い。ジェット・リンクを演じたジェームズ・ディーンにとってはこの作品が遺作となった。
〈参考文献〉
テキサス州の概要 | 在ヒューストン日本国総領事館 (emb-japan.go.jp)
いま注目のアメリカ・テキサスってどんなところ? - 現地情報誌ライトハウス (us-lighthouse.com)
アメリカ支えた石油の都、いまエネルギー転換の「首都」に テキサス・ヒューストン:朝日新聞GLOBE+ (asahi.com)