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LanLanRu映画紀行|ジャネット

舞台:1425年、/フランス

話には聞いていたが、奇妙な映画だ。
こんなジャンヌ・ダルクを見る日が来るとは思わなかった。
「ジャネット」/「ジャンヌ」。
フランスの鬼才、ブリュノ・デュモンのジャンヌ・ダルク2部作である。


ジャンヌ・ダルクの幼年時代を奇想天外な歴史音楽劇として描く
「ジャネット」
2021年公開/ブリュノ・デュモン監督作品
百年戦争で活躍したフランスの英雄、ジャンヌ・ダルクはこれまで数々の名匠が映画化してきた。その中でも、「ジャネット」はとびきり異色だ。
フランスの小さな村、ドンレミの少女ジャネットがいかにしてジャンヌ・ダルクになったのか。カトリックの詩人・思想家シャルル・ペギーの詩劇をもとに、ジャンヌ・ダルクの幼年時代を奇想天外な歴史音楽劇として描いている。

緊張と弛緩を繰り返す。激烈な音楽。奔放な舞踊。

当時8歳。リーズ・ルプラ・プリュドム(成長してからはジーン・ヴォイシン)演じるジャネットは、ブラックメタルやバロック音楽、ブレイクコアなどのヘヴィメタに合わせて、奔放に歌い、踊る。

飛んだり跳ねたり、
くるくると回ったり、
激しくヘッドバンギングさえする。
かと思うとゆっくりと身体をゆらしはじめて、
自らの素足で大地を踏みしめ、
空に手を伸ばす。

そして心中の苦しみを訴える。
ある時は友人オーヴィエットに。またある時は修道女ジェルヴェーズに。

聖女の悲観、宿命の霊性、絶対の孤独

イングランドによって引き起こされた「耐え難い苦しみ」を打ち明けるジャネットに、オーヴィエットは「働いて終わるのを待つしかない」という。
修道女ジェルヴェーズは「永遠の地獄から死者を救いたい」と訴えるジャネットに、「それは神の役目、人間のものではありません、滅びを止めたいなら、祈りなさい。力の限り苦しみを味わうのです」と諭す。

こうして対話のなかで、ジャネットの孤独が描かれる。誰にも理解を得られず思い悩むジャネット。その後、聖ミカエルの言葉を聞くが、ジャネットは従うことができず、逡巡する。そして数年後、彼女はとうとう神の御心に従い、故郷を後にするのだった。

さいごに

殺風景な荒野で数人の登場人物が歌い踊り、語り合う。ほとんどのシーンがその繰り返しなので、対話劇をそのまま野外に持ってきて、フィルムに収めたような印象がある。
荒野の中、画面に映るのは、大地と青い空、そして羊たち、ただそれだけ。だからこそ、俳優の存在感が際立っている。彼らの朴訥な演技、奇妙でぎこちない体の動きから、どうしようもないもどかしさや、不安が伝わってくるのだった。
それにしても変な映画だ。中世的な風景の中で、双子のシスターがヘッドバンキングしたり、ブリッジで登場するオーヴィエットの姿は強烈で、なんだこれは!と突っ込まずにはいられない。が、妙に癖になる。とてもヘンテコな映画だった。

ジャンヌ・ダルクを扱った主な作品
・『ジャンヌ・ダーク』(ヴィクター・フレミング監督/1948年)
・『聖女ジャンヌ・ダーク』(オットー・プレミンジャー監督/1957年)
・『ジャンヌ・ダルク』(リュック・ベッソン監督/1999年)
・『ジャネット』(ブリュノ・デュモン監督/2017年)
・『ジャンヌ』(ブリュノ・デュモン監督/2019年)


〈参考文献〉
・『ジャネット』「ジャンヌ」公式サイト
 https://jeannette-jeanne.com/

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