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LanLanRu映画紀行|花咲ける騎士道

舞台:1750-60年代付近 /  フランス

七年戦争に関する、痛快な映画のお話をひとつ。
ジェラール・フィリップの代表作、「花咲ける騎士道」。
荒唐無稽なストーリーが楽しい冒険譚だ。

「花咲ける騎士道」

1952年公開/クリスチャン・ジャック監督作品
フランスの民謡「ファンファン・チューリップ」をモチーフに監督が映画化したらしいが、18世紀のフランス舞台に、剣戟やロマンスを盛り込んで、すっかり楽しい冒険活劇になっている。
何より魅力は、ジェラール・フィリップ。「パルムの僧院」など影のある美男から一転、陽気でやんちゃなプレイボーイ、ファンファン・ラ・チューリップを演じている。これがなんともいい男。
美女を渡り歩いては、自由に恋愛を楽しむファンファンだったが、美しいジプシー娘に扮したアドリーヌにすっかりのせられ、軍隊に入隊することに。七年戦争の兵隊が少なくなって志願兵を募っていたところ、望まぬ結婚から逃げてきたファンファンが引っかかってきたのだ。
アドリーヌの適当な予言、"貴方は王女と結ばれる運命にある"を信じて、ある日、本当に王女を襲撃から救った彼は、その後も王女のことを忘れられず、奮闘するのだが・・・。

ポンパドゥール夫人登場

ファンファン・ラ・チューリップ。一度聞いたら忘れられないこの愉快な名前は、かの有名なポンパドゥール夫人によって名付けられた。(もちろん映画の中でのお話。)
ポンパドゥール夫人はルイ15世の公妾だった人で、その美貌と才知でルイ15世の心をつかみ、宮廷で権力を握る実力者として君臨していた。政治に関心のないルイ15世は、ポンパドゥール夫人の政治への関与を許し、人事なども彼女に任せてしまっていたらしい。ファンファンがたまたま盗賊から助けた貴婦人は、実はフランスの宮廷の影の実力者だったというわけだ。もっともファンファンは、アドリーヌの占いのせいで、ルイ15世の娘のアンリエット王女の方に夢中になっている。

外交革命が引き起こした七年戦争

このポンパドゥール夫人、実は七年戦争を引き起こしたきっかけを作った、張本人でもあった。
七年戦争(1756-63年)というのは、シュレジェンの領有権を巡って争われた、プロイセンとオーストリアの間の戦争だ。そこに、イギリスがプロイセンを、フランス・ロシアがオーストリアを支援したので、ヨーロッパ全域を巻き込む大戦争となってしまった。図にするとこんな具合。

七年戦争

けれども、この対立構造は、少し前のヨーロッパではありえなかった。なにしろフランスとオーストリアは不倶戴天の敵同士。イタリア戦争でも、三十年戦争でも、オーストリア継承戦争でも、およそ200年の間、何かあるたびに敵対して戦ってきたのだ。
ところが・・・!この状況を一変させたのが、オーストリアのマリア・テレジアとフランスのポンパドゥール夫人が仕組んだ「外交革命」だった。共通の敵プロイセンに対して、1756年に手を結び、さらにロシアの女帝エリザヴェータとも同盟交渉に成功して、反プロイセン包囲網を結成したのだ。
これはヨーロッパの国際秩序を塗り替える、画期的な出来事だった。しかし、プロイセンのフリードリヒ2世にとっては、迷惑なことこの上ない。イギリスという味方はあるものの、大陸内で孤立を余儀なくされたフリードリヒ2世は、形勢逆転をねらって1756年、オーストリアと開戦する。これが七年戦争のはじまりだった。

七年戦争 その後

こうして、もともとはオーストリアとプロイセンの、シュレジェンの領有権を巡る戦いだったのだが、イギリス、フランス、更にはその植民地まで巻き込んだので、七年戦争はワールドワイドの、世界規模の戦争となってしまった。1756年から1763年にかけて、文字通り7年間にわたる戦争の間中、ヨーロッパでも、アメリカでも、インドでも戦闘が行われて、プロイセン・イギリス側が優勢だった時も、オーストリア・フランス側が優勢だった時もあったようだが、結局七年戦争は、イギリスとプロイセンの勝利に終わる。

この戦争の影響は大きかった。イギリスはカナダなど植民地を獲得し、世界植民地帝国を形成することとなったし、プロイセンもヨーロッパにおける国際的地位が向上し、強国の一員として、その後存在感を発揮することになる。
一方、オーストリアはロシアの裏切りもあり、シュレジエン地方奪還に失敗しているし、フランスにしても、七年戦争と並行して戦っていた植民地戦争でイギリスに敗れ、多くの海外植民地を失ってしまった。さらに戦争のせいで財政難が深刻になり、30年後にはついにフランス革命が勃発することになる。その遠因になってしまったのも、七年戦争なのだった。

ところで、ファンファン・ラ・チューリップはこの戦争に飛び入りで参加したわけだが、訓練にはやる気がないし、上官には不服従で、兵隊としては全く役に立っていない。それよりも彼の興味はアンリエット王女の方にある。王女会いたさとアドリーヌ救出に奮闘した挙句、ともあれ彼の活躍により、戦いはフランスの勝利!ファンファンとアドリーヌも結ばれてめでたしめでたし・・・と、映画の方はハッピーエンド。

さいごに

こんなふうに、どこまでも都合のいい展開ではあるが、そこは映画。気にせず楽しむべきだろう。それよりもジェラール・フィリップの活き活きとした活躍ぶりから目が離せない。軽さの中にも純粋さが感じられて、愛嬌たっぷり。ジェラール・フィリップはこの映画が大ヒットしてから、”ファンファン”が愛称になったとか。
そしてもう一人、ヒロインのアドリーヌを演じたジーナ・ロロブリジーダ。当時のイタリアのセックスシンボルだったようだが、名前の通り、美貌と見事なプロポーションに、これまた目が離せなかった。


■「花咲ける騎士道」関連作品
花咲ける騎士道(フランス映画 , 2003年)
「花咲ける騎士道」は、2003年にバンサン・ペレーズとペネロペ・クルスでリメイクされている。こちらもテンポが良くて面白かった記憶があるので、機会があればもう一度観たい。ペネロペ・クルスがチャーミングではまり役だった。


〈参考文献〉
・『世界史用語集』(山川出版社, 2014)全国歴史教育研究協議会 編


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