ケガすると勧誘がある
1人で事業をやっていると、会社組織から勧誘がある。「どお、1人じゃ何かと大変だろうから、ウチで働かない?」、と。
特に誘われるのが、ケガをしたときだ。さまざまな保障のない不安を衝いてくるわけだ。
「事故やケガしちゃったら、1人でやってたら命とりでしょ。仕事が全部ストップしちゃうよね。でもホラ、社員になれば社会保障あるしね」
だいたい決まった勧誘の文句なのだ。実際それはよく分かる。1人業者には効果的な文句なのだ。常々、事故でも起こして動けなくなったら終わりだな、と考えているのだから。
保障も大事だが、でももっと気になるのは仕事そのものだ。たとえば事故や病気で入院したときに入院保険が出たとしても、当座の出費は回収できても、仕事が継続できない。入院しているときにお得意さんが離れていってしまうからだ。我々の業界は、継続して取引をしなければならない。途切れると売り先がなくなってしまう。休業イコール廃業となってしまうのだ。単にアクシデントのときに、それをまかなう保証が出ればいいと言うわけにはいかないのだ。
だから勧誘は魅力的なのだ。ひとり業者であれば気が楽で、そして仕事しただけ実入りがある。でもいい面があれば、当然悪い面もある。悪い面は、とにかく不安定で、綱渡り的。
勧誘というのはタイミングがある。夏はひんやりした飲み物を売って冬はホットを売るような感じ。それを求めているときに勧誘するのが効果的だ。そこで、社員にならないかという勧誘は、ケガをしたときが圧倒的に多かった。
こちらは体が不便で仕事が滞りがちで、そして不安も抱えている。そういう時に、ポンと声をかけてくるのだ。ついグラグラとくる。
一度、本気で社員になろうかというところまで行った。自分のお得意さんリストを作り、誘ってきた業者の社長に渡した。しかし、こちらが入ったら、年配の社員を1人切ると聞いて、急遽やめにした。人手が足りないのではなくて、その社員が気に入らないからやめさせたあとの補充要因としてほしかったらしいのだ。しかし老人のクビを切るのに使われるのはまっぴらごめんだった。その老人を知っていたから、なおさらだ。特段仲よくはなかったが、老人はカツカツの生活で、仕事に愛着があることを知っていた。また、口うるさいから他で雇ってくれないことまで知っていた。そこの社長が、「あいつ口うるさくて腹立つんだよ」という気持ちは分かる。でもその老人が社会とのつながりを断つ引き鉄になるのは、なんとも寝覚めが悪い。だから最後の最後に、断った。
まぁこまめに動いて仕事も丁寧で、人の手伝いもよくしていたから、他にもそういった話はあった。でもそれは、自分の利益として跳ね返ってくるから、という部分が大きい。やはり社員になってしまったら、手を抜いても受け取る額は同じなのだから、テキトーにやってしまうことになるはずだ。逆に言えば、今、使えねー社員だとレッテル貼られてる人でも、個人事業主にしてしまえば、見違えるように働く場合もあると思う。少なくとも、社員になった途端に、失敗したなと雇い主から思われる率はかなり高かったと思う。
ケガのときには、そういう誘いがあるだろうからと、あまり大げさに包帯などしないようにしていた。やはり、自分の気持ちが揺れるのもイヤだったので。でもそのせいでばい菌が入り、ブワッと腫れたことがあった。その貼れた患部の画像を撮ってあるが、それはとても載せられないです、なかなか強烈で……。
~おしまい~